魔人と謳われた種族
大きな港町に集まった人々の注目の的は手錠がかけられた俺ジャックと元国王のリアンの両名である。
俺達はこの船で大陸追放を受けることになり、回収はナーガの船が一旦ナーガ大陸へと受け入れることになった。
アンヌは数日遅れでナーガの病院へと送られることになり、そっちで合流することが約束されたが、周囲は混乱の真っただ中。
そうれはそうだろう。
勇者が死んだと聞いて、実は生きていて、その勇者が種族偽造をした疑いで大陸通報を受けるのだから。
何一つ問題が解決しないまま俺はこの大陸から追放されるわけだが、そんな中忙しいはずのドライ最高司祭がわざわざ現れた。
「おお。嫌いな儂等を出迎えてくれたのかの?」
「まさかだろう。罪状の読み上げなどのためだ。フン。真実を自分でつかむことでジャック。元勇者でありながらどうして貴様はナーガなのか。ナーガへと趣き知るといい。これは君へと返却する」
俺が持っていた大剣は近くにいたヒューマン族の船乗りがガッチリと握りしめるが、重すぎるようで引きずりながら入っていく。
「配慮感謝いたします。俺の両親とノアの村については寛大な配慮を要求いたします」
「勿論だ。君はナーガだ。君が選ばれた時、君の体を見た時その核心を得た。だから君が生きている可能性があるからこそアルノ最高司祭の独走を許し、君の出現を促した」
「そういう事ですか。そういう事なら教えておいて欲しかったですね」
「まだ君はヒューマン族だと信じ込まれていたし、討伐前に言えば君の村が酷い目に遭う可能性がある。だから言えなかった。さあ…始めよう」
冷たい目つきのまま多くのヒューマン族の前に立つドライ最高司祭、まるで恥ずかしさを感じさせないまま淡々と一枚の書状を読み上げた。
「元勇者ジャックとリアンは種族偽造をした疑いにより大陸追放を受けることになった。教会が認めない限りは彼らは大陸に足を踏み出すことは絶対に許さない事とする」
騎士が俺とリアンに「入れ」と小さく背中に触れ、俺達は促されるように船の中へと入っていく。
俺達が船に入ると船と陸地を繋いでいた橋桁が外され、船はゆっくりと大陸から離れていく。
次第に速度を上げていく船から見える大陸、手錠を付けていると本当の犯罪者に見える。
すると、町から離れた断崖絶壁に俺の両親が見えた。
船はまるで気を利かせたように少しだけ近づけた。
「ジャック! どうして!?」
「ごめん……俺。真実を探ってみるよ。なんで俺がナーガなのか。それを知りたいから…」
母さんは父さんの胸の中で大粒の涙を流しそのまま遠ざかっていく。
後ろには心配そうな顔をしている村人達の姿、悲痛な面持ちでそれを見守っているところを見ると、本当は直談判しに近づいて行ったがアンヌ達に止められたのだろう。
用意された簡単な服を身に纏っているが、前に来ていた服は俺が洞窟を吹っ飛ばした時に無くなってしまった。
皆が見えなくなった時、後ろから「お二人とも中に」と言いながらも俺達の手錠を外す。
船の中へと入っていき、まずはと用意された食事に手を付ける俺達。
「種族転生はまず起きないと言われてきたわけじゃ」
それがリアンが俺に語ったまず第一声だったわけだ。
ちなみにリアンが「儂ももはや国王家であるファンの名前を剥奪されておる」と言い俺に「リアンと呼んでほしい」と言った。
「だが。実際に俺と爺さんの身には起きている」
「理由は恐らく一つ。儂とお前さんの祖先にそれぞれドラゴン族とナーガ族が居るのじゃろう。そもそもヒューマン族が他種族との間の関係絶つ切っ掛けになったのは今から五百年前の大陸水没事件じゃ」
「確か海神が暴れたって言う事件?」
「そう。中央大陸が水没しそうになったわけじゃ。そもそも教会の権威が届くのはあの中央大陸の身で、外は通用せん。この船も外との交流に対しディフェンダーが用意している船なんじゃよ」
「じゃあ。乗組員は?」
「全員ディフェンダーじゃな。そもそもディフェンダーは外で発足された組織じゃしな」
フォークでレタスとトマトを同時に刺しそのまま口の中へと放り込む。
「で? ナーガってどんな種族?」
「もう一つの人族じゃと言えば分かり易いかの? 男性は代々『高身長の筋骨隆々で頭部は外れない鎧を被っている褐色肌』で女性は『種族ごとに異なるが基本は褐色肌に高身長の大きな乳がある」のが特徴じゃな。と言っても女性は男性ほど高くはならない」
「へぇ……」
「最もナーガ最大の特徴は無制限に魔力を構築し行使できるその体質じゃ。魔力全能はそこから来ており。あそこはお前さんと同じく魔力全能を持っている人間ばかりじゃと思え」
サラダを食い終えて俺はそのまま水で口の中をすっきりさせた後、用意されたフィッシュバーガーをかぶりつく。
リアンはそのまま丁寧にフォークとナイフで切って口へと運ぶ。
「でも。どうしてわかったんだ? 最高司祭は」
「まあ分からんでもないがな? いくら身を隠そうと体内は隠せんからな。魔力を作る器官があるのなら分かるし、ナーガは他の種族とは根本的に違う点がある」
「? 何?」
「ドラゴン族を除いてヒューマン族、オーク族、ホビット族は女性が出産をするじゃろ?」
「当然だろ?」
「ドラゴン族は単一種で女性しかおらん。それに対し、ナーガはその特殊な生い立ち上に男性が出産し女性が子育てを担当するんじゃ」
フィッシュバーガーを落としてしまい俺は「はい?」と聞いた。
「じゃから。男性が出産をするんじゃよ。お前が生むんじゃ」
「何故!?」
「男性は外敵から身を守るために体内に魔力を貯蔵するすべに長けており、同時に外に放出することが若干不得手じゃ。それに対し女性は子供が育てる体をしておるから子供に魔力を与えるために常時魔力を放出しており。女性は大気中にある魔力を使う術に長けておるわけじゃな?」
「それがどう理由になる!?」
「外に常時放出される女性、体内に魔力を溜め込み続ける男性。まだ魔力を十分作れない胎児が親から魔力を貰ううえで一番適しておるのは?」
俺はしっかり考えて、考え続けて歯噛みして、掌を額に押し付けながら意を決して言う。
「男性だ」
「その通り。出産中の期間は唯一男性が力を振るえなくなる期間でもあるわけじゃな。その時は女性が代わりに守るわけじゃ。昔っからナーガはそういう種族として生きてきたんじゃ」
「で、でもどうやって!? 俺あるぞ!? 大事な部分!」
「卵子が逆流するそうじゃぞ。魔力を常にもらう必要性があるしな。それ以外にも男性は色々と他の種とは違う点があるしな。面白いぞ。ナーガはお前さんにはあるわけじゃな…子宮が!」
それは悪魔のような微笑だった。
俺にもあるのか? 子宮が!?
認めたくねぇ…!!
「儂等のファン家の祖先に竜が力を与えたという記述があるから、その辺が儂がこうなった理由じゃな。まあ…この巨乳を好き放題出来ると考えれば大陸通報も惜しくないがな! 何より女性になれば女性をナンパしていても問題がないわけじゃ!!」
「問題大有りだ。このセクハラオヤジ! やったらシバくぞ!」
なんで俺がこんな爺を管理しないといけないんだ!?
「まあ儂らが行くのはナーガの拠点がある『ナーガ大陸』じゃな。中央大陸から内海を挟んで南東にある大陸じゃ」
「内陸。確か中央大陸の外に内海があって、北と南に東西に分かれて四つの大陸があるんだっか? そしてその内海の上には浮遊大陸っていうどこの種族にも属していない場所があり、四つの大陸の外に更に外海あるんだっけ?」
「その通りじゃ。ナーガは古くから自然と伝統と進化を目標に据えてきたわけじゃ。あそこは『最強』を名乗ることが許されている十将軍もおるんじゃよ?」
「そこが今の俺の…」
その先は飲み込んだ。
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