第157話 ダンジョン農家。ダンジョン管理庁管理局企画課6
SSランク冒険者になり、森の開墾を行なった翌日。
元気いっぱいの俺は7時過ぎには果樹園の前に立っていた。
昨日蒔いた種は俺の期待に応えてくれたようでちゃんと苗木になっていた。
これなら明日には実が生ってる。はずだ。
これで畑から果樹園にランクアップだ。
後は種をどんどん蒔いていくだけだ。
さすがに自力で食べるだけで種の数を揃えるのは大変なので、タマちゃんに果物を食べてもらい種だけ出してもらった。
ということであっという間に種が揃ってしまった。
昨日植えたものも含め、リンゴ、ナシ、ミカン、桃それぞれ16カ所に種を蒔いたことになる。
最後に『治癒の水』をかけて作業終了したのは午前10時過ぎだった。
明日は学校なので、学校帰りにここに寄って様子を見よう。
時間が余ったので午前中はハンモックで寛ぎ、午後からは池周辺の森の中を散策して早めにうちに帰った。
帰る前果樹園を見たらもう芽が出ていた。
週が明けて月曜日。
授業の終わった俺は、掃除当番だったので掃除をしっかりしてから家路についた。
帰り道、予定通り27階層?の果樹園に寄り道した。
土曜に蒔いて昨日苗木になっていたリンゴとミカンにはちゃんと実が生っていた。
昨日蒔いた種も芽から成長してちょっと大きめの苗木になっていた。
俺は完全に果樹栽培農家になったようだ。
果樹園の果物は外から買ってきた苗木ではないので、ある意味ジェニュインダンジョンフルーツ、またはジェニュイン新世界フルーツになる。
従って、元の品種とは違った品種に変化している可能性もある。
俺はリンゴとミカンを1つずつもいでみた。
ミカンは制服のポケットに入ったがリンゴは入らなかった。
金色の鑑定指輪はタマちゃんに預けているため手元にないので持って帰るためだ。
一通り周囲を見て回った後、うちの玄関前に転移した。
「ただいま」
『お帰りなさい』
リンゴと学生カバンを手に持って2階に上がった俺は普段着に着替え、タマちゃんに出してもらった鑑定指輪を左手の中指にはめてそれぞれ鑑定してみた。
『活力
『活力
プラスは効能が高いという意味だろう。
やはりジェニュインとなると一味違ったようだ。
おそらく桃と梨にも
となるとそのうち野菜類も種から育ててみればいいか。
その翌日。
桃と梨にもちゃんとした実が生っていた。
鑑定したところ予想通り、
『活力+と癒し+の桃』
『解毒+と癒し+の梨』
ということが分かった。
この日父さんの健康診断の血液検査の結果が返ってきたそうだ。
これまで何項目かC判定があったようだが今回はどの項目もA判定だったらしい。
おそらく治癒や癒しはボケにも効くだろうから、即死事故に遭わなければ100歳までは元気だろう。
木曜日の夜。
ダンジョン管理庁の河村さんからメールが届いた。
果物、野菜、水の分析を終えたそうだ。
まず果物類については糖度が高いくらいで特別な成分は検出されず、また治癒の水も同様に特別な成分は検出されなかった。
ただ、ダンジョン管理庁の若手有志に果物を食べさせスポーツセンターで簡単な体力測定をした結果、明らかに体力が上昇した。
さらに、某大学病院において全身にがんが転移した末期がん患者に対して、患者の親族の了承を得て治癒の水を100CC点滴投与した結果、がん細胞が縮小し、その後経口投与を続けた結果がんが消滅したという驚きの結果が得られた。
とのことだった。
風邪くらいには効くだろうと思っていたのだが、癌にまで効くとは思わなかった。
うちではそんな水を毎日お茶にして飲んでるんだが、ちょっと贅沢かもしれない。
とにかく家族3人、病気になることはなさそうだ。
ありがたいことだ。
病気の治癒に対する調査範囲を拡大するため『治癒の水』をあと20リットル用意してほしいとメールに付け加えられていた。
また果物類についても調査を継続したいためサンプルが欲しいとのことだった。
返信には了承したことと、種から育てた果樹の実はこれまでの果樹と比べて効果が高いことを付け加えておいた。
俺の返信に対して、都合の良い日をたずねられたので、専用個室に20リットルの容器と果物用のカゴを何個か置いてもらえば明日の学校帰りに27階層に寄ってくるので夕方にでも専用個室に置いておけると返事しておいた。
そしたら、それでお願いします。と返ってきた。
翌日の放課後。
掃除を終えた俺はその足でダンジョンセンターの専用個室に転移した。
ちゃんと20リットルのポリタンクと果物用のカゴが置いてあったのでそれを持って27階層の半地下要塞に転移して、そのポリタンクとバケツと漏斗を持って桟橋に行き、ポリタンクに『治癒の水』を満杯にした。
使ったバケツなどを半地下要塞に片付けてから、カゴを持って果樹園に行き、ジェニュインリンゴを5個とジェニュインミカンを10個カゴに入れた。
その後これまでの畑に行ってそれなりの数の果物と野菜をカゴに入れた。
4つのカゴは山盛なってしまったので2つずつ持って専用個室に転移してそこに置き、最後にポリタンクを持って専用個室に転移した。
専用個室で買い取り係の人を呼び、ポリタンクと果物カゴを預けた。
ジェニュインリンゴとジェニュインミカンのカゴについては係の人に別のかごに入れたリンゴやミカンに比べ高級な果物だと簡単に説明しておいた。
係の人がポリタンクを運び出した後、果物カゴを持ってきた台車に乗せて部屋を出ていったところで俺はうちに転移した。
そういえば学校帰りで冒険者証を持っていなかった関係でカードリーダーにノータッチなのだが、何も言われなかったなー。
本来はマズいんだろうが、そこを受益者が指摘する必要なんかないものな。
「ただいまー」
『お帰りなさい』
「制服を着替えたらちょっと買い物に行ってくる」
『あら、忙しい』
うちに帰った俺は荷物を置いて私服に着替え、段ボール箱の中で四角くなっていたタマちゃんをスポーツバッグに入れてホームセンターに転移した。
ホームセンターでは20リットルのポリタンクを5つ購入しておいた。
『治癒の水』のニーズが高まりそうな気がしたからだ。
100リットルもあれば十分だろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の午前中。
ダンジョン管理庁管理局小会議室。
小林企画課長と山本課長補佐が
「癌の特効薬となるとは大ごとになってきたな」
「癌だけではなく、これまで行なった治験で全ての病気に対して効果があったようです」
「山本くん、勝手に治験なんかできないんだから
「そうでした。申し訳ありません」
「いや、冗談だから。
しかし、本当の意味で治癒の水、キュアポーションだったとはなー」
「池一杯の万病の特効薬というのが空恐ろしいですね。
テストの結果がアレでしたから病院側からもテストを大々的に行いたいので『治癒の水』をもっと寄こせと矢の催促です」
「さもありなんといったところか。
しかし供給は長谷川くん頼みだし、長谷川くんはまだ高校生だから無茶な要望はできないからなー」
「そこはネックですが、顔つなぎも兼ねて彼の都合のいいときに一度ここに来てもらうというのはどうでしょう?」
「いや、われわれが出向いた方がいいだろう」
「河村くんから連絡してもらって、彼の都合を聞いてスケジュールを調整します」
「頼んだ。
長谷川くんの都合がよくてバンバン運んでもらったとして池が枯れるということはないだろうな?」
「池の大きさは正確には分かりませんが、河村くんの見せてくれた写真だとそれなりに広い池でしたから10トン、20トン程度でどうこうという話ではないと思います」
「そうだな。
あと心配なのは、これほどの効能をかぎつけられて厚生労働省の連中やら厚労族議員やらにしゃしゃり出てこられてはたまらんからなー」
「最新の分析機器をもってしても成分はタダの水だったわけですから、少なくとも医薬品ではありません。
したがって、こちらがどのような扱いをしようが自由でしょうから、当面は清涼飲料水、食品扱いでしょう」
「ということは、オロ〇ミンシーだな」
「そういうことになります」
「それはそうと、治癒の水の代金はどうする?」
「
「癌の特効薬だものな」
「かなり高額ですし、清涼飲料水では保険が利かないから購入は厳しいかもしれませんが、われわれが心配することでもないでしょうし」
「今回追加で20リットルと果物類を長谷川くんに頼んでいるのだがこの支払はどうする?」
「20リットルというと2万CCですから2億円。果物についても1個1万は下らないでしょう」
「そうだろうな。しかし2億も予備費はないぞ」
「魔法封入板の時と同様、ダンジョンセンターに中に入ってもらって、支払うしかないでしょう。そうすれば税金は源泉ですから長谷川くんも楽でしょうし、彼の累計買い取り額にも加算されます」
「じゃあそれでいくとしよう。
しかし、長谷川くんのおかげでずいぶん忙しくなったなー」
「そうですね」
「魔法封入板の方はどうなっている?」
「魔法使用者の拡散を防ぐため魔法封入板の購入者は冒険者に限定し、更に攻撃性の魔法についてはDランク以上の冒険者に限定しようと思っています」
「それが無難だろうな」
「法務省とすり合わせたところダンジョン領域以外での攻撃性魔法の使用は禁止。使用した場合銃の使用と同等の罰則とする。そういったところに落ち着きそうです。
問題は魔法の使用を立証できるかですが、その辺りは警察に任せるしかないでしょう」
「お手並み拝見だな。
法規の形が決まったらそろそろオークションだな」
「はい。
ゴールデンウィーク明けにSランク以上の冒険者に案内を出し、5月下旬に実施で詰めています」
「そっちもよろしくな」
「はい」
「長谷川くんの果物のこともあるし、レモンの木というか1階層の試験農場についてはしばらくペンディングになるな。あとで河村くんにも伝えておいてくれ」
「了解しました」
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