たんぽぽの花咲く丘で

池町ゆうみ

プロローグ

 わたしは井之坂花恵。母は売れっ子作家だ。私には父がいない。母は作家になる前に父と大恋愛に落ち、私を身ごもったが結婚前に父が事故で急にこの世を去ってしまった。母は悲しみにくれたが、私を一人で育てる決意をし、色々な仕事をしながらコツコツと小説を書き溜め、ネットで掲載していた。その一つがとある出版社に認められ、母はプロの作家として生計を立てられるようになったのを機に小さなアパートから引っ越しすることにした。幼かった私を連れて引っ越した先の家は小さな一軒家。都会から離れてはいたけど割りと交通の便が良く、学校や図書館、商店街も歩いて行ける範囲にあった。そして何より私が気にいったのが家の裏にある小高い丘。公園ではないけど、春には黄色いタンポポが一斉に咲き、眩しいほどだった。わたしは母が仕事で部屋にこもる時は、邪魔をしないように裏の丘で遊んでいた。タンポポの綿毛を吹いたり、花冠を作ったり…。そうして季節はめぐり、私が高校生になった時に初めて訪れた突然の出会いがやってきた。

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