第252話 真・28階層1


 ヒドラがこちらを向いたとき、再度俺はヒドラの後方に転移して、そこからヒドラの右の首の付け根に近くに転移してシロを振った。俺がゆっくり自由落下していく間に金色の偽足の先に現れたクロちゃんが2回振られた。


 俺よりタマちゃんの力と速さが上回っていたようで、タマちゃんはクロちゃんの切っ先から剣身の根本まで全部使ってヒドラの真ん中と右の首元を切り裂いた。


 タマちゃんの作戦が見事に決まった!


 俺は再度部屋の角に転移して落下の衝撃に耐えた。今回は少し衝撃が強かったが大したことではなかった。


 3本の首の根元を大きくえぐられ、または切り裂かれたヒドラは宙に浮かんでいることができず、そのまま床に落下した。


 ドシャリという音がして、振動が足に伝わってきた。


 戦いのさなかどこに行っていたのか見えなくなっていたフィオナがいつの間にか戻ってきて俺の頭の上を回り始めた。


 ヒドラはこれまでのゲートキーパーと比べるとかなりレベルの高いゲートキーパーだった。

「タマちゃん、ヒドラが完全に死んだら収納してくれ」

「はい。

 主、クロちゃんです」

「サンキュウ」

 タマちゃんから受け取ったクロちゃんは一度タマちゃんの体中に入っていた関係か汚れなど全くないばかりかどこも傷んではいなかった。特性の『不壊』は伊達だてではなかったようだ。

 俺は安心してクロちゃんを背中の鞘に納めた。


 傷口から大量の血を流して床に伸びたヒドラだが、しばらく痙攣するように手足がわずかに動いていたがそのうち動かなくなった。


 タマちゃんがヒドラの胴体を収納したところ、床はヒドラの血で汚れブレスで何個所か溶けていたが部屋の中はいちおう片付いた。


 ヒドラの死骸があったその先に金の宝箱がいつの間にか現れていた。

 そして宝箱の向こうには26階層に続く上り階段ではなく、下の階層に続く下り階段だった。


「主、ヒドラの核です」


 タマちゃんが俺に手渡したヒドラの核はあのドラゴンの核と比べるとひと回りほど小さかった。

 強さ的にはこっちの方が強かったのかもしれないが、大差はなかった。

 あのドラゴンはボーナスだったと思っておこう。肉もおいしいし。

 ところで、このヒドラって食べられるよな。

 食べられないなら仕方ないけれど、食べられるのなら食べ比べしたいものだ。


 それはそうと、まずは金の宝箱の中身を確かめようじゃないか。

 さーて何が出てくるかな?


 開錠!

 宝箱を開ける魔法を意識したら、いつも通り展開図が開いて中から長さが15センチほどの白っぽい棒が出てきた。

「タマちゃん、鑑定指輪を出してくれるかい?」

「はい」


 タマちゃんに手渡された鑑定指輪を空いている指にはめてその棒を鑑定した。

『名称:スケルトンキー

種別:カギ

特性:このダンジョン内のすべてのカギを開けることができる』


 スケルトンキーか。この先お世話になるカギってことだよな。しかし、カギのくせに棒?


 このスケルトンキー、見た目は白いし、見た目以上に軽いから材質は文字通り何かの骨なのかもしれないが、摘まんだ指先の感覚では骨っぽさはなく脆そうでもなかった。カギ穴に突っ込んで折れてしまったらシャレにならないものな。


 金の宝箱は元の形に戻してタマちゃんに預けておいた。金は換金性が高いから売らずにとっておけばシュレアなどでは重宝しそうな気がする。


 鑑定指輪をはめたついでだったので、フィオナを右手に止まらせて鑑定してみたが、残念ながら進化していなかった。さっきのエッヘンは空耳だったのだろうか?


 俺自身の鑑定はそのうち。気が向いたら。多分二十歳くらいになってから鑑定しても遅くはないはず。

 しかし、ヒューマンプラスくらいなら少々おかしくてもそこまでおかしくないが、暇に任せて道行く人を鑑定していてたまたま『エイリアン』とか見つけてしまったらどうすればいいんだろう?

 エイリアンなら不法入国者なわけだからだから、パスポートもなければビザもない筈でどっかに通報しないといけないよな?


 じゃあ、どこに通報するんだ? 警察ってことはないようなあるような?

 俺自身学校の成績だけはいいのだが、こういった問題に対処する能力は極端に低い。言い方を変えればマニュアル人間だ。

 違う、そうじゃない。俺は正確にはマニュアル人間プラスだった。


 腕時計を見たら時刻は午前6時15分。さっきの戦いはそれほど時間を取っていなかった。

 一日が長い。


 とにかく、階段を下って真・28階層の様子を見てみるとしよう。

 俺の場合転移があるから何の問題もないのだが、一般冒険者は上り階段がなくなってしまったら驚くよなー。

 ここまでくる冒険者の数は限られるってところが唯一の救いかもしれない。


 階段を一段一段数えながら下りること60段。

 28階層に俺は下り立った。

 階段下の28階層は27階層の変化前の階段部屋と同じ感じの階段部屋で、階段の正面に扉がひとつあるだけの石室だった。


 ディテクトトラップを意識したところ、部屋の中いたるところに罠があった。実は俺の足の下にも赤い点滅があったのだが、レビテートの効果が続いていて罠を踏み抜かなかっただけだったようだ。桑原、桑原。

 やはりフェイルセーフは必要だな。


 ディテクトトラップについてはまだ持続していてもいいと思うが、階層をまたいだ関係で無効化してしまったのかもしれない。その代りレビテートは効いていてくれたようでラッキーだった。


 部屋の中にモンスターの気配はなかったディテクター×2を発動。

 視認できないモンスターもいないようだ。

 念のためもう一度レビテート。


 それでは扉を開けて、その先を見てみるとしよう。

 

 扉を押し開こうとしたら、カギ穴があった。さっそくスケルトンキーのお出ましだ。

 スケルトンキーの両端のうちどちらをカギ穴に差し込んでいいのか分からなかったのだが、適当にカギ穴に突っ込んだらカチリという音がした。カギっぽく回したわけではないがそれで開錠できたようだ。さすが。


 スケルトンキーを引き抜いてタマちゃんに預けてから、扉に手をかけて押してみたところ、結構重かった。まるで今まで誰も開けないまま何年も放っておいた扉みたいだ。


 やや本気になって力を込めて押し開いた先には大空洞が広がっていた。

 大空洞と言っても植物が生い茂って50メートル以上先は見えないので実際のところ言うほど大空洞なのかどうかは今のところ定かではない。


 見える範囲で地面の上には極彩色のコケやキノコ、そしてシダが繁って、太いツタが極彩色の葉の繁った大木からぶら下がって絡み合っている。

 そのせいで上を見上げても青空がかすかに見えるだけ。そのため太陽あるのかどうかも分からない。

 本物のジャングルなど見たことはないが、それよりもこちらの方が極彩色の分凶悪に見える。

 俺は長いものが苦手なんだが、ヘビっぽい何かがいかにも現れそうだ。


 さーて、探査方針はどうするか?

 やみくもに歩き回るか?

 フィオナレーダーで最初から下に続く階段を見つけるか?


 念のため再度ディテクトトラップを意識したところ、赤い点滅は目に付く範囲ではなかった。

 ではディテクター×2。


 音は何もしないのだが、俺のすぐ近くに何かいる!

 背中のクロちゃんを抜き放ち、わずかばかり感じる何者かの気配に向かってクロちゃんを振り切った。

 何かを切った手ごたえはなかったのだが『キェーーッ!』という悲鳴が聞こえ地面にこぶし大の核が転がった。

 核を拾った時気づいたのだが、俺の右手にはめていた『心の指輪』が青白く光っていた。見ていたらその光は少しずつ薄れてそのうち光は消えてしまった。


 もしかして、俺は何者かというか先ほど切り捨てた何かの精神攻撃を受けたのかもしれない。『心の指輪』をはめててよかった。

 さっきのレビテートといい運がよかった。

 しかし、見えない敵となると厄介だ。

 先ほどはわずかに気配を感じたからこそクロちゃんを振ることができたが、感じた気配はわずかなものだった。


 厄介な階層だ。ここは最短で抜けてしまおう。


 フィオナレーダー起動!

 

 フィオナがまっすぐ正面に向かってしばらく飛んで戻ってきた。まっすぐ進めばいいようだ。

 これならフィオナレーダーの出番は当分ないな。

 しかし、ツタとかが絡まって相当歩きにくい。

 ナタでもあればいいのだが、クロちゃんでは大きすぎてツタを払うにはかなり不向きだ。

 仕方ないのでサバイバルナイフを久しぶりに腰の鞘から抜いて道を切り開いて先に進んでいった。


 100メートルほど進んだところ見えないモンスターを切り飛ばした。そこで時計を見たら6時半だった。100メートル進むのに30分近くかかったことになる。

 これだと1キロ進むのに5時間かかってしまう。

 ナイフじゃなくって白銀のメイスにすればよかったとその時思ったのだが、わざわざ手を使わなくてもウィンドカッターで行けそうな気がした。

 


 試しにウィンドカッター!

 ウィンドカッターを一発撃てば15メートルほどの蔦やシダ、垂れ下がった木の枝などを薙ぎ払えるようだった。これは便利だ。


 ウィンドカッターであの見えないモンスターを切り刻めれば文句ないのだが、まず無理だろうな。

 さっきだって『あらゆる敵を断ち切る』クロちゃんだったからこそ斬り飛ばせただけだしな。


 ディテクター×2!


 これも地道にかけていないといつ襲われるか分からないから地味に面倒だ。


 今のところモンスターの反応はあるものの俺に向かって近づいてくるようなものはいないようだ。



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