32

「愛しているんですね。めぐみさんのこと」

 しずくの作品集を閉じてのぞみ言った。

「愛している。出会ったときからずっと。今も。そしてこれからも」としずくは言った。

 その言葉を聞いてのぞみの胸の奥はちくちくした。

「聞かせてくれませんか? めぐみさんのこと」とのぞみは言った。

「めぐみのこと?」しずくは言う。

「はい。めぐみさんのこと。めぐみさんとしずくさんのこと。二人の出会いや大切な思い出のこと。私に教えてくれませんか?」とのぞみは言った。

 しずくは少しだけ迷っているようだった。

 でも少しして「じゃあコーヒーでも淹れようか? コーヒーでも飲みながらゆっくり話をしよう」とにっこりと笑ってそう言った。


「めぐみは僕のことをずっと大っ嫌いだって言っていた。出会ったときからずっとだ。気に入らないって言っていた。だから僕はめぐみに愛して守られるような自分になろうと思ったんだ」

「それは高校生のときのお話ですか?」のぞみは言う。

「そうだよ。高校生になって僕はめぐみと出会った。僕とめぐみは十六歳のときに出会い、十八歳のときに別れた。ちょうど高校の三年間。僕とめぐみは同じ時間を共有して生きていた」としずくは言った。

 のぞみがしずくと出会ったのも十六歳だった。違うのはしずくの年齢だった。しずくとめぐみは同じ十六歳のときに出会い、のぞみはそれから三年後のしずくが十八歳のときに出会った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る