第192話 連休明け


 連休明けの木曜日。

 教室に入ったらいつも通り誰もいなかった。

 自席についてじっとしていたらそのうちクラスの連中があいさつしながら教室に入ってきた。

「おーす」

「うーす」

「おはようさーん」


 俺はいつも通りそれらにいちいち「おはよう」と律儀に答えていった。

 人数が増えてきた教室内では連休中どこそこに行ったとか話題をあちこちでしているなか、俺は連休中の出来事を思い出していた。


 半地下要塞の先で館を見つけ、館とアイン以下の自動人形たちのあるじになったこと。

 ドラゴンをたおしたこと。

 ダンジョンの先でいわゆる異世界を見つけたこと。

 行きがかり上ミアの保護者になったこと。

 ミアについてはアインたちに任せておけば大丈夫だろう。

 それなりの教養的なものを学んだら、ミアをあの国のしかるべき学校に通わせてもいい。

 そして、鑑定がなぜかレベルアップしてフィオナが6枚羽に成りフェアリークイーンに成っていた。タマちゃんはいつからか知らないけど、ゴールドグラトニースライムに成っていた。

 最大の驚きは俺が人外一歩手前のヒューマンプラスに成っていたこと。


 物思いにふけっているというほどでもなかったけれどあれこれ考えていたら、授業が始まった。

 連休明けということもあり小テストなどを挟んで授業は淡々と進んでいき、昼食時間になった。

 

 俺は母さん謹製の弁当を食べ終わり、弁当箱の蓋をしていたら鶴田たち3人がやってきた。

「長谷川、休みの間やっぱりサイタマダンジョンに潜っていたのか?」と鶴田が聞いてきた。

 こういった質問をしてきたってことは、この3人もダンジョンに潜っていたということだろう。


「ああ、毎日潜ってた」

「やはりそうか。

 実は俺たちも毎日潜ってたんだ」

「かなり、儲かったぞ」

「親に借金を完済して、おつりもばっちりだ」

「ほう。そいつはよかったじゃないか。

 そう言えば俺は潜ってはいたけど、現金収入はまったくなかった」

「じゃあ何をしてたんだ?」

「いろいろだな。

 もちろんモンスターもたおしたけどな。いわば冒険?」

 ドラゴンをたおしたとは言えないし、呪いらしきもので右手の指が全部落ちたことも言えないよな。

 俺の別館がそのうちできることだし、この3人は口は堅いし信用できるから夏休みにでもこの3人を招待してもいいかもな。

 

