第9話 リアルヘビーメタルな葬送曲をBGMにしたようなもん
学生から社会人へ。
20代を過ぎて30代となり、
じゅうぶん人生の青春時代は
遠ざかって、
目先が分かる仕事をして、
何人目かの彼と結婚をして、
子供が生まれて、
子供も社会人になる。
そうすると
もう夏みたいな時間は終わって
あとは終演に向け、
今の延長線上にある生活を
とにかく健康に終えるよう
気を付けてとか思う。
そんな自分が間違いなくいる。
だから
90歳の叔母の気持ちや
生活は
全く未知の領域だった。
下手すれば、
いつだって人生が終わってしまう
かもしれない毎日で、
それを独り暮らしの島で過ごす。
想像すると、とてつもなく
恐くなる。
そんな叔母が突然ピリオドを
打ったことで、
今、
凄まじい騒音の中に、
わたしは、いる。
ガラガラガシャーーーーーーン!
バキバキバキバキ、、!!
ガタガタ、ウーーンガタガタ。
『そこの皿は全部庭で割って!
そしたらこっちに入れる!』
『あ、今日派遣の人。はじめて?
タスキの人に指示もらって。』
『照明は全部そのまま!テープ
貼ってるから!そっち、そ!』
舞い上がるホコリに、
容赦ない破壊。
ノンフィクションの破壊工作に
家が震えるのだから。
それも、重機など一切使わないで
人力で破壊するのだ。
「凄いな。」
思わず呟くと、
「今日夕方前に終わらせます!」
遺品整理の営業女子が、隣で
鼻の穴を膨らませる。
『2階家屋丸々で23万ですから。』
から?って何だ?
23万だから時間がないのか、
23万だから人員的のか、
それとも、、
壊し放題でいけ!!ってか?
「夕方、、には空っぽですか。」
「空っぽですよー。」
一応遺品整理スタッフらしく
グレーのパンツスーツを纏った
彼女は
二コリと営業スマイルを返した。
朝1番で
見積もりに来た彼女が
電卓を弾いて金額を告げると、
わたしは即座に
了解のサインをした。
躊躇も選択もない。
そもそも島には
遺品整理専門の業者など
いなくて眩暈がした。
とりあえず見つけた、
何でも屋のHPで
連絡をしたら
すぐに飛んできたのが
彼女だった。
顔合をわせて、
2時間後に即効
スピード整理に入るという。
「おねえ。遺品整理ってさ、
こんなヘビーな感じなの?
すごくない?もっとなんかさ、
思い出にひたりながらみたいな
感じでするって、思ったよ。」
営業の彼女が
車の手配に出たとこを
見計らってか、
後ろから
妹が目を白黒させて
耳を手で塞ぎながら
軽く批難してくる。
初七日を終えたら、
父は
そのまま帰ってしまい
遺品片付けは、
わたしに丸投げされた。
島の家は父が名義的に相続する。
母は難病で在宅看護中。
本来は
父の名代で妻が仕切るのを、
長女のわたしが
なし崩しに担うこと困惑だが、
仕方ない。
現状これから島の家を、
どう扱うかは
未定。
維持するのか?売るのか?
維持するなら有用利用するのか?
当面は塩漬けか?
どの手立てを考えるにしても、
一時的な拠点にするなら、
家の中を空っぽにすべきだと
最初の決断は、遺品整理。
とわいえ妹だって
明日しか島には居られない。
「ゴミ処理場の持ち込みが、
夕方までなんだって。それで、
急いでるんじゃないかな。
ま、時給もあるんでしょ。」
わたしは妹に一瞥しつつも
手元のノートに視線を落とした。
昨日の夜に持ち上がった問題、
それは。
『たった2人での遺品整理』
だった。
「あの薄暗い家で?無理だよ、
まじないよね。ムリムリ!」
妹は一蹴だ。
確かに、
遺品整理をしながら有価証券や、
アルバムの整理をして、
親戚に説明に備える資料を
纏めることを考えれば、
多少は金額がかかっても
専門業者に頼むのが
賢い。
そう決めて、
ホテルのパソコンで
検索を夜中にすること数時間。
「これ!いいじゃん!!
頼も!おねえ!何でも屋!」
見つからなければ、
役所に相談とも
若干あきらめ始めた時、
目に入ったのが
『何でもお手伝いします!!
ペット散歩。蜂駆除。倉庫掃除。畑仕事に、別荘管理etc.』
との謳い文句。
ガラガラガシャーーーーーーン!
バキバキバキバキ、、!!
ガタガタ、ウーーンガタガタ。
チェーンソーで箪笥をぶった切る音がする。
食器棚中の皿を庭で割りまくる。
畳める家具は、
力技で潰して、
衣類は全部ゴミ袋に突っ込み。
必要なモノのは
緑のテープと言われて、
電気が付かないと夜に困るから
照明だけテープする。
アルバムや写真と、
有価証券、貴金属は探し次第、
目の前に山にされていくのを、
妹が選別をしていく。
そんなカオスで読むのは、
死んだ
92歳の叔母がつけていた
学校の業務日記みたいなノート。
『あと、少しだから、
ここのも外に運び出してー。
あ、さっき車来ましたー。』
『え、これとかどうしたら、』
『何でもいいから、詰めていいっ
て。時間ないからさー。』
そこには90歳を過ぎた、
島で独り暮らしをする
老女の姿が
あぶり出されていた。
彼女が
およそ、文字通り 1世紀生きた場所から
全ての生活物品が叩き出される
騒音を
レクイエムにして。
叔母よ、ごめん。
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