第234話 シュレア屋敷


 ミアが子分のカリンとレンカを連れて歓声を上げながら屋敷の探検に駆けて行った。

 そしたら俺の肩に止まっていたフィオナまで飛んで行ってしまった。


 身寄りのないままひとりで生きてきたはずミアだが、笑い顔が穏やかになったんじゃないか?

 勝手に連れ出してしまったが、ミアにとって悪いことではなかったはず。いや、ミアが心から良かったと思えるようにしてやる。俺の責任だものな。


 昼近くまで遊ばせておけばいいか。

 昼を食べ終わるころには図面もできていそうだし。

 ここにこうして立っていても仕方ないから護衛の自動人形も休眠装置も用意できているというから、先に運んでしまうか。


「ソフィア、俺はまた新館に戻って護衛と休眠装置を運んでくる」

「了解しました」


 書斎に転移したらアインがいた。どういう基準でアインが書斎にいるのか分からんな。

「アイン、屋敷用の護衛を連れてきてくれるか。休眠装置も一緒にな。向こうに運んでしまう」

「はい」


 5分ほどしてアインが戻ってきた。アインの後ろにはふたりの護衛がいてその護衛のひとりは休眠装置を載せた台車を押してきたようだ。

 もちろん護衛はちゃんとした顔を持っている。どちらも男性仕様のようだ。男の方が舐められないからな。

顔はもちろんだが体格もいい。

 

 ふたりとも革鎧のような防具を着けて腰にメイスを下げている。

 護衛はそれなりの能力があるという話だったが、賊が屋敷に侵入したからと言って問答無用で撲殺してはさすがにマズいと思うがどうなんだろう。

「この2体はミアの護衛を最優先し、賊などについては撃退するだけで賊に対して必要以上の危害を加えることはありません。通常は屋敷内の警備を行ないます」

 とのことだった。ちょっと安心した。まかり間違えれば使用者である俺の責任になるからな。

 ただ、今のアインの説明だと必要なら必要なことをするってことだよな。

 ミアに何かあった後では遅いから自業自得と思ってもらうしかないな。



 一応納得した俺は廊下に置かれた台車の上の休眠装置と休眠装置の上に載っていた予備のカイネタイトディスクをタマちゃんに収納してもらった。そういえば、自動人形をダンジョン庁に売り込もうと考えて用意してもらった自動人形と休眠装置がタマちゃんのお腹で宙ぶらりんだった。

 2地点間を結ぶ渦みたいな何かがないと俺が宅配便の作業員にならなくちゃいけなくなるから実用化できないけれど、あれもそろそろ何とかしたいところだ。


「アイン、それじゃあ行ってくる」

「はい」


 ふたりの護衛を連れてまたまた屋敷の玄関ホールに転移した。


「ふたりは屋敷の敷地内を適当に警備してくれ」

「「了解しました」」


 ふたりは玄関を出て行った。


「ソフィア、休眠装置はどこに置けばいい?」

「2階の一番奥の寝室でお願いします」

「了解」


 ソフィアと連れだって階段を上って廊下を歩いていたら、ミアたちがキャッキャ言いながら部屋から部屋に走り回っていた。若いって素晴らしい。


 廊下の一番奥の部屋はもちろん空っぽの部屋だ。

 窓際に休眠装置を出してもらい、その上に予備のカイネタイトディスクを置いておいた。

 屋敷そのものは南向きなので日が入る。鎧戸を閉めておけばそれはそれでいいかもしれないがカーテンくらいあった方がいいな。

 ソフィアたちがここで生活するようになったら順に買いそろえていくだろう。


 玄関ホールまで戻ったところで腕時計を見たらそろそろ昼だ。

「おーい。そろそろ昼だから帰るぞー」

『『はーい』』


 ミアたちが戻ってきてフィオナも俺の肩に止まった。

「それじゃあ館に戻ろう」

 ここは護衛のふたりに任せておけば十分だろう。ということで、俺は4人を連れて館の2階の階段の前に転移した。


 階段の前で4人と別れた俺は書斎に戻ってアインを呼んだ。

 俺がいる時はアインはここにいさせた方がいいな。20秒でやってくるけど一々呼ぶのも面倒だが呼ばれるのも面倒だろう。


 いつも通り呼び鈴で呼んで20秒したらアインが現れた。

「アイン。俺がここにきている時、用事がなければこの部屋で待機しておいてくれればいいんだが」

「了解しました。

 シュレア屋敷の改造の図面はでき上りましたので現在必要資材の製作などを行なっています。マスターの昼食が終わるまでには製作は終わりますので、この部屋の前の廊下に並べておきます」

 あそこのことをシュレア屋敷と言うとなんかカッコいいじゃないか。

「分かった。その時作業員も連れてきてくれれば一緒に連れて行くから。

 その作業員は顔はあるのか?」

「はい。野外でもある程度の作業を予定していますので言葉も話せるようにしています」

 屋敷の内側での作業なら何とかなるかと思っていたが、そうでもなかったか。


「ハイスペックの自動人形にはコアが必要じゃなかったのか?」

「はい。マスターに頂いたコアがまだありますから問題ありません」

「それならよかった。無くなる前に早めに言ってくれれば補充するから」

「了解しました」


「シュレア屋敷にミアたちが移ったら向こうで色々買い物もしなくちゃいけないからある程度まとまったお金を置いておこうと思うんだけど、金庫のようなものはあるかな?」

「用意しておきます」

「うん。頼んだ」

「マスター、そろそろ昼食の用意ができているころだと思います」


 時計を見たら12時5分前だった。


 書斎を出てアインと一緒に歩いていって食堂前でアインと別れた。


 俺が席に着いたらすぐにミアも食堂に現れ席に着き、16号がワゴンを押して食堂に入ってきた。


 今日の昼食はチキンライスと野菜がたくさん入ったコンソメスープ。それにヨーグルトが付いてきた。

 完全な洋食屋さんだ。

 おれの皿は大盛りで、ミアの皿は俺の3分の2くらい。

 ミアの体からすればちょっと多いが、育ち盛りだし、かなりミアの肉付きも良くなっているからお腹がすくのだろう。

「「いただきます」」


 前々から思っていたんだが、ここの味付けなぜかうちの母さんの味付けに似てるんだよな。

 何を食べてもおいしく食べられる稀有な舌を持つ俺の食事の評価など何もあてにならないけどな。


 昼食の後のデザートはバニラアイスとイチゴアイスの紅白アイスで、ウェハースが添えられていた。もう何でもありだな。


 俺はスプーンでバニラアイスを少しすくってフィオナのハチミツ皿の脇に入れてやった。

 アイスに手を突っ込むと冷たくなるのを知っているフィオナは、小さな舌を出して舐め始めた。


 ミアはニコニコ顔でアイスを食べている。

 ミアがシュレア屋敷むこうに行ったらこういったものがしばらく食べられなくなるのはちょっとかわいそうだな。向こうにも料理人の自動人形を連れて行くわけだし意外とこれまで通りのものが食べられるかもしれない。

 向こうの屋敷にここと同じような食糧庫を作ることができれば問題は解決すると思うけど。


 しかし俺はミアのことを何でここまで真剣に面倒見てるんだろう? 俺ってそういった隠し属性でも持っているのか? すごく不思議だ。



[あとがき]

人にはその時気づかなくても実は心に傷を負っているかもしれません。一郎の場合贖罪的何かかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る