「冒険か。夢があるなー。さすがはダンジョン第一人者だ。

 ラノベやweb小説の影響で冒険者という名まえだけ独り歩きしてはいるが、Aランクの俺たちは実際のところは青空の下を徘徊してるだけだものな」

「鶴田、そう言うな。健康的でもあるし、目に見える実利もある」

「しかり。冒険ということは、危険リスクを伴うということだ。

 われわれははっきり言って無リスクではないか? ダンジョンの最深部で活動する第一人者が冒険と言った意味を考えれば、うらやましいとかそういった話ではないと思うぞ」

「なるほど。確かに浜田の言う通りだ」

 確かに浜田が言う通りリスクはあった。言わないけれど。


「ところで長谷川。

 ダンジョンでケガとかしたことあるのか?」

「いちおうな。大したケガはしたことないというか、すぐ治るようなケガしかしたことないな」

 指は落ちたが運よくすぐ治ったし。うそは言っていない。


「下の方だとすごいのが出てくるんだろ?」

「それなりと言えばそれなりだ」

 ドラゴンは分類上それなりと言えばそれなりでいいだろう。


「やはりそうだよな」

「鶴田、俺たちは死ぬまでかかってもよくてBランクだ。4階層以深は俺たちにとっては存在しないに等しい別世界」

「それもそうだった」

「いや、去年の夏2、3階層にモンスターが固まって下から上がってきたことがあったから、別世界というわけじゃないかもしれないぞ」

「そんなことがあったのか? 知らなかった」


 3人とそれからたわいもない話をして昼の休憩は終わり、5限の授業が始まった。


 当たり前だが、その日も何事もなく学校を終えた俺は急いでうちに戻った。


「ただいま」

『お帰りなさい』


 2階の自室に戻った俺は普段着に着替え、母さんに買い物に行ってくると言って冒険者証を持ち空のスポーツバックを手にしてうちを出た。

 ダメになった防刃ジャケットの代わりの防刃ジャケットを買うためだ。


 俺は玄関先からサイタマダンジョンセンター近くのダンジョンワーカーの駐車場に転移し店の中に入った。


 店の中は混んではいなかったが、それなりの人が入っていた。

 防刃ジャケットの置いてあるコーナーに回って、俺の防刃ジャケットと同じものを探したのだが、同じものは売っていなかった。


 仕方ないから似たようなグレーカラーの防刃ジャケットから選ぶことにした。

 お金は潤沢なのでいくら高くてもいいので、表地の丈夫なものを選ぶことにした。

 タグの説明を読む限り値段が高ければ品質は向上するようだ。

 とは言っても、タグには表地の耐火性能は何も書いてはいなかった。

 防刃ジャケットだから当たり前と言えば当たり前。99パーセントの冒険者はファイヤーボールの直撃とか受けないだろうしそんな性能不要だものな。


 今回防刃ジャケットが焦げた攻撃は、俺でも攻撃の飛跡を全く認識できずいきなり目の前が真っ白になった。あれは電撃を受けたのだろう。

 あれは回避不能だ。表地が焦げただけで済んだということはあの防刃ジャケットは電撃にも有効だったわけだ。

 中地の材質はあれと同じものがいい。というかどの防刃ジャケットの中地もみんな同じだった。


 で、結局俺はアクセントとして縦に白線がサイドに入った黒に近いグレーの防刃ジャケットを選んだ。

 前の防刃ジャケットにもポケットが沢山あったが、今回もたくさんポケットが付いている。

 変わったところというと、値段が高くなった分中地が厚くなってその分重くなったところだけだ。

 もちろん、着込む防具の重さが多少重くなろうが俺にとっては何の障害にもならない。


 精算するためにジャケットを持ってレジに行き、店員に品物を渡してカードリーダーに冒険者証をかざそうとしたら店員が俺に向かって失礼なことを言った。

「お客さん、その冒険者証、偽物じゃないですか?」

「これ本物。偽物だったらそもそもカードリーダーで読み込めないでしょ」

 俺は構わずカードリーダーに冒険者証をかざしたら当たり前に精算できた。

「済みませんでした」

 店員は不思議な顔をしながらも防刃ジャケットを手渡してくれた。


 手渡された防刃ジャケットをスポーツバッグに入れた俺は店を出て駐車場に回ってそこでうちの玄関前に転移した。


 SSランクに成ったことはいいのだが冒険者証がレアすぎてダンジョンセンター以外だと使いづらい。

 こうなってくると、どこかのクレジットカードを手に入れた方がいいのだろうが、高校生だと作るの難しいだろうなー。

 スマホにチャージという手もあるようだがどうもなじまないから、現金を多めに持っておくとするか。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 この日の正午、自衛隊で撮影された魔法封入板の破壊から引き続き各種の魔法の実演を収めたビデオが主要動画サイトの防衛省およびダンジョン管理庁が持つ各々のチャンネルにアップロードされた。


 そして同時刻ダンジョンセンター本部から魔法封入板のオークションについてSランク冒険者に対しダイレクトメールが送られた。

 メールの内容は、

 オークションの開催日は5月31日(日)、場所はホテルオー○ラ。

 オークションに出展される魔法封入板の種類は下記の9種類。出展数量は各6枚。

 明かりの魔法 最低落札価格600万円

 水を作る魔法 最低落札価格1200万円

 炎の矢を撃ちだす魔法 最低落札価格4800万円

 石のつぶてを撃ちだす魔法 最低落札価格4800万円

 解毒する魔法 最低落札価格6000万円

 ケガを治す魔法 最低落札価格1億4400万円

 疲れをいやす魔法 最低落札価格4800万円

 力を増す魔法 最低落札価格3600万円

 素早さを増す魔法 最低落札価格3600万円


 各国のその手の****研究機関等で魔法封入板を高額で買い取ることが予想されるためオークションで落札した魔法封入板については代金の振り込みが確認され次第トウキョウダンジョンセンターの専用窓口で受け取り、その場で使用する旨記されている。

 また、今回の落札価格をもとに販売価格を決定し、9月1日より昨年12月31日現在の累計買い取り額をもとに優先販売すると記されていた。


 最後に自衛隊による実演ビデオのURLが貼り付けられていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る