第21話 この国の島の歴史なんて何処もある話でしょ?




秋になる頃。

従姉夫婦が庭の草刈りに

来てくれた。


もちろん 夏の初盆には

親戚が来る為、草刈りを

してくれるようになる

なのに

再び庭はジャングル化(汗)。

庭の屋敷神祠も

埋もれてしまった。


そもそも

最初の遺品整理の時も、

家の中は

例の何でも屋に頼んで

おいて

自分達はシコタマ草刈りを

していたぐらいだ。


野生に帰化したアロエが、

それこそトトロみたいに、

もしくは

妖怪マリモ状態になって

庭の主と化していたのだから。


「これが、

パワースポットのエネルギー

なのか?というべき生命力?」


という程の

庭のジャンル化問題は、

以後延々と繰り返される。


さて、

「こんにちわあ↓

今日も片付けにきたよぉ↓」


秋になる頃には

他の従兄弟達が20人で泊まりに

来たりしていたので、

草刈りはもっぱら

親戚にお願いをするように

なっていた。


「おお、お嬢!来とったか。」


「約束通り、また倉庫の片付け

するよー。どこからいこか?」


そしてHP代わりに、

島の家のLINE公式アカウントも

作成。


DIYリフォームも目鼻が立ち、

友達も呼ぶようになっていた。

KEYBOXを設置して

本格的に

プライベートゲストハウスを

やりはじめたのだ。


もちろん条例の関係で、

公にゲストハウスは出来ない。

だから、友達や

親戚、家族から交友関係のある

間柄に向けてになる。


なので

代金は『投げ銭』に決定。


玄関に投げ銭箱を置いて、

入れる入れない、

金額も自由にした。

投げ銭自体も、

島の家で使う寄付金扱いにする。


そして

公式アカウントを立ち上げた

理由は他にもある。

そのきっかけが、

お隣さんの倉庫掃除に

あったわけで、、


「うお!こんな昔の冷蔵庫とか

も、まだ置いてるん!」


倉庫には時代物の骨董品やら、

雑誌、写真に本が

山と積まれていたのだな、

これが。


「お嬢、これこれ。

大学の先生ぇが

発表した時のぉヤツよぉ。

そいでからこんれがテレビに

出た時のよぉ。見れっか?

貸したるでよぉ。

これも出しとここぉー?。」


軍手をはめて、

手を付ける山から出てくるのは、

昔の島の写真や、

研究にきた教授の発表冊子に、

テレビ番組の収録ビデオ。


中には集落の方言を体系化した

記録なんかもある。

ペラペラとめくると、

面白いことに

島の言葉には、

フランス語みたいに男性助詞、

女性助詞みたいなのもある

と書いてある。


「え?!これって舞台?

映画館?こんな大きいのが

あったん?どこ?ここ?」


「んあー、これなあホレ、

通りの魚屋んとこ駐車場ある

が?あっこよ。劇場ばあって、

でかかってんなあ。そうよ

回り舞台よぉ。天井桟敷もな。」


お隣りさんが更に

アルバムを出してくる。


ふと

島の家で草刈りをする、

従姉夫婦には悪いなあと

思いつつ、

出されたジュースを飲みながら、

山積みの写真をめくる。


驚くことに狭い集落に

帯びただしい 人の数が見える。

今の集落からは考えられない

幟はためく劇場に、銭湯の数。

そして、絵葉書があった。


「これって、ここらへんの風景

ハガキ?でもなんか変?」


「ああ、それなあ合成よ。

昔はここらは検閲が厳しかった

よって。子供らが絵日記するんも

ぜーんぶ検閲とおしたんど?」


「検閲って?」


「ここら軍の基地やった

よってなあ。出入りも厳しい

検問あってなあ。簡単に出れんのよー。」


出されたのは

集落の土地や戸籍をも、

軍が接収管理しているとわかる

書類。

なんでこんなにも?だ。


「ここは西日本1番の

要所基地やでなあ。

海の重要監視地点やったんど。」


ー!!!


同時に頭の引き出しに入れて

いたままの

叔母の言葉が思い出される。


『あんたらのお爺さんは、

基地の管理をしとってんよ。

あん頃は戦争でええ思いを

した時代やってな。』



島の男衆は船を扱う。


それが故に、

島の男子は大勢

海軍に籍をおいていた。

げんに、うちの本家の長男、

祖父の兄は海軍で戦死している。


かたや

叔母や親戚で語られない祖父。

わずかな祖父の話で

唯一聞いたのは、

確かに

基地管理をしていたとの内容。


「それを探しに大学の先生ぇが

わざわざきよってから。わー

が連れていんでなあ。」


そして今も

基地遺構が島に残るが

大半は戦局が厳しくなる中で

埋め隠されたらしい。

お隣さんは

幼少の記憶を元に、

埋め隠された基地さえも

捜索し見つけていたと

小さな暴露をした。


集落の人口が爆発的になっていた

理由は、隠された基地として

動員兵が収集されていたから。


こんなに狭い集落に銭湯が7件。

異常な状態だ。


とわいえ

この国の島には、

どこでも似た話はある。

それこそ毒ガスの製造や、

密林部隊の夜光虫の育成をした

島だってある。

島自体を思想犯の牢に変えた話も

あったはずだ。


それに比べれば、

今回みたいな

基地話は、島あるあるの範疇。


ただ、ふと引っかかる。


祖母は、

やたら読経が出来るようにと、

わたし達をしこんでいた。

それは『おじゅつさん』が

来ない状況を体験したからでは

ないだろうか?


普通、戦時中の方がいい思いを

したと記憶するのは、

主に食糧。


それが優先的支給される立場に

祖父がいたのは確かだろう。

でも父は、

漁師の子供らは

アワビで日銭を稼げたのが

羨ましかったと

話ている。

きっと終戦以降の困難時の

思い出のはず。

そこには

冷遇された様なニュアンスも

あった。


集落を叔母を助けてくれた人を

訪ねて歩いた時に、

陰で聞いた気がする。


『ほんでも 目くらて、

あないは罰やでなあ。』


てっきり

犬神家並みの双子事情から

そんな風に言われたのかと、

叔母の出生の秘密から推測した

けれど、

ここにきて1つの事に

気が付いた。


そう、わたしが知る祖父は

失明していた。


でも目が見えない人間が

監視基地の管理をしていた

はずがない。


我が島の親戚が

やたら家族意識が強いくせに、

全員島から出て行った理由。


そして父が島に帰りたがらない

理由が見えた気がした。



こうして

わたしは島の家の

公式アカウントにお隣さんの

倉庫から掘り出した話を

島の家の記憶として、

載せることにした。




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