第269話 タマちゃん5。氷川免許取得


 おむすびの昼食を終え、フィオナの手と顔を拭いてやり後片付けを終えた。

 タマちゃんは後片付けが終わったらすぐにリュックに入ったのだが、ヤドカリみたいで笑ってしまった。


 そのタマちゃんに漏斗とバケツを出してもらった俺は、部屋に置いてあったポリタンクと一緒に桟橋までいき、ポリタンクをいっぱいにして部屋に戻り台の上に置いておいた。

 

あるじ

 椅子に座っていたらリュックの中からタマちゃんが俺に話しかけてきた。

「タマちゃんどうした?」

「ポリタンクへの『治癒の水』の補充ですが、偽足で吸い上げた『治癒の水』を体内に収納しているポリタンクの中に直接入れることができます。

 主が漏斗とバケツでポリタンクに補充するより格段に速く補充できると思います。あと、偽足を池まで伸ばせばいいだけなのでここにいてもポリタンクの補充はできます」

 なんと!


「ポリタンクの予備ってまだあったっけ?」

「あとひとつ収納しています」

「うちの『治癒の水』も少なくなっているだろうから、試しにそのタンクに『治癒の水』を汲んでくれるかい?」

「はい」


 床に置いたリュックの中から金色の偽足が1本伸び、自分で扉を少し開けて、偽足はその先まで伸びていき、5秒ほどしたらその偽足が戻ってきた。

「主、タンクを一杯にしました」

 今までそれなりに大変な思いをして治癒の水をタンクに汲んでいたのだが、一体何なんだ。

 最初から天スラタマちゃんに丸投げしておけばよかった。


 そう思ったところでちょっとした疑念が浮かんだので、タマちゃんに聞いてみた。

「ところでタマちゃん」

「何でしょうか?」

「この部屋にテーブルとか椅子があるだろ?」

「はい」

「部材をつなげて作ったじゃないか」

「はい」

「もしかして最初からタマちゃんに適当にテーブルと椅子を作ってくれって頼んでいたら、作れてた?」

「いえ。あの時のわたしでは作れません」

「ということは、今のタマちゃんなら可能?」

「はい。可能です」

「もしかして、もしかしてだけど、今のタマちゃんなら、この半地下要塞も適当に作ってくれと頼めばつくれる?」

「金属とガラス部分の素材が手に入れば可能です」

「なんと!」

 天才はとどまるところを知らず。と、言ったところだな。

「時計も作れる?」

「最初からは無理ですが一度体内に取り込み、必要な素材があれば簡単にコピーを作れると思います」

「コピーできちゃうんだ」

「生き物は無理ですがそうでないものならたいていの物はコピー可能と思います」

「それって無機物限定じゃなくって有機物も可能?」

「生きているものでなければコピーできると思います」

「いま万能薬収納してもらってるじゃないか」

「はい」

「あれもコピーできる?」

「できると思いますが、瓶の素材、ガラスをいま持っていませんので何か他の容器に入れることになります。でもプラスチックの容器でいいならいつでも作ってお渡しできます」

 なんでもありは結構なことだが、これって、ホントにいいのだろうか? 悪くはないからいいことなんだとは思うが何だか空恐ろしいぞ。


「万能薬がコピーできるとなると、『治癒の水』もコピーできる?」

「治癒の水もコピーできます。素材として水を吸収すれば、より簡単にコピーできます」

「ということは、ここに汲みにこなくて、水を一杯にしたポリタンクさえあれば、それが『治癒の水』になるって事?」

「はい。その通りです」

 そうか。そうなのか。

 俺って400億近いお金持ってるけど、タマちゃんがいればこれから先、何もしなくてもSSSランクに成れちゃうぞ。

 まさかおむすびもコピーできてしまうのか?

 タマちゃんおむすび食べてるけど、自分でコピーしたおむすび食べるって何だか奇妙状態のような。

 ややこしくなるから聞かないでおこう。


「だいたい分かった。ありがとう」

「どういたしまして」

「そうだ。あとひとつ」

「何でしょうか?」

「鑑定指輪とか祈りの指輪とかの特殊アイテムもコピーできるのかい?」

「いえ、ああいったアイテムについては素材があってもコピーできません」

「大剣のクロも?」

「はい」

「よく分かった。ありがとう」

 今のタマちゃんの答えを聞いて、ある意味安心した。


 ここまでタマちゃんが優秀になるとは、斉藤さんたちに無理やり飼わされた時には1ミリも考えていなかった。

 本当にラッキーだった。

 いろんな意味で俺ってラッキーだよな。



 さーて、午後から何をしようか。


 取り立てて何もすることはない。

 仕方ないからシュレア屋敷に行ってコミック貸してもらおうか。

 さすがに勉強中を邪魔してコミックひとりで読んでちゃまずいよな。


「タマちゃん、ちょっと前にミアたちのためにコミック買ったじゃないか」

「はい。覚えています」

「コミックってコピーできる?」

「紙の素材のセルロースなどもありますしインクその他を作る素材もありますから簡単にコピーできます」

「そうか」

 明日の午前中には注文したコミックが届くからそれをシュレア屋敷に持っていって、それと一緒に向こうのコミックをコピーしてもらおう。

 俺の資産から言って新しくコミック買っても何の問題もないんだけど、時間も含めてもったいないって思っちゃうんだよな。


 全然関係ないけれど、来年の年賀状はタマちゃんに作ってもらおう。タマちゃんなら住所を教えれば適当に文面考えて年賀状くらい楽勝だろう。タマちゃん年賀状ライターだ!

 来年の年賀状書くのは今年年賀状をくれた4人しかいないけどな。


 そのあと俺は何もしないままハンモックに横になってボーっと考えていた。

 何をどう考えても俺に何ができるわけではないのだが、考えていたのは午前中のダンジョンコアのことだ。




 この日も早めにうちに帰った俺は台所に置いてあった治癒の水のポリタンクを今日タマちゃんが満杯にしてくれたポリタンクと取り換えておいた。



 夕食を食べて自室でスマホを見ていたら、氷川からメールが届いた。

 見ると、先日自動車の運転免許を取り、車が今日届いたという話だった。

 車種はロンドクルーザーとかいうSUVで中古だったそうだ。

 ロンドクルーザーってどういう車かちょっと調べたら悪路走破性抜群の大型車ということだった。

 なるほど。氷川が何を考えてロンドクルーザーを買ったのか分からないが、ちょうどいい。


『新しい車でドライブに行かないか? 行き先はこの前氷川を連れて行った大空間の27階層。自動車はタマちゃんに収納してもらって27階層に転移する。

 俺もほとんど探検していない未知の土地だから楽しいと思うぞ』


 送信したらすぐに返事が返ってきた。

『了解。悪路の走行を試したかったところだったんだ』


『いつにする?』


『わたしは明日でもいいぞ』


『俺は明日野暮用があるから、明後日でどうだ?』


『それでいい。ダンジョンセンターの一般駐車場で待ってる。赤ワイン色のSUVだから分かるだろう。わたしは車の横に立ってるから。時刻は8時でいいか?』


『わかった。明後日の午前8時、ダンジョンセンターの一般駐車場で赤ワイン色のSUV』


『うん。ところで何か必要なものはあるか?』


『武器は要らないが防具は身に着けておいてくれ。食事はこっちで用意するから用意しなくていい。あとは自分が必要と思うものと燃料だな』


『了解』


 氷川と新世界をドライブか。楽しみだなー。

 免許取りたての氷川だが、いかにオフロードとは言え、運動神経は悪くないし問題ないだろう。ドライブとなると少々悪路を走る方が面白そうだしな。


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