第21話 オープンウォー 2
神に対するイメージは各々あるだろうが、少なくともそこにいた大多数の者が考えていたのは典型的な髭を蓄えた初老の男性だったりといかにもそれらしいものだった。
それだけに子供の姿をした何かが神を名乗るこの状況にホールは少しづつどよめきだす。その様子を、ヴィッグリアは見過ごさない。
『あ、今、私語は許してないからね』
ただ一言。だが言葉の中に不思議な圧があり、周囲の声はぴしゃりと途切れホールは静寂に包まれた。
『うん、いいね。じゃあ始めていこうかな』
ヴィッグリアが両手を広げると、ホールの空中に浮かんでいたホロディスプレイが6つに分裂する。そこには彼の顔を含め6つの顔が映し出された。いずれも同様に幼い子供の容姿をしている。
『君らの方は準備できているのかな?』
ヴィッグリアが声をかける。
『遅い。貴様が最後だ』
『うんむ。ぬし待ちじゃ』
そのうちの二人が彼を責める。
『仕方がないじゃあないか。こちらは集結地点が4つあるんだからセッティングには君らよりも時間がかかる。当たり前のことだろう?』
悪びれる様子もなくヴィッグリアは返答する。
『我、未だやることない、退屈』
『ねー、揃ったんだから始めなさいよ』
他の二人も声を上げる。促されて最後の一人が口を開く。
『オーケー』
ヴィッグリアはやり取りは意に介さずディスプレイに映る顔を指差す。
『彼がメクロム。今から後継戦について大事な話をしてくれるから聞き逃さないようにね。楽しみだねえ』
相変わらず口角だけで表情を作りながら話している。なんともいえない不気味な表情。
『ハロー、ぼくが創世神のメクロム。今回はお集まりいただいて感謝だよ』
メクロムを名乗る少年は愛嬌のある笑顔で挨拶をする。
『宣誓者諸君には後継戦を盛り上げてくれる事に大いに期待しているんだよ。
じゃあ早速、この壮大な後継戦争の大まかな概要と詳細についてぼくの口から直接説明してあげようと思うよ。ちゃんと聞いておくんだよ。それ!』
空中に投影されている情報が増える。それぞれの神の顔の下に名前と陣営名が表示され、他にもマップのようなもの、星図、様々なものが投影されている。
『まず、神々に割り当てられた陣営はランダムで抽選されたんだよ。それぞれの特徴なんかを今一度確認してみようね』
そう言うとまずはヴィッグリアの情報が拡大される。
『ヴィッグリア、君にはORCA星間同盟が割り当てられたんだよ』
『その通り』
『ORCAは拠点となる星が4つあって初期状態でのテリトリーも広いよ。
ただ、数が多いけどそれが意味するのは個々の強さがそれほどでもないってことだよ。それぞれ互いに足りないものを補ったり、協力して他と対抗するために群れて形をなしているんだよ。同盟だもんね。宣誓者の数もここが一番多いはずだよ。
そしてこの陣営、ヴィッグリアが戦争に勝利すれば、その時点で残存する宣誓者は所属を問わずみんな元の世界へ、元通りの姿で帰されることになるよ。これは大事だよ』
てん達は以前に同様の条件をウィンネスから説明されている。これは既出の情報。
そして今度は別の顔が拡大され情報が投影される。拡大されている画面に映るのは炎のような色合いの長い髪の毛をした少女だ。目つきは鋭く、表情も険しい。
『次にアリアオー、君はエンフェルノ連邦だね。』
『ああ』
『エンフェルノ連邦は拠点となる星はひとつだね。ただそれがとても強大。資源も豊富だし軍事力も高いよ。テリトリーはORCAに比べて初期状態では少なめだけど、本気出して攻めだすとどんどんひっくり返りそうだね。
この陣営が勝利したら、アリアオーの元で戦った宣誓者みんな今の姿のままで新しく作られる宇宙へ招待される。そこでとてもよい暮らしが約束されるんだよ。うん、ニューライフだね。』
『他は知らんがな』
アリアオーに促されてメクロムは忘れてた!といった表情で付け足し始める。
『ああごめんだよ。アリアオーの元で戦った、宣誓者だけだよ。それ以外はみんな消えてなくなる感じになるからよろしくだよ』
