第11話 : 王族と一緒の昼食
これは学校の食事なのでしょうか。
本格的なものではありませんが、簡易なコース料理となっていて、前菜や主菜が幾つか選べ、更にはパンが食べ放題でデザートも付くそうです。
流石に時間の関係上、順次提供ではないと断られましたが、学校に限らず教会でこんな食事を摂ったのは記憶にありません。
昨日までのお昼は豪華だったとは言え、ランチボックスに入ったサンドイッチとサラダが殆どでした。それだけでも私には充分だったのですが。
「さ、食べましょう」
ベルスト様が用意されたサラダを食べ始めます。
私が知るサラダは、レタスや人参などを湯通しした温野菜のサラダです。これは寄生虫対策で温めるのです。ですから野菜は生だと食べてはいけないと言われています。しかし……
目の前にあるのは全て生野菜、それを何の躊躇いもなく口に入れています。
と言うことは、もの凄い衛生管理がされていると言うことです。どれほど洗ったのでしょう。
私はスープを口に運びます。
カボチャの冷製スープだと言われますが、もちろん素材はそれだけではなく、カボチャの香りこそするもののとても複雑な──私の経験からは表現できない──味が口の中に広がります。
美味しい不味いという言葉で語るのが憚られるような複雑な味です。これまたもの凄い手間が掛かったいることは私でも分かります。
王族という人達は毎食こういう物を食べているのでしょうか。単純に驚きを隠せません。
「どういたしました」
スープを一口飲んだだけで手が止まっている私にシェリー様が声を掛けてくれます。
味に感動していたと素直に返せば、これで驚いていたら食事ができなくなると言われましたから王族にとっては当たり前のことなのでしょう。
「とはいえ、いつもこういうものばかりを食べている訳でもないです」
シェリー様の話だと、市民生活を知らないで王族なぞ務まる訳はなく、王宮でも来客との会食でない時はかなり質素な食事もする──と言うか、それが殆ど──という話でした。
そんな食事に関する会話をしていたら昼休みが終わり、午後からは教室ではなく、各自の魔法適性に応じた実技の勉強をするのだそうです。
この学校では、魔法属性よりもそれを活用するための適性が重視される教育をされているのです。
ベルスト様は武闘系と防御系、シェリー様は感知系と付与系の魔法が使えるのだそうです。
全系統が使える私はどこへ行けば良いかというと、『祝祭の聖女』であることが分からないようにと授業では治療系と付与系を学んでおくようにとエミーニア先生から言われています。その他は全て放課後に他の先生方からの個人レッスンで対応するとのこと。
貴女が武闘系や防御系の魔法を学校で披露したら大変なことになるとも言われています。
治療系の魔法を教えている教室に行けば既に殆どの生徒が着席していました。
席は自由だと教えられていましたが、何故か最前列中央に誘導されると間髪入れずに先生が教室に入ってきました。
「今年も引き続き治療系を担当するラリッサだ。仕上げの年になるから内容も格段に高度になる。一生懸命勉強して、実践的な魔法使いになって欲しい」
ふくよかさを感じる体形に群青の髪をした女性が、ハッキリした口調で挨拶をされました。
「それとアンジェ、途中編入だと大変だろうけど、しっかりと着いてくるように。以上だ」
私のことはどう聞いているのでしょう。『祝祭の聖女』であることは多くの人に隠されているはずですし、挨拶を聞く限りはこちらから特に注意することもなさそうです。
しかし、既に名前が知れているとは……
「今年は実践だ。これから治療院に行く」
ラリッサ先生に連れて行かれたのは学校に隣接されている治療院です。
治療系の魔法使いは卒業後、この治療院で一年程度現場を学び、その後領地である地元の教会や病院等で活躍される方が多いそうです。もちろん高位貴族だとそうならない人もいるみたいですけど、そんな人達でも実家で事業や福祉活動の一環で治療活動をする機会があるらしいので、教える側も習う方も手は抜けないと思います。
歩いて移動していると、後ろから声が聞こえてきます。
「アンジェさんの詳しい出自を知ってる?」
「いえ」
「そんな無名な人が王族の隣に座るなんて、裏に何があるのでしょう」
わざと聞こえるように言っているのか、どこか棘がある感じの声がしています。
「着いたぞ。看護服に着替えるように」
私達は生徒なので、看護服と言ってもライトグリーンの割烹着のようなものをかぶるだけです。
「それじゃ、処置室へ入るぞ」
先生の案内で教会の隣に設けられている広い処置室へ入っていきました。
そこでの景色は私が見慣れているものと大差なかったのですが、他の方にとっては……
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