恋心に傘を差す

荒屋 猫音

第1話

掛け合いセリフ集から生まれた声劇用短編台本。


一部改加筆修正


【登場人物】

先輩 ヘラヘラしているようで仕事はきっちりこなす

後輩 感情表現が苦手で自信に劣等感を感じている


男女不問

軽度なアドリブ○

語尾や一人称の変更○


台本使用の際の報告等は義務付けしておりません。

楽しんでご利用いただけましたら幸いです。



以下、本編。



後輩M/

朝、私の日課は1杯のコーヒーと、1枚のトーストを食べることから始まる。

その際には、大して内容の入ってこないニュース番組を聞き流し、信用していない天気予報を流し見て出勤する。


なるほど、午後からは雨が降るらしい。、


でも私は、今こんなに晴れているのに、いつ雨が降るんだ。


なんて、ひねくれた考えをするものだから、傘を持ち歩くことはしない。


雨が降ったらコンビニで傘を買えばいい。


...結果、溜まっていくビニール傘は、いつの間にか10本を超えようとしていた。



それでも傘を手に取ることなく、

今日も今日とて、午後からの降水確率70パーセントという文字を無視して職場へ向かう。



先輩M/

朝、俺の日課は寝癖まみれの髪を整えるべく、シャワーを浴びることから始まる。

シャワーの後は1杯の麦茶、身支度を済ませながら淹れたてのコーヒーを口に含み、ニュースに目を通す。


占いコーナーが終わり、天気予報になると

入社2年目の後輩の事が脳裏をよぎる。


きっとあの子は、どうせ雨なんて降らない。なんて言いながら、降水確率がどれだけ高かろうと、今降っていない雨に対して傘を用意するなんてことはしない。


わかりやすい性格なものだから、時々からかってしまう。


分かりやすく可愛い反応をするものだから

つい楽しくてからかっていると

子供扱いするな!と怒られる。


さて、今日も仕事だ。


____


同日、社内にて



後輩「先輩、資料のチェックをお願いします」


先輩「はいよー....後輩ちゃん、会議用の資料作るの慣れてきたね。見やすくなってて、内容もわかりやすい。」


後輩「ありがとう..ございます。」


先輩「えー...?褒めてるのに嬉しくなさそう....」


後輩「だって、先輩が素直に私を褒めるとか...なんか槍でも降ってきそう。」


先輩「失礼だな!ちゃんと褒めるよ!」


後輩「だって、先輩、私をからかうばっかりで褒めてくれたことなんてないじゃないですか」


先輩「あのねぇ、いくら俺でも、いい仕事した時は褒めるし、失敗したら慰めるぐらい出来るの!てか今褒めたよね!?後輩ちゃんは俺の事なんだと思ってるの?」


後輩「人で遊ぶひと」


先輩「あー..うん、、間違ってない。間違ってないけどね..」


後輩「ほら、自覚してる辺り、タチが悪いと思います。」


先輩「そんなこと言う後輩ちゃんには、この資料で次の会議でプレゼンをやってもらいます!」


後輩「え!?嫌ですよ!」


先輩「なら人の褒め言葉にケチつけないの!」



後輩‪M/

先輩には、私がこの会社に入社した時から

教育係としてお世話になっている。


よく笑って、上からも下からも人望があって、

仕事もムカつくくらい綺麗にやる人だ。


要領の悪い私は、先輩の仕事ぶりをどれだけ見ても真似する事はできず、それでも不器用なりに、先輩の真似事をしながら、何とかやってこれている。


悔しいけど、先輩が教育係じゃなかったら、私はすぐに根を上げて仕事を辞めていたと思う。



先輩M/

後輩ちゃんの教育係になって早2年。

不器用で、要領が少し悪くて、人より少し感情表現が苦手で

そんな後輩ちゃんが、俺の真似事をしていると気付いたのは

入社してししばらく経った頃だった。


まるで子供扱いばかりしていたのに、どうにもそれが悔しかったのか、目で見て、分からないことはちゃんと聞いて、

少しづつ仕事内容を理解して、気づいた時には俺が作る資料の作り方を真似ていた。


なるほど、きっとこれが親の背中を見て育つ。と言うやつか...

