第117話 秋ヶ瀬ウォリアーズ9


 専用個室は実に便利だった。

 その便利さに感動した次の週。


 木曜、金曜は俺の高校の入学試験日で学校は休み。

 次の土曜は隔週の土曜休日なので4連休になる。

 もうそういったシーズンなんだなー。

 月日の経つのは早いものだ。

 俺が高校受験してもう1年経ってしまった。

 向こうの世界にいた時の1年はすごく長かったんだが、何が違うのだろう?


 4連休の最終日の日曜は秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と1階層に潜る約束だ。

 3人には俺がSランクになったことをまだ教えていないが、もし、3人のうちの誰かがダンジョン管理庁のホームページを見ていたら俺がSランクに昇格したと分かるはずだ。

 そして、ネットニュースとか見ていればサイタマダンジョンの22階層、23階層のゲートキーパーが撃破され、それが『はやて』によるものでないことを知るだろう。

 そしたら俺がゲートキーパーを撃破したことは容易に想像できるはずだ。



 学校の方は無難にこなして、入試休みの木曜日と金曜日、そして土曜日の3日間、専用個室をフル活用して先週の日曜日並みに儲けることができた。

 木曜日が5億1120万円。

 金曜日が5億0941万円

 土曜日が5億1215万円。

 累計買い取り額は45億8927万600円+15億3276万円=61億2203万600

円となった。

『ひとうちななひき』ではないが1日潜れば5億円!

 あと8日潜れば100億円の大台に乗ってしまう。

 いいのか? これで!



 そして日曜日。

 タマちゃん収納の食料と飲料はことあるごとに補充しているので、今はおむすびが50個ほどと緑茶のペットボトルが50本ほど、コンビニ弁当も10食ほどタマちゃんに収納してもらっている。

 タマちゃんに数をたずねたら、10進数の数字を理解しているようで偽足を巧みに使って数字を作って教えてくれる。


 うちの玄関先から専用個室に転移して、そこで入出館用カードリーダーに冒険者証をタッチし、それから武器を装備して部屋を出た。

 時刻は午前8時55分。

 改札口まで駆けていったら3人が待っていた。

 特に変な視線は感じなかったが危険地帯からは離れた方がいい。


「おはよう。さっそく入ろう」

「「おはよう」」


 俺が先頭に立って改札から渦を抜けた。

 改札を抜ける時、後ろから「金!」という声が聞こえた。


 1階層はいつ来ても青空で気持ちがいい。


 渦の前を空けるため4人で少しずれたところで、斉藤さんが俺に聞いてきた。

「やっぱり長谷川くん、Sランクになってたんだね」

「実は大晦日に10億超えたんだよ」


「あの日Sランクに成ってたの?」

「いや、免許センターが正月休みで免許センターが開くまで待ってから」

「すごいなー。

 長谷川くんまだ高1だよ。高1で10億円だよ。それもひとりでだよ」

「わたしの見込んだ長谷川くんだもの」

「わたしは最初から長谷川くんはSランクだと思ってたわ」


 俺たちが渦の近くで話していたら、渦から出てくる冒険者たちがチラ見して通り過ぎていく。

 いつものことと言えばいつものことなんだけど、フリーのジャーナリストじゃないかと思って一瞬身構えちゃうんだよな。


「長谷川くんどうかしたの?」

「実は、22階層、23階層のゲートキーパーをたおしたのが『はやて』じゃないということはすぐ知れ渡ったし、16歳Sランカーがたおしたはずだということでジャーナリストに追われてたんだよ」

「長谷川くん、有名人になっちゃったんだ」

「斉藤、有名人じゃなくって超有名人」

「そうだぞ。わたしの長谷川くんは超有名人なの。名まえは誰も知らないけれどね」

 俺は誰の物でもないと大人げないことを言っても仕方ないので黙っておいた。


「それで、今日はどうする?

 この前みたく、ハイキングでもいいかと思ったけど、せっかく長谷川くんがSランクに成ったんだから、Sランクの特権で2階層に連れて行ってもらわない?」

「できないことはないんだけど、事前に手続きがいるみたいなんだよ」

「そうなの? 知らなかった」

「講習じゃ教えてくれなかったものね」

「そういった状況に普通はならないからね。仕方ないよ」

「じゃあ、それは今度ということにして、今日はハイキングでいいね?」

「「賛成!」」


 結局ハイキングのつもりで歩き回りつつ、モンスターがいたらたおすという徘徊モードになってしまった。

 うちの高校の和田たち4人とこの前ここに来た時はうまくモンスターを見つけられなかったので、今度はちゃんと見つけられるように頑張らねば。

 ディテクター!

