結婚シミュレーション おひとり様な俺と彼女の疑似結婚生活

403μぐらむ

第1話

 20XX年現在。予てから危惧されていた日本の少子高齢社会は加速度的に進んでいた。

 さらに晩婚未婚傾向は常態化と言っても過言でない状況となっており、出生率の低下を議論する云々以前の問題として深刻さは増している。


 それに対し国も指を咥えて事態を見守っている場合ではなく、結婚や出産に関わる各種補助金などをバラ撒く異次元の施策をやってみるがどれもこれも空振りする始末。

 そもそも、その気のない若者たちに多少の補助金を与えたところで動くわけはなく、恋人すらいない、いらないとしている男女が街にはびこっているのが現実だった。


 これに業を煮やした政府が満を持して実施してきたのが一般呼称『結婚シミュレーション』と言われる学習プログラムだ。


 結婚シミュレーションとは、原則として高校2年生の6月から、8月の夏休み期間を除く12月までの約6ヶ月間、基本男女のペアで疑似夫婦になり結婚生活を疑似体験するといった内容の体験型学習プログラムとなる。

 結婚とは何たるかや夫や妻という存在のいるありがたさや社会的役割を知り、家族を持つことの意義や心の安定感を実際に体験してその機運を高めるのを目的としている。


 本施策は数年にわたる地方の特区でのテスト事業から始まり、幾度の改革改善を経て、全国規模へと展開されていくことになる。

 当該事業は当初専門家や学者からの評判は芳しくなく政府の思惑通りにそう簡単に行くものか、と酷評されていた。ところが蓋を開けてみると想定以上に好評を博しテストプログラムスタート時のカップルが後に実際に夫婦となるパターンも複数例確認されていた。


 そして本年度、第6回目の結婚シミュレーションが始まろうとしている。


 ♥


 俺、相馬結月そうまゆづきが通うのはとある地方都市にある私立麗星学園高等学校という学校。

 今は4月も半ばを過ぎた辺りで、クラス替えの喧騒もそろそろ落ち着いてきた時分である。


 2年C組、俺の所属するクラスの教室では今からLHRが始まるところ。とある案件が今日の議題と決まっていた。


「はい、皆さん静かに! これから配るのは国の施策で実行される体験型学習プログラム事業の概要冊子になりまーす」


 この教室の担任は見た目が幼いけど既にアラサーの可愛い系。いわゆるロリババアに近い。生徒からはユミちゃんと呼ばれる人気教師だ。彼女はなぜかいつも楽しそう。

 ユミちゃんから配られているA4サイズの冊子は、近年テレビやネットのニュースでも話題に事欠かないという、生徒がもっとも関心を寄せている体験プログラムについて書かれたものだ。


「なあ結月。ユミちゃんがさっき言っていたやつって例のアレだろ? とうとうオレにも念願の彼女ができるチャンスが来たぞ」


 興奮を隠すことなく俺に絡んでくるのが親友の園亦拓海そのまたたくみという男。ソワソワした感じで話しかけてくるが、はっきり言って邪魔だ。であるので悪いがガン無視で邪険にさせてもらう。


 俺はちょうどRPGの中ボス戦を繰り広げている最中。もう少しで敵のHP残量は30%を切り激昂モードに突入、抵抗反撃が苛烈になるという瀬戸際というところ。

 序盤戦での山場にいちいち拓海の戯言を聞いてやっているヒマはない。


 ホームルーム中にこんなことをやっていればどうなるかなんてことは火を見るよりも明らかなのはわかってはいるが、俺の手は止まらない。止められない。


 俺がそうやって机の下にスマホを隠してポチポチやっていると、背後からすっと手が伸びてきて手元のスマホは一瞬で奪い去られた。


「相馬く~ん。何をやっているのかなぁ? 今から先生が大事なお話をするところなんだけどなぁ~」


 結局俺は遊んでいるところをユミちゃんに見つかりスマホを取り上げられてしまった。画面には自慢のキャラが敵ボスのクリティカルな攻撃を喰らい瞬時に戦闘不能状態になっているが見えていた。

 当然、スマートフォンは没収。ついでに言えば放課後、反省文を書き終えないと返却もしてくれないというおまけ付きとなる。がっかりだ。


「俺、それには興味ないんで放っておいてくれてもいいです」

「だーめ。全員が対象になるんだから相馬くんだけ除外とかはないですよ。だからちゃ~んと聞いてね」


 ユミちゃんの目が笑っていなかったので、背筋が冷たくなるのを感じ早々に諦めて頬杖をつきながら資料が自分に回ってくるのを待つことにした。


「怒るとマジあの人怖いな……」



※―※

よろしくお願いします。

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