新人の教育なんて初めてのことで、どうしたらいいかわからず、まぁいつも通りやっていたはずなのに

いつの間にか、後輩ちゃんはしっかり成長してくれていた。


_____


昼。

食堂にて。


先輩「後輩ちゃんは、なんでこの会社入ったの?」


後輩「....今答えなきゃいけない事ですか...?」


先輩「今じゃなくてもいいけど、そういえば聞いたこと無かったなぁって思ってさ。言いたくないならいいよ」


後輩「....よくある話です..親がこの会社に入りたくて、でも入れなくて。子供に夢を押し付けて、ってやつです。だから、本当はこんなに長くここで働くつもりはなかったんです。」


先輩「ふーん.....なんで働き続けようと思ったの?(ニヤニヤしながら)」


後輩「......絶対に教えません!なんかムカつくんでそのえび天ください!」



先輩「えび天は俺の大好物なので、このちくわ天をあげよう」


先輩M/

肝心な二言目を絶対に言わない意固地な可愛い後輩。


後輩M/

次の言葉を、まるで知っているかのように聞いてくる意地悪な先輩


先輩、後輩

不思議と、この距離感が、お互いに心地よいと思う


先輩M/

なんて言ったら、どんな顔をするのかな。


後輩M/

なんて、絶対に言ってやらない。


______


後日

天気予報の降水確率80パーセント

会社の出入口




先輩「あららぁ、雨だねぇ」


後輩「....雨ですね。」


先輩「後輩ちゃん、傘は?」


後輩「天気予報信じてないから、持ってきてないです。」


先輩「うわぁ、折り畳み傘持ち歩くぐらいしな?社会人なんだから。てか、さすがに降水確率80パーセントは信じとこ?」


後輩「ぐうの音も出ません...」


先輩「つっても、俺も持ってる傘は折り畳み傘しかないんだよね、相合傘するには狭いし、後輩ちゃん、使いなよ。俺は濡れて帰るから」


後輩「いえ、コンビニで傘買って帰ります」


先輩「そうしてまた、コンビニのビニ傘が増える.....と」


後輩「.......」


先輩「先輩の言うことは聞くもんだよ?ほら、使いな」


後輩「それだと、先輩が濡れちゃうじゃないですか」


先輩「俺は身体丈夫だから、雨に濡れた程度で風邪ひいたりしないの」


後輩「.....なら、お借りします」


先輩「素直でよろしい」


後輩「あした、返します」


先輩「いいよ、そのまま持ってな。どーせ後輩ちゃんのことだから、返したらまた雨降った時に傘がないって言いかねないし」


後輩「先輩は、エスパーなんですか?」


先輩「行動が予測しやすいって言ってるの」


後輩「....なら、遠慮なく」


先輩「ん。じゃ、またあしたね」(走っていなくなる)


後輩「お疲れ様...です。(傘を収納袋から出すと1枚の紙切れ)

ん?....なんだこれ」


先輩「誕生日、おめでとう。」


後輩「....え、なんで誕生日知って......もぉお...!!!そーゆーところぉ」



先輩M/

幸か不幸か、偶然が必然か、後輩ちゃんの誕生日を知ったのはつい先日のことで、頑張って仕事をしている姿がやけに可愛くて、プレゼントを贈ろうと思った時には、既に足は雑貨屋に運ばれていて、目につく商品全てを後輩ちゃんが付けたら...なんて想像しながら...

けれど、あまり飾り気のない後輩ちゃんがアクセサリーを身につけている姿は、どうにも面白く思えてしまった。


ふさてどうしたものかと悩んでいると、

黒と赤が基調の折り畳み傘が目に入り、

考える事も、それを差している姿も想像することなく


さらには贈り物用のラッピングをすることもなく

その傘を購入していた。


プレゼントだと分かれば、あの子はきっと突き返してくるだろう。

だから、出来れば自然に、出来れば、誕生日に雨が降ることを祈って。


祈りは、天に届いたようだ。


後輩M/

以前の食堂でのやり取りの際、

私はテーブルに社員証を置いたまま仕事に戻ってしまって

名前と顔写真、更には生年月日が記載されいるその社員証を先輩が届けてくれたあの日。


あの日以外に、私の誕生日を知る機会はない。


誕生日だからって、自分で自分にプレゼントを買うような事も、誰かからプレゼントを貰うこともなく...


