第7話 登校風景①

「ユウくん、おまたせ~~」


 朝の登校はユウくんと一緒にいく。だから、自宅ちかくの公園の入口でいつも待ちあわせしている。今日もユウくんが先にきて、待っていてくれた。


「今きたとこだよ」


 少女漫画でよくみる、恋人同士の待ちあわせシーンみたいな返事をユウくんがくれた。私の家のベランダからはこの公園が見える。サンダルの片づけがてらに公園をのぞき見たら、ユウくんがもう来ていたのは見えていた。だから、十分ぐらいは待たせていたはず。


「ホントかな~?」

「ふふ、本当だよ」


 ユウくんのやさしさには感謝しかない。小学校時代の終わりころ、ユウくんに告白されたあとぐらいから、待ちあわせて一緒に登校するようにしていた。そのときは朝食の用意とかいろいろをママがしてくれていたから、待たせるなんてなかった。でも今はママが仕事に出ることになって、私と真美の朝食の用意はしぶしぶだけど受けいれた……花よめ修業なんて、おだてられもしたけども。やってみて分かった。ごはんを作る時間はかなり必要なこと。ごはん作りを始めたころに比べたら早くできるようになっていても、まだユウくんを待たせてしまう。だから――


「毎日ありがとうね――行こう!」


 笑顔で感謝をつげて、ユウくんの手をとり、学校へ向けて歩きだす。ユウくんもつないだ手をにぎりかえして――私が道路の端側になるように、ユウくんは車道側を一緒に歩きだした。


   ◇◆◇


 近所の公園から幹線道路にむけて道なりに進む。ユウくんといるときの私は、けっこうおしゃべり。今は、ユウくんと私のカップルが学校の中でどれくらい知名度をえたか、について話題にしていた。


「こうして手つなぎで登校もしてるけど、ユウくんとはカップルだって知ってもらえてるかな?」

「う~ん、あの部活見学週間ほどの効果はないかな。中学校までの通学路で出会うのは、ぼくらと同じ、元穣紫野わらしの小学校のみんなだからね」


 ずっと一緒にいよう――という目標にむかって何をしようか、ユウくんと一緒に考えたとき思いついたのが、だれかにちょっかい掛けられないよう、先にカップル宣言してしまえというもの。ユウくんと同じ教室になれたから実行してみたのだけど、鈴城くんと清川さんの二人にカップルの話題をもっていかれた。おかげで私たちの1年5組のカップルといえば、その二人ということになった。


 だから次の作戦として、部活見学週間ではユウくんと手つなぎで回ってみた。結果のほどは隣の6組の小林凛子、通称リンちゃんに聞いてみたけど、やはり5組のカップルといえば鈴城くんと清川さんという認識は変わっていなかった。ソフトテニス部の盗さつ犯を捕まえた事件で鈴城くんが目立ったせいだろうって話で。清川さんのことを守ったのだと。


 5組で一番というのはあきらめたけれど、知られておけばちょっかいは減る、という見こみは変えずに、こうして登校のときも手つなぎは続けてる――入学式の次の日から手つなぎしてるのだけど。でもユウくんのいうとおり、もう知ってる人たちに見せても効果はうすいのだろう。違った作戦を考えないといけないのかな?


「もうすぐ四月も終わるね。何事も起きなかったと思うし、リオちゃんも思いつめなくていいんじゃないかな」


 ユウくんは根をつめ過ぎないように言ってくれる。四月も残ってるのは一週間もない。ゴールデンウィーク目前だ。それとも、私のことより、ユウくんの心は目の前の連休にいっているのかな? もし、そうなら問題だから――


「ふ~ん。もしかしてユウくん、私と手をつないだりするの、あきてるのかな~?」


 ちょっとジト目で『私への関心はなくなってる?』と問いかけてみた。


「そんなことないよ。いつも手はだケアに努力してることも知ってるし、その手に触れられるのは光栄だと思ってる」

「ホントかな~?」


 あせったように否定してスキンケアの努力をほめてくれた。それでも、からかいだと分かるようにつっこみ返すと、ユウくんはシラーっとした目でこっちを見てきた。つい二人で無言になって――


「「あははははは」」


 おかしくて爆笑した。


「本当だから、信じてね」

「うん、ごめんね」


 スネるユウくんも珍しい。からかいを続けると余計にスネるだろうから、私も素直に謝りの言葉を口にした。それにおしゃべりネタも、ゴールデンウィークという言葉も思いうかんだから話題を変えてみよう。カレンダーの配置はとっても微妙なゴールデンウィークなのだけど。


「そういえば、もうすぐゴールデンウィークだね。ユウくんは何か予定ある?」

「特には……ないかな。四月分って祝日の一日だけだね。五月一日からの五連休が本番みたいなカレンダーだよね。リオちゃんは?」

「私も決まった用事はないかな」


 何かないか記憶を探してみたようだけど、ユウくんには予定がないみたい。私も何か予定を決めてはいない。ママのお仕事しだいで、真美のお世話をしないといけないかもと思うから。もしも家を離れて遊びたいなら、自分からママにたしかめておかないといけなそうで。ならば、ママにたしかめる理由をつくってしまえ、ということで提案してみよう。ユウくんの耳もとに口をよせて小声で――


「それでね。よかったらだけど、デート――行かない?」


 ユウくんが少し驚いたふうな顔をして固まった。どうやら私から言いだされると思ってなかったみたい。だから――


「できたら、ぼくから言わせて欲しかったかな。リオちゃんから言われると、ぼくの立場ないから」


 ちょっと苦笑いになって不平を言ってきた。そうはいっても私もデートしたかったし、私はユウくんとのことは積極的でありたいし。と話ながら歩いてきたら、幹線道路を走る車の走行音が聞こえてくるところまで来ていた。


 近所の公園から幹線道路にむけて道なりに進むと、ゆるい左カーブのあとで右手側の下のほうに幹線道路が見えてくる。実はユウくんと私の家がある住宅地は市内まちなかより高い、台地状のちょっとした小山の上にある。なので、市内からつづく幹線道路は切り通しという地面を掘った道筋をなだらかに上ってくる。そして今歩いている場所は、ちょうど真下に幹線道路をとおるバスの停留所があって、道路づたいに歩くより近道な階段があるところだった。


 一度手つなぎをやめて、私から先に階段を降りだす。階段の幅はそれほど広くないので一人づつ降りる。ユウくんは少し間をおいて降りてきて、階段下の歩道で待つ私に手を差しだしながら――


「ゴールデンウィークにデート行こう。いつがイイかな? どこ行こうか?」


 デートに賛成してくれた。ユウくんとデートに行くと話せば、ママもゴールデンウィークの日すべてで、お仕事の予定を優先したりはしないだろう。妹の真美をお世話するだれかが家にいないといけないから。


「ママのお仕事、たしかめておくね。それで都合いい日を知らせるときに、いつにするか決めよ。それで行き先は――」


 デートが楽しみとユウくんに笑顔をむけつつ再び手をつなぎ、学校へむけて幹線道路の歩道を二人で歩きだした。

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