第105話 クラスメートとの親交も大事
3連休の間いろいろあったけれど、Sランク冒険者になって大儲けできたことは確かだ。
走り回ってクロを振り回していたら1日で3億円だもの笑いが止まらない。
この調子でいけば、100億も見えてくる。
人生を売ったわけではないが100億の男(注1)だ!
今週は土曜も学校がある。
だからどうということはないのだが。
冬休み中に冒険者になった連中が俺のところに来て、次の日曜日一緒に潜らないかと誘いに来た。
彼らは、以前俺が1千万円
あまり驚かせたくはないのだがどうしようか。
いずれ俺がSランク冒険者ということは分ることだろうし、ある程度クラスメートにサービスしてやるか。
ということで、日曜一緒に潜ることを承諾した。
集合場所は渦の手前の改札前。集合時刻は装備を揃えて9時ということになった。
ウィークデーを無難にこなし今日はクラスメート4人とダンジョンに潜る日だ。
4人の名は和田、田中、佐藤、高橋。
秋ヶ瀬ウォリアーズの面々と潜る時は成り行き上タマちゃんを連れていたが、今回はタマちゃは連れてきてはいない。もちろんフィオナもお留守番だ。
あたりまえだが核用のスポーツバッグもうちに置いている。
8時半にダンジョンセンターに到着した俺は、売店に寄って昼食用のおむすびセットと緑茶のペットボトルを買ってから、武器の受け渡し所に向かった。
武器の受け渡し所ではナイフと2本のメイスを払いだしてもらい、1階層では大げさすぎる大剣クロは預けたままにしておいた。手袋とヘルメットはリュックの中だ。
装備を整えて改札前に行ったら4人は揃っていた。
「おはよう」
「おーす」
「「おはよう」」
4人とも武器はメイス。
彼らの被っているのはキャップランプの付いていない1階層専用のヘルメットで、もちろん俺のようなフルフェイスのヘルメットではない。
「みんな揃ったから、さっそく入ろうか」
「待て! 長谷川、お前の首からのぞいているネックストラップ。
それはどういう意味だ!」
和田に気付かれてしまったようだ。
「見ての通り、金色のネックストラップだ」
「えーと、たしかBランクの色はブルーじゃなかったか?」と、田中。
「長谷川、ネックストラップの色を変えたのか?
ゴールドってたしかSランクの色だろ? そんなの見栄でつけてたらすごくみっともないぞ」
見栄でつけてたらおっしゃる通り。
「お前たち。
他の連中には内緒だからな」
内緒で済むとは思っていないが、とりあえずそう言っておいた。
「お前が見栄で金色のネックストラップを着けてたってことは黙っててやるよ」
「そういう意味じゃなくってだな」
そう言って俺はネックストラップを持って防刃ジャケットの下に隠れていた冒険者証の入ったカードケースを手繰り上げた。
「長谷川、お前何やってるんだよ。
カードに色塗るやつあるかよ」
「いやいや、塗ったんじゃなくって本物だって」
「わかった。
今日だけ長谷川はSランクだ。
みんな分かったな?」
「オーケー」
「「りょうかーい」」
だれも信じてくれなかった。
げに先入観とは恐ろしいものである。
5人並んで改札口に冒険者証をタッチして通り過ぎその先の渦を通り1階層の青空の下に出た。
俺は手袋だけはめてノーヘルメットである。
4人は何度か入ったことがあるので、後ろから来る冒険者の邪魔にならないようすぐに渦の前から横に移動した。
当たり前だと言えば当たり前の動きなのだが、初心者は忘れがちなマナーである。
「長谷川は、ヘルメットを被らないのか?」
「持ってきてはいるが、俺のヘルメットはフルフェイスだからちょっとここだと大げさなんだよ」
「なるほど。
それはそうと外の寒さが嘘のようだな」
「そうだなー」
「ここで青空教室やってくれないかな?」
「おー、それはいいな。
吉田先生は冒険者だからいいけれど、うちのクラス全員冒険者にならないとな」
「たしかに」
「それじゃあ、適当に歩いていってモンスターが出たら4人でたおしてくれ」
「長谷川、俺たちでたおすのはいいが、適当に歩いていてもモンスターなんて見つからないんじゃないか?」
確かにそうなんだけど、俺が探しながら歩くからとか言えないし。
「俺の勘を信じてくれ」
勘ということで言いくるめてしまおう。
「確かに、長谷川はそれで1千万稼いだわけだから信じてみようぜ。
それでだめだったら、お金持ちの長谷川におごってもらおう!」
「「おう!」」
俺にはディテクターがあるからいいけどな。
しかし、まだダンジョンの中に入ったばかりだというのに秋ヶ瀬ウォリアーズの3人に比べこの4人は妙に扱いづらいな。
今日はフィオナを連れてきていないのでディテクター×2は使えない。
ただのディテクターでもそこらの冒険者の行き当たりばったりに比べれば天と地ほどの差があるだろう。
ディテクター!
