第21話 百花繚乱

「楽曲はトミさんでキャラクターはウメちゃん、後はアーフに編集させたらとりあえず形になるから,そこからブラッシュアップしていこうよ。」


実際の作業はアーフやAIがするのであっという間に出来上がる。


それでもクリエイター達はそれぞれのお気に入りのブースでコーヒーを飲んだり、お菓子を食べながらホールに無数に設置されたモニターを見てインスパイアされそうなコンテンツを無意識に探す。


出来上がったコンテンツはこの惑星ペコの収入源になる。


今は個人にいくらお金があってもなんでもかんでも無料なのでお金の使い道なんかない。


だから誰かが稼いだ分はペコ星人全ての生活や技術力のUPにつながる。


もっともクリエイターなんて人のためにはもちろん金のためになんかやっていない。


自己満足と承認欲求を満たすためにやっている。


舞台、映画、音楽、文学、絵画それから料理、漫才、コント、アニメ、漫画あらゆるエンターテイメントがサロンで発信される。


もちろん、こんな人の多いところに出て来る事が出来ない人もAI端末さえあれば自室で制作も発表も出来る。


この状況になってシンは人の多いところに出られないのではなく一元的な価値観でしか指導の出来なかった学校限定で行く事が出来なかった事がわかった。


といってシンに何か特技がある訳でもない。


誰も彼もが何かを作る訳ではない。

色んなコンテンツを見聞きして享受する、「いいね」したり「シェア」する。

この事もまた作ることと同様に必要な情報になる。


もしかしたらこの「享受する」と言う事こそ人間がすることなのかもしれない。


惑星ペコの主産業が芸術やエンターテイメントになると新しい分野の開発や元々エンターテイメントではなかったものに着目してコンテンツ化するなどさまざまな試みが自由に出来る様になった。


宇宙中にはさまざまな人種がいて価値観もさまざまだ。


高度知性体は全ての価値観を受け入れている。


まあ、どんなものがどんな種族のツボにハマるかは予測不能って事。


ついこの間、教科書の端っこに描いた走り書きみたいな絵が中央銀河の高度知性体の種族にバカウケして宇宙中に知れ渡ったところだ。


こんな事でもペコ星人ぐらいしかする人種がいない。


「どうかな?シン、これ面白い?」


アクルは一通り形になった動画を再生して不安そうに言う。


「うん、絵がすごくきれいで音楽もとっても心地よいしストーリーもなんだか沁みる。僕は好きだよ。」


「うん、そ、そうか。トミさんウメちゃんこれで公開しちゃう?」


「シンがそう言うならいいんじゃないか?ラドもうなづいているし。」


シンもラドもただ座ってお菓子を食べていただけなんだけどこの人たちはじゃまにしない。


シンはなんだかふわふわした気持ちになる。


そこにキミちゃん帝王様が通りかかる。


何を思ったのかシンの膝の上に座っていたラドをおろして自分が座る。


「ふーん。」とか言っている。


ラドが不満そうにキミちゃん帝王様を見上げている。


キミちゃん帝王様はそんなラドをひょいと持ち上げて自分の膝の上にのせる。


ラドは少し戸惑った様子だったけど振り返ってキミちゃん帝王様の顔を見上げるとにーっと唇を横に伸ばして笑った。


君たちはいいんだろうけど少し重い。


と考えたとたんにキミちゃん帝王様が振り返ってギロっと睨んだ。


「いえ、なんでもないです。」



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