つまりエンフェルノ連邦が勝てば、他の陣営の宣誓者は皆死んでしまうということになる。ホールの中が先程よりも大きくざわつくが、ヴィッグリアは今度は何も言わず放置している。
『次はラムラエスト、ハーヴェスターリージョンだったよね』
『うんむ』
ラムラエスト、その外見は坊主頭の少年。細い目で、穏やかな表情をしている。
『ハーヴェスターリージョンは開拓団だよ。拠点となる星がなくて、巨大な移民開拓船を中心に構成された大船団だね。テリトリーも拠点となる場所も変動するからなかなか面白い動きができるんじゃないかなあと思うよ。
ラムラエストが勝てば、その時点で残存しているすべての宣誓者はそのままこの宇宙で自由になるよ。あとは好きに生きてねって感じだよ』
ハーヴェスターリージョンが勝てばただ戦争が終わる、だけ。この世界でそのまま、帰還は出来ないようだ。
『さぁ待たせたよヒドゥン』
『我、やることない。いつから?』
妙な区切りかたで話す少女は不満げに言う。顔は青白く、髪は長くところどころ丸まっており重たげ。全体的に暗い印象だ。
『ヒドゥンのところはまだ何もできないよ。宣誓者も割り当てられていない特殊陣営だよ』
『我、それは把握済み。大事なのはいつから?』
『ある程度戦争が進んだら手勢が揃うよ。戦いが進めば進むほど、そこで生まれた負のエネルギーが溜まって、強くて面白い君の軍勢を形作るんだよ。
だから他の皆の頑張り次第な部分もあると思うよ。それにじっくり様子見した後にかき乱せるからそこで鬱憤は晴れるはずだよ』
『つまり我、まだしばらく、暇?』
『そうなるよ。あ、ちなみにヒドゥンの陣営はファントムフリートって名前になるからみんなよろしくだよ。宣誓者が所属してないから当然この陣営が勝利したらみんな滅ぼされちゃうんだよ。』
むすっとした顔でヒドゥンは引き下がる。
『じゃあ今度はトゥキトゥスだよ。君の陣営はシェルフィッシュ、ここにも宣誓者は割り当てられていない特殊陣営だよ』
『んー、そーね』
ベリーショートの浅黒い少女はもう飽きたような表情で返答する。目線は明後日を向いている。
『シェルフィッシュは無人兵器で構成された軍団だよ。どこかにいくつかあるハイブプラントから色々な種類の機体がどんどん生産されて増え続けるけど、個々の力は今この話を聞いているみんなは知っての通り、大したことないんだよ』
これはカニやエビのことだろう。確かにこの世界に来てから幾度となく撃退している。
『強くない代わりに数で押せるんだよ。それに戦闘を繰り返せば繰り返すほどほんの少しづつだけど強くなるんだよ』
『はー? それにしたって弱すぎなんだけど?召喚直後から削っていいって話だったけど全然駄目だったじゃん』
口をとがらせて文句を言うトゥキトゥスをメクロムはなだめる。
(削る……?)
てんはトゥキトゥスの放った単語に引っかかる。召喚直後、何が起きているのか全くわからないあの混乱の中での攻撃。撃退こそしたものの、仮にあそこでパニックに陥って何もできなかったとしたらあの場で死んでいただろう。
『調整不足だったのは謝罪したんだよ。だから本来ならゲームスタート、ってなるところをここまで先延ばしにして、その間君にだけ攻撃行動を許可したんだよ』
『えー? でもあんま殺せてないみたいだしこっちだけ損してない?』
駄々をこねている子供に見えるが、話している内容は酷いものだ。ハンデとして、何も知らない状態の宣誓者に何度も不意打ちをしていたのだ。
ティキトゥスの口ぶりからすると撃退できずに破れ、命を失った者が少なからずいることが伺える。
『ヒドゥンと一緒で最初がつまらないだけだよ。時間が解決するはずだよ。あ、ちなみにシェルフィッシュが勝利しても宣誓者諸君は滅ぼされちゃうからよろしくだよ』
両手でチョキチョキとハサミのジェスチャーをして見せながらメクロムは笑顔で言い放つ。宣誓者はあくまでこの
『それじゃあ最後はぼくの陣営だよ』
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