晴れた日に森の中を散歩すると、いろんな幸せと出会うことができた。

「しずくさんは街の暮らしには戻らないんですか?」のぞみは言う。

「今のところはそのつもりはないよ。でもずっと森の中で暮らしているかどうかはわからない。街で暮らすこともあるかも知れない」しずくは言う。

 のぞみはさっきからずっとしずくの背中を見ながら歩いている。さっきから彼は一度ものぞみのほうを振り返ってみたりしない。しずくはずっと前だけを見ている。のぞみは愛用の自転車をハンドルを持って動かしながら歩いている。

「復帰はいつなの? コンサートやるんだよね」

 ようやくのぞみを見てしずくは言う。その顔は笑顔。

「はい。私の誕生日の日に久しぶりにコンサートをやります」とのぞみは言った。

「おめでとう」としずくは言った。(そのしずくの言葉を聞いただけでのぞみは泣きそうになった) 

「絵を描くことってやっぱりすごく難しいんですか?」笑うためにのぞみのは話題を変えてそう言った。

「そんなことはないよ。絵を描くことは全然難しいことじゃない」としずくは言った。

「しずくさんはどうして画家になろうって思ってんですか?」のぞみは言う。

「子供のころにある一枚の絵を見て、画家になろうと思った」としずくは言った。

「その一枚の絵を見て、しずくさんの人生は変わってんですね」とのぞみは言った。

「そうかも知れない。でも、その絵と出会っていなかったとしても、僕はきっとどこかで画家になろうって、そう思ったと思う」としずくは言った。

 そのしずくの言葉を聞いて、私はどうだろう? とのぞみは思った。

「今日はこの辺りにしようか」

 周囲の森の風景を見ながらしずくは言った。「はい。わかりました」そう言ってのぞみはいつものようにこれから数時間、動かないでじっとしていられるように心と体の準備をゆっくりと始めた。

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