だから、あまりにも自然に私にプレゼントをしてきた先輩が

どんな気持ちでこれを買ったのか想像したら

仕事以上に悔しくなってしまった。


きっとあの人は、私がアクセサリーを付けることも

無駄に着飾ったりしないことを知っている。


だからこそ、選んだのが、これなのだ。



本当に、敵わない....。



____


後日、会議後、誰もいない屋上にて。


後輩「お疲れ様です」


先輩「おつかれー!会議の資料、プレゼン、共にパーフェクト!もう俺が居なくても簡単な資料作成とプレゼンは任せて大丈夫だね!」


後輩「いえ.....最終確認だけはしてもらわないと..誤字雑字、グラフ、概要も、要所要所の細かい内容も、まだまだ先輩の資料みたいには作れません」


先輩「そんな事ないよ、部長も褒めてた。」


後輩「.....」


先輩「後輩ちゃん?後輩ちゃんが頑張ってるのは、俺が1番よく知ってる。自分が周りより要領が悪くて、不器用で。

親の夢を押し付けられたにしては、後輩ちゃんはちゃんと自分のために頑張ってる。」


後輩「そんなことないです...私は、何でもそつなくこなす先輩にムカついてるだけです。」


先輩「ふーん、、俺が後輩ちゃんの原動力かぁ!」


後輩「そーゆーとこですよ!そーゆーとこが、ムカつくんです。入社した時から....ヘラヘラしてるのに仕事はきっちりやって、失敗なんか怖くないって顔して!」


先輩「...」


後輩「そんな先輩を見てたら、ムカつくんです、周りより劣っている自分が...自分に、悔しくなるんです」


先輩「後輩ちゃんのそーゆーとこは、嫌いじゃない」


後輩「またからかって..!」


先輩「でもね、俺だって初めはこんな会社すぐに辞めてやるって思いながら仕事してたんだよ?失敗だって何回もして、その度に怒られて、頭下げて、何やってんだーってさ」


後輩「.....」


先輩「でもね、今ここで逃げて、仮に別の会社に勤めて、もし同じことをやった時に、きっとまた俺は逃げる気がしたんだ」


先輩「どーせ他で同じ事やるんなら、今この会社で逃げずに歯ァ食いしばって、逃げずに仕事して、誰かに認められたら、俺の勝ち!って....そんなガキみたいなこと思いながら仕事してたんだ」