 フィオナはうちで留守番なので、今日は普通のディテクターしか使えない。


 それでも何とかアタリがあったので、俺は美少女3人を連れてアタリに向かって歩いていった。


 誰にも邪魔されることなくモンスターを見つけることができた。

 最初のモンスターはスライムだった。

 3人が寄ってたかって打ちのめすかと思ったのだが、今日は3人でスライムを囲んだあと斉藤さんが手にした黒い棒を打ち下ろしただけだった。

 スライムはその一撃で潰れて液状化してしまい地面にしみ込み核だけ残った。

 その核を斉藤さんが拾って袋の中にしまった。

 この3人俺が知らないうちに進歩してる。


 そう言えば前回一緒に潜ったのは確か11月。

 彼女たちと一緒に潜るの3カ月ぶりくらいだものな。


 最初のモンスターをたおした後も順調にモンスターを見つけることができたし、見つけたモンスターに対して彼女たちはひとりずつで対応できていた。

 そして、それなりの数の核を手に入れることができた。

 和田たちと一緒に来た時は散々だったのだが、一体何が違ったのだろう?

 不思議だ。

 

「ねえ、長谷川くん。ゲートキーパーってやっぱりすごいの?」と、俺の後ろから斉藤さんが聞いてきた。

「うーん。自慢になっちゃうけど、大したことはなかったなー。

 22階層のゲートキーパーはサイだったんだけど、楽勝だった。

 23階層のゲートキーパーは大きなハチで数が多かったから、ちょっとだけ手間はかかったな。手間と言っても核を拾うのが手間だったんだけどね」

「22階層のゲートキーパーっていろんな攻略チームが何カ月も挑んでたじゃない」

「大きなサイだったからなー。

 どこの攻略チームも突っ込んでくるサイを確実に受け止めるか、確実にかわせる方法を考えてたんじゃないかな」

「長谷川くんはサイを受け止めたりかわしたってこと?」

「受け止めはしなかったけれど、横にかわしてクロで1度切っただけ」

「一撃ってこと?」

「うん」


「ねえ、長谷川くん」

「なに?」

「長谷川くんって、顔は確かに高校生だけど筋肉凄いし、普通じゃないよね」

「いい意味、人を越えてる?」

「超人」


 超人と言えども、一種の人外ではあるな。

 もういいけど。


 青空のもと、散歩がてらにモンスターを狩っていくばくかというか高校生にとってはそれなりの額のお金が手に入る。

 ダンジョンができた理由も、ダンジョンがこうして人間に恵みを与えている理由も分からないけど、ダンジョンさまさまだ。



 そもそも、最深部があるのかどうかも分からないし、今俺が巡っている24階層が最深部で下り階段がない可能性がないわけではない。

 自衛隊は少なくとも24階層に到達しているだろうから24階層が最下層である可能性は限りなく低いだろう。

 なんであれ、階層の入り口にここが最深部ですと看板が出ているわけではないだろうから本当のところ最深部であるかどうかは分からないはずだ。

 それでも、ここが最深部だというところに到達することができたら、ダンジョンの謎が解けるかもしれない。



 その日午前中15個、午後から18個の核を手に入れた。

 総買い取り額は14万5600円。

 4人で割って3万6400円となった。

 俺の累計買い取り額は61億2203万600円+3万6400円=61億2206万7000円となった。


 今までは買い取り所を出たら武器の預かり所に3人と一緒に行ってたんだけど、俺は専用個室を借りていることを簡単に話してそこで別れた。

 いつものようにハンバーガーショップに行こうということになったが、待ち合わせは20分後にハンバーガーショップの前とした。


 その後俺はそのまま奥のほうに歩いていき専用個室に入った。

 ロッカーの中に武器類をしまい、それから入出館用カードリーダーに冒険者証をタッチして出館の準備を終えた。


 待ち合わせ時間の少し前に人目につかずバーガーショップの近くに転移していこうと思っているので10分ほど時間を潰さなければならないのだが、椅子も何もない部屋なので非常に居心地が悪かった。

 床に体育座りしても良かったが、この部屋には監視カメラがあると思うので床に座り込むのは我慢した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る