RE スタート
ほしのしずく
第1話 失われた夢
私は
京都府内に住んでいるどこにでもいる30代のOL。
でも、私には人と違うところがあった。
それは私の心はからっぽだったことだ。
幼い頃から、親の顔色ばかり窺い好きな事、将来の夢、自分の気持ち、その全てを真っ黒に塗りつぶしてきた。
その結果がこれだ。
何事にも親の考えが入ることでやる気や気力が削がれ中途半端。
その影響かはわからないが、細かな物事すら自分の意志でやり切った事もない。
もちろん、熱中する趣味すら持たない。
その上、自分がない。
きっと、私が普通の家庭生まれていれば幼い頃の思い出は充実していたんだと思う。
例えば、毎日泥だらけになりながらも近所の子供と公園で遊んだり、そこで仲良くなった友人の家でゲームしたり、自分の家で誕生日パーティなど。
その後、小中学校と幼馴染みや小さな頃に出会った友人と仲を深める。
そして、自分の進路や将来の夢など少しずつ両親や友人、担任の先生と具体的な話をして高校へ進学。
今度は、部活や恋の話をして普通に学生時代を過ごす。
そんなこと経て自分の生きる道を見つける。
こうして
こんな
だけど、私は違った。
自分を装い嫌いな人間とも、分かり合える。
人間はみんな友達になれると思っていた。
いや、思っていたではなく刷り込まれていた。
そう親に。
人間は皆平等、平和が全て、他人の為に動くことが正義。
だから、私は――。
それを信じて、他人の為に生きてきた。
幼い頃から、道端で困っている人がいれば声を掛け、ボランティア活動の募集があれば積極的に参加した。
それは学生になってからも続いた。小学校・中学・高校ずっと――。
私は歌を唄うこと漫画やアニメが大好きだった。
歌詞には1つ人生が書かれていて漫画やアニメもそうだった。
まるでここではない”別の世界”に浸っている。
そんな感じがしていた。
だから、本当は他人の為に人生を使いたくなかった。
歌詞に書かれている主人公のように世界の色を体全体で感じ旅をして。
漫画で描かれている登場人物達のようにさまざま人達と出会いそこで恋する。
そして、アニメのキャラクター達のようにいきいきと表情豊かに生きたかった。
そんなことを幼い頃から、ずっと思い描き続けてきた。
こうやってひとりでに語っている私も一度だけ両親に夢を語った時があった。
それは私が6歳の誕生日を迎えた頃
当時、流行っていたアニメに夢中だった。
そのアニメのタイトルはマジカル少女キラ。
ストーリーは、とても単純で世界が悪の組織に脅かされて混沌とする中、魔法で姿を変え、身分を隠した王女が悪の組織を退治していくお話だ。
普段お城を出れない王女が魔法を使い、さまざま人と出会い悪の組織を退治していく痛快なストーリーが好きだった。
それにそのお話は毎話決まってハッピーエンド。
だから、そのアニメが放映している時間はテレビにかじりついていた。
そんなある日、私が口にしたなにげない言葉。
「ママ~! パパ―! あたちね、おうたうたって、おそらとぶんだー! それでね、いろんなとこいくの! キラちゃんみたいに!」
ただ、主人公キラに憧れて口にしただけだった。
だけど、その言葉を聞いた両親に、「……それは不可能だ」と言われた。
今でも、その表情はしっかりと私の脳裏に焼きついている。
呆れ? 軽蔑? 否定?
そんな感情の籠もった視線を私へ向けてきた。
急変した両親の態度に、当時の私は幼いながらも”この事は口にしてはいけないとなんだ”と思い、2度と口にすることはなくなった。
幼い頃の私は信じていた。
キラちゃんのようになれると。
誰だってあるでしょう?
魔法が使えて空も飛べて姿も変えれる。そんな世界を信じていたあのキラキラと輝いていた日が。
それが大人になるにつれて、現実味を帯びていき、声優や漫画家またはアニメーターのようにやりたい仕事へと変化していく。
そして、それがいつしか自分の本当の将来の夢となり。
これが世の中の正規ルートで、このレールの上に乗ることでやっと夢を抱くことができる。
でも、私には無理だった。
完全に諦めてしまった。
きっと、それくらいで諦める夢なら、はなから実現するわけがないという人もいるだろう。
だけど、当時の私にとって親の存在は、とても大きかった。
だから、その一言がきっかけで私の夢は潰えることになった。
そのせいか、小中高と学校で同年代の子達が夢を語り合っていることを羨ましく思っていた。
だって、ずっと……。
親の言う通りに生き、他人尽くしてきた私より、きらきらとした笑顔を浮かべていたからだ。
でも、当時の私はその事を嘲笑っていた。
そんな夢を語ったところで実現するわけがないと。
馬鹿らしい。時間の無駄だ。所詮、傷の舐め合い。とも思っていた。
まるで、あの時幼い私の夢を一蹴した両親のように。
だけど、同時に胸の奥が痛かった。
蓋をしたはずなのに、幼い頃の自分が語りかけてくるような気がしていた。
「行かなくていいの?」と。
今思えば、あの時、あの瞬間に私が持てるポケット程の大きさのちっぽけ勇気を振り絞って声を掛けていれば、何かが変わっていたのかも知れない。
でも、当時の私は――。
自分を偽り、もう一度心(幼い自分)に蓋をした。
そして、その思い出(幼い自分)も2度と浮かばないように、真っ黒に塗りつぶした。
そんな私もちゃんと高校を出て就職はした。
それも自分の意志なんて1つもない。
高校選びは、お金のかからない公立一択で。
やりたいことを見つけての進学や仲のいい友人と一緒に行きたいからなんて夢のまた夢。
それでも高校生活では日常的な会話やボランティアに励むことを肯定してくれる優しい友人とも出逢う事ができた。
だけど、その当時はまだスマホを持つことを許可されていなかったので、連絡先を交換することはなかった。
いや、違う。
まだ何処かでこの人達と私は違う! と意地を張っていたのかも知れない。
だから、私を歪な私を肯定してくれる友人とも距離を置いた。
その頃の私は自分は特別な存在なんだ。と思い込む事で自分を守ろうとしたのかも知れない。
からっぽの心であることを気づかないように。
近くにいる誰かに気づかれないように。
とにかく差し障りのない。
青春と呼ぶには程遠い高校生活を過ごし私は高校を卒業し。
その後、大学はお金がかかるから就職した方がいいという親の考えに準じた。
当時の担任の先生や近所の人からは、親思いの素敵な子という自分の理想とはかけ離れた色眼鏡で見られるようになっていた。
だけど、人間は不思議な物で言われ続けると自分はこういう人間なんだと信じ込んでしまう。
私もその1人。
昔の自分を忘れた立派な
そうして、
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