第166話 ゴールデンウィーク6、夕飯。


 成り行きでやかたを手に入れそこの主人に成ってしまった。


 一番の問題は、この超大空洞=新世界に知性ある生物、原住民がいるかどうかということだ。

 これについては今後の探索にかかっている。


 後はこの館の前の主人のことだ。

 おそらく元の世界へ帰るための実験が成功し、あの金色の巨大装置を使って元の世界に帰ったと考えていいのだろうが、どこに帰って行ったのかは分からない。


 そして150年ほど前、前のマスターとその仲間たちはこの地を去ってから一度もここに戻っていないということは、あの金色の球体による移動は片道旅行で行った先から戻ってこられなかったと考えていいだろう。


 この島の全容を地図で掴めたが、600年近く前の地図だから、地形はそれほど変わっていないにしても、今現在何がどうなっているのかは不明だ。

 したがって、この島のどこかに原住民の集落がないとも限らないし、この島を離れた海の向こうに原住民が多数住む大陸があるかもしれない。

 俺には海を渡るすべはないので、残念だがその辺りを確かめることはできない。


 結局、今できることは何もないということだ。


 もう少し休憩したら、半地下要塞に帰るか。



 俺は机の上の呼び鈴を鳴らしてアインを呼び、明日の朝戻ってくると伝え、半地下要塞前に転移した。


 立派な館の持ち主になったからか、窓と扉のない半地下要塞がすごくシャビーに見える。

 少なくとも雨が入ってきたら相当マズい。

 やはり窓と扉は必須だな。


 ホームセンターで扉は見たことがあったような気がするが、窓は見ていないので注文になるよな。

 うちに届けてもらうとなると、自分の息子が一体何を始めたのか父さん母さんかなり驚くよな。

 やはりブルーシートで済ましてしまうか?


 畑や果樹園を一通り見て回った俺は、フィオナにリュックに入ってもらってホームセンターの近くに転移した。

 店内に入って店の人に聞いたところどちらも取り寄せで扉も窓も置いていなかった。

 仕方なく俺はブルーシートを数枚買った。

 


 ブルーシートとはめていた指輪をリュックの中のタマちゃんに預けて、俺は人目をはばかりつつダンジョンワーカーに転移した。


 崖を滑り下りた時に傷んだ防刃手袋の替えと予備として防刃手袋を2組買い、適当なとこからうちの玄関前に転移した。


「ただいまー」

『おかえりなさーい。

 今日は少し早いのね』

「うん」


 俺は玄関で靴を脱いでそのまま2階に上がりリュックを下ろし、普段着に着替えた。

 タマちゃんはリュックから出て段ボール箱の中で四角くなって寛ぎ、フィオナも自分のベッドで横になった。

 今日はいろいろなところを見て回ったからふたりとも少し疲れたのか?

 かくいう俺も少し疲れたので、風呂の準備ができるまでベッドに横になっていよう。


 ベッドに横になって、今日のことを考えていたら、今回の発見についてダンジョン管理庁へ報告するか迷った。

 魔法の存在もかなりインパクトあったけれど、今度はそんなものじゃないし、ダンジョン管理庁もクロ板とか『治癒の水』とか果物とかで忙しいだろうから、これ以上案件は増やさない方がいいだろう。

 という大人の判断で、この件についての報告はなしだ。

 そう結論付けたら、急に眠くなってきた。


 目を閉じたと思ったら『一郎、父さんがお風呂から出たから入りなさい』と母さんの声が下から聞こえてきた。


 下着と着替えを持って脱衣所に入って裸になり、浴室で軽く体を流してから湯舟に浸かった。

 フィオナも今日は俺と一緒に風呂に入った。

 今は俺の肩が湯に浸かっているので俺の頭の上にいる。

 フィオナは見た目は服を着ているように見えるのだが、今まで一度も脱いだことがないところを見るとどうも服ではなくて皮膚らしい。


 俺はそんなことをするわけはないが、エッチなつもりで妖精の服を脱がそうと思っても脱がせない仕様というわけだ。


 逆に考えるとフィオナは24時間365日マッパというわけだな。そこらの犬猫でさえ服を着ることがあるわけだから、ちょっとかわいそうでもある。


 風呂から上がって寝間着兼部屋着を着たらすぐに夕食だった。


 今日の夕食はカツオのたたきがメインで、ほうれん草のゴマ和え、ナスの煮浸し、それに油揚げの味噌汁と白飯だ。


 いただきます。

 やはり日本食だよなー。

 今日は館で昼食を腹いっぱい食べたが、やはりうちのご飯が最高だ。

 甘酸っぱい醤油味のタレに厚めに切ったカツオの切り身をつけて口に運ぶ。

 うーん。最高!

 次はカツオの切り身を大葉と一緒にタレにつけていただく。

 うーん。最高!

 そして熱々のご飯を口に。

 うーん。最高!

 カツオばかり食べててはいけないのでナスの煮浸しだ。

 このナスビは昨日俺が持ち帰ったナスビのハズ。

 うーん。ナスビも最高!


「一郎。冒険者を頑張ってるみたいだがどんな具合なんだ?」

 珍しく父さんが冒険者の話を振ってきた。

 さて、どう答えよう。


 俺は少し考えて答えた。

「父さん、Aランクの冒険者がBランクに成る方法知ってる?」

「それくらいなら知ってるぞ。1000万以上ダンジョンで儲けたらBランクに成れるんだろ?」

「そう。

 父さん、もし俺がもうBランクだと言ったら驚くだろ?」

「それはそうだろう。一郎が冒険者になったのは去年の7月末だったじゃないか。まだ1年も経ってないのに1000万もダンジョンで儲けていたら、父さんの腰が抜けるぞ。

 一郎がそう言うところを見るともう100万くらいは儲けたのか?」


「まあそんなところ」

「これは魂消たまげたな。父さんもうかうかしてられないぞ」

「一郎、そんなに!」

 母さんも驚いていた。そりゃそうか。

 というか、俺がSランクだってこの前話したはずだけど、冗談だと思っていたのかな?


 今現在俺は1000万円のBランクどころか、日本、いや全世界でただ一人のSSランク冒険者、100億の男。

 それに加えて貴族の館を持つ男だ。

 こんなこと言ったら父さんの腰だけじゃなくてアゴまで逝ってしまいそうだ。

 これは親孝行のためにも何も言えないな。


 そう言えば、連休明ければ16歳SSランク冒険者1名がダンジョン管理庁のホームページに載るよなー。

 とは言え、何が変わるってこともないだろ。


 それにしてもこのナスの煮浸しおいしいな。

 鑑定指輪をはめてないからわからないけど『活力プラスのナスビ』に成っているような気がする。





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