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お風呂から出るとすぐに絵を描く作業を始めた。服が乾くまで、のぞみは着替え用の白い上着とお揃いのハーフパンツを履いていた。
「今日は雨が降っているね」とのぞみの絵を描きながらしずくは言った。
「はい。雨が降ってます」とのぞみは言った。
「雨から思い出すことはある?」しずくは言う。
「雨から? えっと雨は好きです。子どものころは雨が降ると心がわくわくしました」とのぞみは言った。(本当は今もだけど)
「雨が好きな理由はなに?」
「好きな理由? それはえっと」
そういえばどうして私は雨が好きなんだろう? とのぞみは思った。なにか特別な理由はない。雨の匂いとか、雰囲気とか、雨音とか、そう言うものが好きだった。
「僕も雨が好きだ。森に雨が降るとたまに絵を描くことを忘れてしまって、ぼんやりと森に降る雨の風景を眺めてしまうときがある」としずくは言った。
「わかります。その気持ち」のぞみは言う。
「雨の音。雨のリズム。それはまるで音楽のようだ。あるいはもともと音楽とは自然の奏でる音のことなのかもしれない。風の音。波の音。生命の音。足音。岩が砕ける音。氷山の割れる音。吹雪の音。雷の音。言葉もあるいは音楽かもしれない。そんな音が遠くから聞こえている。いろんな音だ。過去とあるいは未来の音。そらから動物たちの囁く言葉の音」
のぞみはそんなしずくの言葉を聞きながら、私の漕ぐ自転車の音。私の足音。私の呼吸。私の心音。ううん。音だけじゃない。私の匂いや、私の気配。私の気持ちや私の言葉もあらゆるものをこの場所に留めておきたいと思った。
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