第14話 サブスクライブ

「次の神命は現在の戦力を維持したまま、指定時間内にORCA星間同盟の加盟惑星のいずれかに到着すること」


 全体通信で周囲へ向けてウィンネスが語りかける。


「戦力を維持したまま?」


「ええ。これまで通り不明機の攻撃が予想されるわ。他の神属の宣誓者との接触はまだ制限中らしいからそこの心配はしなくても大丈夫よ」


「いずれかってことは行き先は俺らで話し合って決めりゃいいのか?」


「ええ。4惑星のうち好きなところを決めなさい。ただし、艦隊で意見を一致させて皆で到着するようにね」


 ORCAオルカ星間同盟とは4つの惑星からなる軍事同盟であり、

オデル(Odell)、 レクサント(Rexhant)、 シーマ(Cyma)、 アバ(Ava)、加盟惑星それぞれの頭文字をとって名付けられている。

 つまり、このうちにどこかに行けば良い訳だ。


『それだけ、なの?』


 せりなは伝えられた内容に疑問が残った。大前提としてこれは6つの勢力が参加する戦争である。しかし2つ目の神命の内容は、他の宣誓者との接触はない、指定場所へ向かえ、である。

 自分たちがやらされていることが未だこの世界でのチュートリアルの粋を出ていないという現実に不安を覚えてしまう。


「同時に情報の開示や、機能の開放などが進められたわ。艦でこれまでアクセスできなかった機能や装置が動くようになってたり、あなた達に伝えても良い情報が増えているといったところね」


 ウィンネスが手を振ると、様々な計器や表示のあるホロディスプレイがいくつも立ち上がった。同時に、宣誓者の腕に光るオースバンドも輝きを増す。


「今更になるけれど、最初の神命達成おめでとう。皆何か変化があるはずだから確認を怠らないように」


 手首を指でトントン叩いてオースバンドの展開を促す。各自情報を開き、何か変化がないかを調べ始める。


「能力の横に数字がついてるな」


 確かに、てんも指揮官適正に+1と数字が付け足されていたのを確認する。他の皆もそれぞれ何かしらに数値が盛られているようだった。


「神命達成時もそうだけど、あなた達は活躍を見せたり、経験に応じて成長する可能性を秘めているのよ。元々持っていた適正能力に補正がかかったり何か新しく得たり、そういった事が起こりえるわ」


 話を聞きながらてんは項目を動かしてみると、さらなる変化に気が付いた。


「ウィンネス、登録者が増えてるんだけどこれって?」


 ◆登録者数:3000

 ◆SC保有:3


 登録者数、SC保有どちらも増えている。登録者数というのはチャンネル登録者のことだろう。だが何故数値に変動があるのだろうか。3000という数字は前回確認した際の2倍である。


「さっき言った活躍、に関する部分ね」


 ウィンネスが手を振ると大型のディスプレイがいくつも現れた。そこにはてんだけではなくその話を聞いている全員の姿があり、それぞれ先の戦いでの活躍が映し出されていた。


「え……なにこれ?」


 主観視点、第三者視点、誰に撮影されたのかそれぞれの映像はカメラワークが多彩な上に編集された物のように見える。


「あなた達宣誓者は皆、その活躍を常に配信されている」


 ウィンネスは映し出されている映像を1つクローズアップする。てんのものだ。

過去に遡ったものが含まれているのだろう。デルに呼びかけられて目を覚ました、初めての戦闘。集結地点目前の初めてのチーム戦、そして先のシンデン達との共闘。

 いずれもてんの目線から見たものやてんに対してカメラを向けたのであろうシーンが含まれている。だが、撮影されている覚えなど全くない。


「映像は、全てあなた達についているオースバンドを通じて記録、配信がされいる。私がこっそり隠し撮りしているわけじゃあないからそこは承知しておいて頂戴」


 てんは左手首を凝視する。機械的な機能はなさそう、というよりやはり単に光の帯だ。カメラなどではなく何か不思議な力で記録されているのだろう。


「あなた達の世界ではこれまで通りそれぞれの配信が続いている。そしてそれを見て、応援をしたいと登録してくれた人達が数字となってあなた達の力の一助になるの。この世界での戦いがある種のショーとしてまとめられて、見世物にされているのよ」


 その説明を聞いて、腑に落ちない部分がある。


「でもそれおかしいよ。こんな事になって、普通に配信なんてしてるわけなんてないのに……」


「その通りだ。俺等はむこうじゃ突然行方不明になってる筈だ。それなのにみんなして呑気にゲーム配信やってるなんて到底信じられるわけ無い。騒ぎになってそれどころじゃなくなるだろ」


 おやつとシンデンが疑問をぶつける。確かに、姿を消したのに配信をしているなんてありえない話だ。そんな状態で普通に視聴者が配信を見て、これまで通りチャンネル登録をしたりするなんてことは考えにくい。


「何て言ったらいいのかしら」


 ウィンネスは少し口ごもる。


「向こうの世界ではあなた達は配信者として記憶はされているけれど、個人としては存在しない……そんな状態に一時的に改変されているのよ」


「え?」


 どういう意味なのだろうか、と皆理解が追いつかない。


「あなた達の世界も、この世界も、前代の創世神メクロムの都合がいいようにある程度人々の記憶なんかも改竄されているのよ」


 ウィンネスはてんの目の前まで歩み寄ると、人差し指を胸に突きつけてさらに付け加えるように言う。


「つまり配信者としての姿は視聴者の記憶に残っているしこれからも存在していく。けれど中身、本当のあなたは一時的にあの世界では存在しないことになっている。視聴者はもちろん、家族にも、友人、関係者にもいなくなったことや、それによって起こる問題が全く認識されない、異常な状態にされているの」


 他の皆にも目配せをする。


「誰であってもそう。この子のように正体を明かしていない場合じゃなく、顔も名前もそのままという場合でも例外はないのよ」

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