第49話 愛されたかった娘
(雑魚がどれだけ束になったところで無駄よ……!)
「ああっ……! 力が
朱い魔石の効果は絶大だった。
どれだけ魔法のスペルを唱えても、体内の魔力が尽きることがない。いつもは苦労して呼び出している高位の氷の魔法も楽々発動させることができた。
無数の氷の槍が、矢が、次々にアザレア達へ向かって飛んでいく。
「はははは……! あっはははっ……!!」
多幸感に、笑いが止まらなくなる。
もう巨氷兵も必要ない。
この身さえあれば、自分が忌々しく思うものすべてを滅ぼすことができる。
(アザレア……)
炎の壁の向こう側にいるであろう、女の顔を思い浮かべる。
自分には一切何もしてくれなかった父が、あの女には文鳥を贈り、一流の魔法の教師をつけた。
自分には父との思い出がひとつもない。
だが、あの女には、父から贈り物をされたという事実がある。
(ゆるせない……)
ストメリナは父である大公から、いないものとして扱われてきた。叱られることはあっても、褒められたことはただの一度もない。とうぜん、謝られたことも。
記念式典が始まる前、大公はアザレアに謝罪していた。大公はアザレアのことを自分の娘だと認めていた。
(あんなお父様の声……聞いたことがなかったわ)
心から申し訳なく思っている。そんな声色だった。
認めたくはないが、あんな声、アザレアのことを本気で思っていなければ出せないだろう。
(認めたくない……)
自分が大公から愛されていないのに。
なぜ、なぜ、アザレアばかりが。
「ウバアアアアアア!!!」
心に悲しみが渦巻くほど、憎しみで満たされるほど、力が溢れ出てくる。
「死ねっっ!! アザレアァァァァーーーー!!」
ストメリナは両腕を突き出すと、手の先にありったけの魔力を込めた。水色の巨大な玉が現れる。玉からは稲妻のようなオーラが放たれていた。
(私はアザレアを倒し、イルダフネごとブルクハルト王国を滅ぼす……!! そうすれば、お父様は私を見てくださるはず……! いないものとして扱っていたことを謝ってくださるはずよ!)
ストメリナが自分に微笑みかける大公の姿を思い浮かべた、その時だった。
彼女は背中にズンッと重い衝撃を感じた。
「えっ……」
ふと、腹部を見る。
するとそこには深々と氷の槍が突き刺さっていた。
あまりの衝撃的な光景に、ストメリナは固まった。
(なにこれ……どういうこと……!?)
この場にいる人間で、氷の槍が使える人間は自分しかいないはずだ。
エレメンタルマスターに匹敵する能力を持つディルクは最初に倒した。
では、この氷の槍を呼び出したのは誰なのか。
ストメリナは恐る恐る振り向く。
そこには、彼女が愛されたいと願い続けている相手がいた。
「お、お父様……!?」
ストメリナが振り返ると、そこにはなんと大公がいた。
大公が、この氷の槍を呼び出し、突き刺したのだ。
「どうして……?」
(なぜ、どうして、私がお父様から氷の槍で突き刺されなくてはならないの……?)
ストメリナの両目から大粒の涙が溢れ落ちる。
と、同時に、彼女はその場に倒れ込んだ。
「ストメリナ!?」
ストメリナが放っていた魔法が消え、異変に気がついたアザレア達が駆け寄ってくる。
(おのれ……!)
ストメリナは魔法のスペルを唱えようとするも、無理だった。腹部を貫いた氷の槍は急激に体温を奪う。全身ががたがたと震える。出血も相当なもので、白い衣装が瞬く間に赤黒く染まっていく。
(私、まさか……死ぬの……? こんなところで……?)
「お、おとう……さま……助け、て……」
ストメリナは震える手を、大公へ向かって伸ばした。
だが、彼女の手が取られることはなく。
「ふぐっ!!」
大公はストメリナを蹴り上げる。
氷の槍の上部がぽきんと折れ、その上に大公は足を置いた。
(どうして……)
ストメリナを踏みつけ、見下ろす大公の目は、ぞっとするほど冷たいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます