おいしいアルバイト
「お前さ、日商二級もってるじゃん」
「はい」
「だから簿記教えてやってよ」
「唐突すね。いいっすけど」
「じゃあよろしく」
「いやいや、もっと詳しく教えて下さいよ」
康太にそう言われテーブルの下に隠してあった資料をおもむろに菓子の上に広げた。康太は手にとって内容を事細かに読み始めた。
「教育サポーターのアルバイト?」
「そうだ、桜高校と大学が提携を結ぶための懸け橋として優秀な学生を送り込むことになった。そこで桜高校の校長先生から硬式野球部の学生を一人よこしてくれと言われたんだよ」
「それで、僕に白羽の矢が立ったと」
「そんなところだな」
康太はパウンドケーキを貪りながら、資料の概要を確認した。授業はあくまでもサポート役に徹し、実際に教壇に立つわけではないらしい。イメージ的には教室を見渡しながら、問題が分からない生徒がいたら近くに行って教えてあげればいいらしい。三枚に渡る資料の中でも康太が目を引いたのは時給の欄だ。
「先生、これ一時間二千円ってまじですか」
「そこに書かれているなら本当だろうな」
一時間二千円で三時間週四回。単純計算しても月十二万近くは稼ぐことが出来る。
「やりますよ、こんなおいしいバイト! いやぁむしろありがとうございます。僕はてっきり面倒ごとを押し付けられると思ってまして」
「それは良かった。コーヒーのおかわりはいかが?」
「いただきます」
ちょうど湯気が上がったポットに視線を移し、石坂先生はにこにこしながら腰を上げた。
「で、いつからなんすか? このアルバイトは?」
「今日の午後三時から説明会だよ」
あぁそうすかと言いながら康太は時間を確認するため壁にかけてあるアナログ時計に目を移した。
二時二分。
おぉぉぉぉぉぃ!
「ちょっと! 突然すぎるでしょ!」
「大きな声を出すな、大丈夫だよ北春日部の駅まで送ってやるから」
「あんたねぇ、高校って幸手市にあるんだろ? 電車調べたのか?」
「あぁうるさいなぁ調べたよ、調べたら30分の電車に乗れば五分前に幸手駅につく」
石坂先生は、ハンガーに吊るされたジャケットの内ポケットからスマホを取り出し調べた証拠に北春日部から幸手までの電車の時刻表を自慢げに見せてくる。康太はイライラしながらもグッと感情を抑えて深呼吸した。
「分かりましたよ、ところで学校は駅前にあるんすか?」
「えっ、あ」
「あって」
石坂先生の表情は一瞬で険しくなる。
「ごめん、それは計算に入れていなかった」
「案の定じゃないっすか!」
二人は慌てて研究室を飛び出した。
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