第23話 密入星人

「それってあんまりペコ星で見ないね。」


店員に話しかけるのは指に吸盤と水かきがあり、おたまじゃくしが2本足で立っている様な感じの異星人。

地上では認識阻害の機械を使ってペコ人のふりをしている。


「まあ、この薬は条約で禁じられているからね。」


「めちゃくちゃ踊りのキレが良くなるんだけどその後6日間は身動き出来なくなるんだ。」


答える店員も頭に2本の触覚があってその触覚が手の代わりをしている。


第57星域ラウミ大水星人と第542星域のシヒグズ衛星人だ。


これらの星とは条約が結ばれていない。


実はこの様な密入星人はかなり以前からペコ星にいる。


アンダーグラウンドマーケット、UGMとかアグマって呼ばれている。


その名の通り地面の下にあって非合法地帯だ。


ああ、地下街じゃなくてその下、密入星人が何千年もかけて勝手に掘り返して作った空洞にできた異星人街だ。


「帝国と連合がやって来たのには驚いた。先に帝国が来てくれたおかげでなんとか見逃された。」


「だな、連合は融通が効かないからな。」


まあ法整備に力を入れたのは連合だから法を遵守させることには厳格かもしれない。


派手すぎて眩いぐらいのイルミネーションやサイン。


行き交う異形の異星人達で賑わっている。


異星人によってはペコ人よりも古くからここにいてここが地元って奴もいる。


「異星人種ってだけですっかりペコ人やしのう。」


すずめみたいな羽が生えたミジュグ星人が言う。


「家も店もすぐそこなのに何度も職質されたわ。」


「どこから来たって俺はペコ星生まれだっての。あひゃあひゃ。」


上の前歯が全然ない。


連合もあからさまに条例違反や敵対行動が無ければこれらの存在を積極的に取り締まることはない。


まあ、ここは第5種知性体惑星ペコ人の星だし、邪魔にならない限り第3者が首を突っ込むこともない。


ペコ星の治安部隊となるMPO=マッポ(Artificial Human maintaining public order)も同じ考えだ。


「あれ、あるかい?」


ラウミ大水星人が店員に聞く。


「あれか?あるけど高いし今どきあれやる奴って希少だぜ。」


店員のシヒグズ衛星人は答える。


「別に禁止されているわけじゃないだろう?マーケットはあるんだよ。あるだけくれよ。」


「ムズクヒス星系ケイ素人か?」


「なんだ、知ってんのか。」


「デマだよ。あいつら殆ど動かないし。お前が俺のところからあれを持ち出して取引の指定場所に行くと物凄くあれが嫌いな狂信者に囲まれてボコられて商品は燃やされてしまうんだよ。」


「え?」


「何人も命からがら戻って来て、お前グルだろうって俺に言うんだ。」


「あれの存在自体を病的に嫌っている狂信者がたくさんいるんだよ。」


元々は税収のために国策として普及させていたんだ。


一時はこの国でも8割の人間が服用していたぐらいだ。


ところが一部の種族が体に悪いだとか、服用してる奴のそばにいるだけで他人に健康被害を与えるとか言い出したんだ。


元々この星の人間は一部の人種の言う事を盲信する傾向が強かったから一気に服用する人間が悪者みたいになってしまったんだよ。


「エビデンスってやつがあるんだろう?」


「お前マーケティングってやつを信じるタイプなんか?」


「普通だろう?そうでなければ何を指針にして商売するんだ?」


「あれはな、あれに基づいて商売をするんじゃなくて、商売の都合に合わせてデータを作って客を説得する材料なんだよ。数字なんてどうにでもなるんだよ。」


店員のシヒグズ衛星人は鼻で笑っている。


ラウミ大水星人は釈然としない様子だ。


「お前逃げた方がいいぞ。」


「ラウミ大水星人は犯罪率が高いから注意する事って調査報告が出回っているぞ。」


「連合のマッポに見つかる前にな…。」






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