第17話 かつがれる?知ってる?

 島には独特の風習が

あるなんて話はあるあるだが、

家のある島にも幾つかある。

その1つ。

年頃の女子の1人歩きには

注意が必要。 


いつ『かつがれる』か

分からないのだ。


いわゆる『担がれる』。

もはや

『さらわれる』じゃないかと

思う風習。


集落の男子が、

友人の片思い相手を総動員で

文字通り

『担いで連れて行く』のだ。

 

そして男子たちが、

相手の女子の歯にお歯黒を塗る。


塗ると言うが、

そんな丁寧な代物などではなく、

口に含んだお歯黒墨を、

相手の口目掛けて吹くのだ(汗)


百歩譲って、

どうして好きな本人が

担がないのだ?

何の友人愛なのだろう?


本人は良いのか?

友人の唾液が好いた相手の口に

吹かれる行いを。


儀式的な意味や、

なんやかんやもあるのだろうが。

 

お歯黒は既婚者の証。


この行為で事実上、

相手の女子をお手付きならぬ、

お墨付きにする次第。


これが昭和の始めまであった

のだと聞いた。

どこの田舎にでも

あるのかもしれないが、

聞いた時には

秘境の部族の話かと思った。


「国内の秘境がココにある、、」


もう、こんな事されるなら

早目に結婚する方が

イイと思う程だ。

たまったもんじゃない。


で、只今目下、ご近所島民に


「あれよぉ、

だあれんがぁ腰入りかぁ?」


激しく嫁入り道具の搬入だと、

勘違いされている。


挙げ句。

引っ越し並みの荷物の中、

あの人物が『取り立て』に

来たのだ。


「先生ぇ〜のめいごさんなぁ。

すまんけんど、この分、

金貰えっか?玄関の床ぁ、

直したヤツどぉ?」


字面だけ見たら、

ヤクザな台詞しかない。

もしくはサギ?


と言いたいところだけれど、

島の家を売る相談をした時の事を

思い出して欲しい。


『先生とこ、ほんでも最近、

家直しとぉから、もったない』


 ↑↑↑

コレ!

美容院でチイママが

話していたネタね!


夜逃げ前に借金回収しにくる

取り立て屋さながら、

引っ越し荷物の行き交いを

耳に挟んだのだろう。

16万円の手書き領収書を

ヒラツかせて、

現れたのは白髪ダンディ。


「先生ぇにやぁ、随ぃ分

可愛がってもろうたでよぉ。

なんなあ、ゆ〜うたら、やれぇ

壁がぁとかなあ。そいでも

先生ぇ家なぁ、あとぁ屋根

だけぇ直したらあ、

あとぉ50年ばぁもつでぇ。」


 御年70。


集落の土建を

一手に引き受ける御仁だ。

息子も家業を継いでは

いるらしいが、

いかんせん島で70は若い分類。


この年で屋根直しをした際に

落下して入院していたとか。

それで3ヶ月も

請求に来れなかったと

愚痴られた。


「屋根は又の機会に。因みに

店のシャッターって、大分

ボロボロなんですけど、

直すとどれぐらいになります?

ガラス引き戸の

レールもなんですけど。」


かねてから考えていた

駄菓子屋のシャッターを相談。

 

遺品整理の時に心底思った。

外部からの業者に頼んでも、

集落に

工事車を停める事が

出来ないのだ。

確かに外部業者の方が安くなる。


けれど駐車便宜を

はかってもらうにも、

集落の中で仕事を頼む方が

効率が全然いいのだと、

ここに来て悟る。


それを今、

電気屋でも実感したのだ。

 

今回のゴールデンウイークに

島の家に入ると、

すっかり家電が設置されていた

のだから。


で、話は戻り。


「ええ!直すてかぁ。

30ぐらいやろが、もう埋めた

らどないやぁ?先生ぇにも

言うてたんやでぇ。もう店

せんのやし、コンクリで 塞ぎやあってなあ。」


「出来たら

店を残したいんですよ。」


「お!お嬢ちゃん、ここ住むん

かぁ?えぇ人おらいでか、紹介すっど?」


なぜ此処の人間は、

やたらと男を勧めるのだ!!


「あれ、○井さん!

先生とこの家直しでっか?」


弱冠辟易した雰囲気を

匂わせたところ。 

開け放した玄関から顔を

出したのは、

小洒落た感じにしてきた

電気屋という救世主!


「電気屋のか。ほなら、また

なんどあったら電話してなあ。」


 白髪ダンディは、

潔くお金を持って腰を上げて

行った。

やれやれだよ。


『毎度ー、荷物です!!

どんだけあるかな!』


そんな間にも、

例のイケメンアイドル顔の

配送お兄さんが、

山と積んだ台車を押して

玄関に来る。

 

なにせA○azon、

ベ○ーナ、コー○ン、ニ○リ、ニッ○ンに、

とどめのIK○A。


インテリア販売各所で

注文した家具やら、なんやらが

運び込まれるのだから。


しかも、狭い路地を、

1人で何度も

行き来するイケメン。

 

 ごめんね。


「良かったら、これ食べて。」


島に通う様になって

解ったのは、賄賂だ。


小洒落たスイーツの菓子折り

やら、ぷちグルメ。


これが喜ばれる。

 

そして、

支払いは上品な柄封筒に入れて。

意外にも、

この封筒を残してくれている人が多いのだ。


『いつも、あざっす!!』

 

ああ、日焼けの肌に白い歯が

光ってるよ!!

ついでに電気屋も

柄封筒に入れた現金回収ね!


『はい!63万!

端数はオマケしとくよって!』


端数オマケも島あるあるだなー。


さて、春先に『電気屋』に家電を頼んだ後。

わたしは本土の家で、

今度は島の家に入れる

家具の選別に勤しんだ。


もともと、

インテリ配置やDIY好きで、

雑誌や広告をスクラップしては、

インテリアBOOKにして

貯めていたのが

効を成したって話は蛇足かな?


まあ早速、趣味のBOOKを

開いて、

島の家の様子と合わせて

考えたわけなのだけれど。


「予算もあるけど、

ガラリと雰囲気を変える

DIYしちゃおっかなー!!」


「ウキウキだねー、お姉ぇ。

でも、それって親戚にも

聞いた方が、よくね?」


わたしがBOOKと

各インテリア販売ホームページを見ているのを、

妹が釘さしてくる。


「それもそうか。一応、

家のお金を全部預かった

様なもんだもんね。」


 妹の言うことは正論だ。


善は急げではないが、

従兄姉たちにLINEしてみれば

意外にも、、


『出来れば、

元の感じは残して欲しい。』

だった。


てっきり、

キレイにして欲しいのではと

思ったけれど、

島の家に思い出がある

従兄姉たちは一様に


『島の家の雰囲気が、

昔の自分に戻れる。』


とLINEに吹き出してきた。

秘境ではないはずの島の家。


夏と冬だけ

里帰りした父とわたしは、

比較的島の家との時間は少ない。


けれども

年の離れた従兄姉たちは違った。

 

大型の休みになれば島で過ごし、

大学生時代は

何ヶ月も島に滞在して車で

あちこち遊んだのを知っている。


わたしなどより、よっぽど 

島の家に愛着がある事を


ヒシヒシと感じた瞬間だった。





 

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