第20話 今気づくことなのかな?
「ちょっ……っ」
「れろっ、ちゅぷっ、ちゅるっ、」
私が少しだけ手のひらを舐めると、啓介くんは想像以上に可愛い声を上げた。
今まで一方的に脇の下とか、足とかを一時間くらい触られ続けて、今まで感じなかったような感覚を覚えさせられたので、これはその仕返しだった。
そう思って、私は少しだけいやらしく啓介くんの手のひらとか指を舌で舐めたり、咥えたりしていた。
上目遣いでその反応を見ながら、少しでも弱いと思った所を確実に。
「え、恵理っ、ちょっ、まっ」
「れろっ、ちゅるっ、ぴちゃっ」
指と指の間が弱いんだと分かると、手の甲側から指の間に唇を付けて、下から舐めげるようにして必要以上にゆっくりと舌を這わせた。
「っ! くっ……」
「れーろっ、ちゅっ」
いつの間にか夢中に啓介くんの手を舐めていて、私の息は熱くなっていた。でも、それ以上に声を漏らしていたのは啓介くんの方だったと思う。
上目遣いで啓介くんをじっと見つめると、啓介くんはベッドに逃げようとした。
私はそれを見て、啓介くんの手を掴んだまま舐めることをやめようとしなかった。
まだ私がされた時間の何分の一も経ってない。だから、私にはもっと責める権利があるのだ。
そんなことを思って指とか手のひらを舐めていると、強引に手を引き抜かれてしまった。
「ほ、本当にダメだっ!」
「え……あっ」
逃げていった手を掴もうとしたところで、不意に啓介くんに引き寄せられて、そのまま抱きしめられてしまった。
え?
「はぁっ、はっ……」
息を荒くした啓介くんは私を強く抱きしめていた。これ以上動けないように、拘束でもするかのように。
あれ? 私、今なにしてた?
啓介くんの手とか指とか凄い舐めてなかった? いや、でも、それは啓介くんが私の脇とか足を触ってきたからその仕返しでーー仕返しで、舌を使ってたくさん舐めたの?
……それって、やり過ぎじゃない?
いやいや、どう考えもやり過ぎでしょ。え、なに今の? なんか、変なスイッチが入れられたみたいに、知らない熱に動かされてる感じだった。
いや、違う違う。私は今わんちゃんになってるっていう設定だから、仕方がなくて、だから、夢中になってたくさん啓介くんの手を舐めちゃって……。
どうしよう。否定ができないくらい変態みたいな行為してしまった。
その結果、息を切らして心臓の音がこっちにまで聞こえてくるくらいに強く抱きしめられている。
息遣いと心臓の音で興奮が凄い伝わってきて、力強く抱きしめられているという状況。
これって、もしかして、このままそういうことされちゃう流れ?
いや、人の鼓動ってこんなにはっきりと聞こえることないんじゃないの?
少しだけ心を落ち着かせてみると、やけにその心臓の音が近すぎたことが分かった。それもそのはず、この音は啓介君の心臓の音ではなかったのだから。
あれ? これって私の心臓の音? うそ?! 大き過ぎない?!
確かに、ここ最近ずっと啓介くんにえっちなことをするように言われて、その度にドキドキはしていた。
毎晩、明日はどんなことをさせられるんだろうと思っていたし、熱視線を向けられるのも悪い気はしなかった。
けど、啓介くんは幼馴染で、啓介くんがそんな目で私を見ていないことは分かっていて。
それだというのに、色々と考えれば考えるほど心臓の音はうるさくなっていって、その気持ちを認めさせようとしてくる。
胸に強く顔を埋めるような体勢のせいで、少し息をするだけで啓介くんの香りに包まれている状況。
どうせバレることはないだろうと思って、私は少しだけ大きく息を吸ってみた。
鼻腔をくすぐる香りと、熱いくらいなのに落ち着く体温が無理やり伝えられてきて、私はずっと気づかないフリをしていたその気持ちを無視できなくなってしまった。
日々積み重なってきた想いは見ないフリをしても大きくなっていき、ふとした疑問に気づいてしまうと、もうどうすることもできなくなる。
それが催眠をかけられているという設定中という、ふざけた状態だったとしても。
……どうしよう、この気持ち。
そんなことを考えて、私は催眠にかかったフリをしながら、少しだけ深く啓介くんの胸に顔を埋めるのだった。
今この瞬間だけは、催眠アプリの存在に甘えることにした。
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