後輩「.....ほんとガキですね。」


先輩「辛辣だなぁ....まぁ、でも、そうやって仕事し続けてたから、後輩ちゃんに出会えて、後輩ちゃんと仕事が出来るんだから、やっぱり俺の勝ちかな」


後輩「....先輩、恥ずかしい事、言ってます....」


先輩「ん?」


後輩「....いつだったか....私がここで働き続ける理由を、聞きましたよね」


先輩「聞いたね、あの時は教えてくれなかったけど」


後輩「.......先輩が、いるからです」


後輩「先輩がいて、くれるから....です」


先輩「...俺、もしかして口説かれてる?」


後輩「なんでそうなるんですかァ!!」


先輩「あはははっ」



後輩M/

子供のように笑うこの人が、私の教育係ではなかったら

きっと私は、すぐに会社を辞めていただろう。


先輩M/

意地っ張りで頑張り屋の後輩ちゃんが

俺の後輩でなかったら、きっとこんなに楽しい日々は送れなかっただろう。


後輩M/

ムカつくくらい仕事が出来て、ヘラヘラしてて、

ムカつくくらい、面倒見がよくて


先輩M/

素直じゃない、けど、放っておいたら放っておいたで

なんだか目が離せない


後輩M/

きっとこの人じゃなかったら


先輩M/

きっと、この子じゃなかったら


先輩、後輩

きっと、こんなに楽しいと思える日々はやってこなかっただろう。



先輩「お..雨降ってきたねぇ」


後輩「雨..ですね」


先輩「後輩ちゃん、傘持ってる?」


後輩「....どこかの誰かさんが、返さなくていいと言った傘を...持ってます」


先輩「ふぅん?傘嫌いな後輩ちゃんに傘を持たせることが出来るなんて、どんなやつなのかなぁ??」


後輩「...そーゆーとこですよっ、ほんとにっっ!!」


先輩「あははっ、でも、使ってくれてるんだね、嬉しいよ」


後輩「折角の贈り物なので、使わないのは勿体ないじゃないですか。それに、社会人なんだから折りたたみ傘くらい持てって言ったの、先輩ですよ」


先輩「そんなことも言ったっけ、後輩ちゃんはよく覚えてるねぇ、俺の言ったこと」


後輩「.....むかつく」


先輩「むかついていいよ、どんな反応したって、後輩ちゃんは可愛いからね」


後輩「あー!もう!しらない!先に帰ります!」


先輩「待って待って、俺も帰るー!」



後輩M/

あの日から、流し見るだけだった天気予報の降水確率を気にするようになって、絶対に持ち歩かなかった傘を持つようになった。


傘を差すのが、嬉しくなった。


でもそんな事、絶対に言ってやらない。



先輩M/

俺は知ってる。

傘を差している時の後輩ちゃんの姿が

いつもより嬉しそうな事を、俺は知っている。


でも、そんなことを言ったら、

後輩ちゃんはそれこそ、俺が贈った傘を突き返してくるだろう。


だから、これは、絶対に言わない。


後輩M/

これが恋心だとしたら、

私はなんて簡単な女なんだろう。


先輩M/

これを恋心と呼ぶには、少し軽率すぎるだろう。


後輩M/

それでも、傘を差す度に、先輩の顔を思い出す。


先輩M/

それでも、雨が降る度に、後輩ちゃんの顔を思い浮かべる。


後輩M/

傘嫌いな私を変えた先輩。


先輩M/

不器用で可愛い後輩ちゃん


後輩M/

きっと私たちの距離は

傘を差している時ぐらいの、

触れるか触れないかぐらいの、

それくらいの距離感。


先輩M/

お互いに丁度いい距離感が、

きっと、傘を差した時の距離。


いつか同じ傘の中で、

笑い合える日が来たらいい。


なんて言ったら、後輩ちゃんはどんな顔をするだろう。


後輩M/

いつかこの傘の中で、笑い合える日がくるのだろうか..


そんなことを言ったら、

先輩はどんな顔をするだろう。



後輩「先輩、置いていくので、そこで雨に打たれて風邪ひいてください!」


先輩「はっはっは、俺は雨に打たれたぐらいで風邪をひくほど弱くないよ!」



後輩M/

雨が降る。

今日も私は、先輩に貰った傘の中で、

雨音に紛れながら

先輩を笑ってやるのだ。


_____

_____

_____

後日談。

_____

_____

_____


先輩「後輩ちゃんは、彼氏とか居ないの?」


後輩「.........セクハラで訴えますよ?」


先輩「まじか、この質問セクハラなの?」


後輩「少なくとも、私にはセクハラです」


後輩「....なんですか?急に」


先輩「んゃ?気になっただけ、こんな可愛い子放っておく男、いるのかなぁって」


後輩「放っておいて頂いて結構です.....」


先輩「またそう言うことを言って」


後輩「実際、彼氏が欲しいと思ったことがないので」


先輩「人肌恋しくならない?」


後輩「なりません」


先輩「寂しい時に声を聞きたい誰かとか」


後輩「いません」


先輩「........俺は?」


後輩「....は?」


先輩「俺に対して、そう思ったりしない?」


後輩「..........」


先輩「後輩ちゃん?」


後輩「なりません!!!」


先輩M/

そう言った後輩ちゃんは、耳まで真っ赤にして、全力で説得力の無い否定をした


後輩「だいたい、私が先輩に....とか、ないです!絶対ないです!」


先輩M/

その姿が可愛くて、もう少しイタズラしようと思ったけど、

大人な俺はあっさり引き下がってあげた。


先輩「あははぁ、ないかぁ。残念」


後輩「当たり前です!」


先輩M/

きっと穴があったら入りたい気持ちなのだろう、

後輩ちゃんの真っ赤な顔がやけに可愛くて

引き下がったはずなのに、

気がついたらキスをしていた。


後輩「.....!?」


先輩「可愛い後輩ちゃんが悪い」


後輩「ななななななな.......」


先輩「ダメだよ?他の男にそんな顔見せちゃ。食べられちゃうよ?」


後輩「せ....先輩以外に、見せる気ありません!!!」


後輩「.......え...私今、なんて言った....???」


先輩「やっぱり、君は可愛いね」


先輩「他の男に食われる前に、俺が食べてあげようか?」


後輩「絶対いやです!!!」


先輩M/

もう少し、もう少しだけ。

もう少し俺に絆されてくれたら、

本当に食ってしまうのに。


なるほど、俺は独占欲が強いらしい。


後輩ちゃん、

いつか諦めて、俺のになってよ。



後輩「.....っ!」


先輩「んっ!?」


後輩「......むかついたので、仕返しです。こんなこと、他の男の人になんか、絶対にやらないです」


先輩M/

煽るのが上手いのか、不器用だからなのか

後輩ちゃんはそう言って耳まで赤くしながら

ぶっきらぼうに、下手くそに、唇を押し付けてきた。


今すぐ押し倒すことはしない。


もう少し、傘の距離で、

たまに近づいて。


ゆっくり後輩ちゃんの傘の中に入り込もうとしよう。


______



きがついたら7000文字オーバー!?

ここまで読んで頂いてありがとうございました!

キュンキュンしたかどうかは別として、

手が勝手に動いて楽しかったです、、!


ありがとうございました!

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