何とか有効範囲ギリギリにモンスターがいるようだ。
「こっち方向だ」
俺は4人を先導してモンスターがいるらしい方向に歩いていった。
あと、50メートルというところで他の冒険者がそのモンスターを見つけてしまい武器を振り回し始めた。
「いたことはいたが、1歩遅れてしまったみたいだな」
「長谷川の勘は当たってはいた」
「世の中、実績が全てだよな」
「だな」
俺は次こそと思いディテクターを発動したところアタリがなかった。
マズいぞ。
とは言え、いくら俺でも何もないところから何かを出すことはできないので、俺は4人を連れて徘徊モードに入った。
アタリのないまま徘徊して15分。
後ろの方から声が聞こえてきた。
「なかなかだなー」
「俺たちの時だって半日モンスターに出会わなかったことだってあったじゃないか。
長い目で見てやろうぜ」
「その通りだ」
「長谷川だって、心の中できっと泣いてるんだぞ」
高橋、俺の心の中を代弁してくれてありがとう。
それでも、ようやくアタリがあった。
今度は他の冒険者に先を越されないよう、少し速足でいこう。
「長谷川、何慌ててるんだよ」
「焦っても何もでないぞ」
「狭い日本そんなに急いでどこに行く?
ましてここはダンジョンの中なんだぞ?」
「ゆっくり行こうぜ」
この連中やる気があるのか?
確かにダンジョンの中はいい陽気だ。
しかし、俺は親心でモンスターを探してやってるんだぞ!
そう思ったが口には出さなかった。所詮俺はBランク冒険者なんだし。
速足あらためゆっくり歩いていたら、横の方から4人組の冒険者テームが現れ俺たちの獲物のハズのモンスターと戦いすぐにたおしてしまった。
「長谷川、ドンマイ」
「こういうことは、日常朝飯前だ」
「それは茶飯事だろ!?」
「より強く意味が通じるだろ?」
「確かに」
「田中、うまいこと言うな」
こいつら、ストレスの発散方法だけはうまい。
そのストレスを俺が全部引き受けている気がしないでもない。
「お前ら、もう少し真面目にできんのか?」
「長谷川、責任感を持ってくれているのはありがたいが、そこまで自分を責めるのはどうかと思うぞ?」
いや、俺は自分を責めてなんかいないぞ。どこからそんな発想が出てくる。
「長谷川、そんなことでは将来高血圧になって一生薬を飲むことになるぞ」
「長谷川、おおらかに生きようぜ」
「分かった。
俺の負けだ。
俺の代わりに誰か先導してくれ」
とうとう我慢強い俺も投げ出してしまった。
「じゃあ、おれが先導しよう。
こんなものは適当でいいんだよ、適当で」
今度は和田が先頭に立って、ディテクターでのモンスター探知を止めてしまった俺を含めた4人が続いた。
10分ほど歩いていたらモンスターの気配が強まった。
この距離でほぼ素人の和田がモンスターの気配に気づいているとは思えないが和田はモンスターの方向に歩いていく。
そこにいたのは1匹のスライムだった。
4人で寄って集ってあっという間にスライムは潰れて液体になり地面にしみ込んでいった。
核は和田がジャケットのポケットに入れた。
「ほらな。
何も考えずに歩こうが、勘に頼って歩こうが結果は同じと思えるだろうが、何も考えずに歩いた方がいいってことが分かったろ?」
したり顔の和田にそう言われたが、世の中結果が全て。
言い返すことはできなかった。
それからも和田の快進撃が続き、結局10個の核を手に入れたところで12時を少し過ぎ昼にしようということになった。
注1:100億の男
ドラマしか見てないんですが面白かったです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/100%E5%84%84%E3%81%AE%E7%94%B7
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます