第87話 Dランク冒険者13、ディテクター


 父さんたちが京都旅行から帰ってきた翌日。


 学校から帰ってきたら母さんが居間から呼ぶので行ってみたら俺が貰って来た表彰状というか感謝状が額縁に入れられてテレビの後ろの壁にかけられて飾られていた。

 ちょっと目立ち過ぎじゃないか?

 俺はテレビほとんど見ないからいいけど。



 学校では特に変ったこともなく過ぎていき週末の金、土の2日間で中間試験があった。

 1学期の試験などを通じて先生の出題の癖のようなものがなんとなくわかってきていたし、試験の手ごたえも十分だったからおそらくどの教科も満点と思う。

 週が明ければ授業順にテストが返ってくるので結果はすぐにわかる。

 そして来週の週末には体育祭がある。

 俺にとっては体育祭の方が荷が重い。

 冗談抜きで真面目な顔をして手抜きするのは本当に難しいんだ。


 ともかく学校の方もダンジョン同様順調だ。

 まさに学業と冒険者業の両立だ!

 2足のわらじを履く16歳だ。



 そして、今日は待望の日曜日。

「行ってきまーす」

『行ってらっしゃーい』


 午前7時。

 いつものように玄関前からダンジョンセンターの脇に転移で現れた俺はセンターの売店まで駆けて行った。

 いつも通りの朝食用、昼食用の食料と飲み物を購入し、武器の預かり所に回った。


 武器類を受け取り、装備を整え1階の改札に。

 冒険者証をかざして改札を通過し、渦を抜けて大空洞の空を見上げる。

 青空が今日もきれいだ。


 階段小屋まで歩きながらサンドイッチの包装を開けてムシャムシャ食べた。

 サンドイッチの後は調理パン。今日はウインナーパンにしてみた。

 パンが柔らかいところをみると、昨日の残り物じゃないのだろう。

 少々パンが古くて硬くても、向うの世界のパンに比べれば断然こちらの方が柔らかい上においしいので全く文句はないが、こっちのパンの中でもできて間のない方がおいしいのは確かだ。

 食生活は日本。いや、衣食住全てにおいてこの日本が数十段上だ。



 渦を抜けてから30分ちょっとで10階層に到着した。

 途中でヘルメットをかぶり手袋をはめているので準備は整っている。


 ディテクター!


 アタリがあった。

 出足から調子が良い。

 これなら今日も2千万円稼げそうだ。

 しかしDランクになってからの累計買い取り額の伸びがエグイ。

 もう一息というより、誤差の範囲で累計買い取り額が2億だ。

 2億ってひとりで使うのは結構な金額だよ。

 年間500万円使ったとして40年だもの。


 などと考えニヘラ笑いをしながら俺はターゲットに向かって駆けて行った。



 最初のターゲットはオオカミだった。

 ほかのモンスターに比べて50歩100歩ではあるが俺にとっては相性のいい相手だ。

 その理由はオオカミにはちゃんとした首があるので大剣クロで叩き落すのにちょうどいいからだ。


 頭を大剣で割るのと首を切り離すのとどちらが楽かというと、ほとんど差はないけど気分の問題なんだよ。

 手ごたえが違うんだよ。

 バットの芯でボールを捉えた感触とでもいうのか、スパーーンという感触がたまらないんだよ。

 こんな感じで、


 スパーーン!


 いい感じで先頭のオオカミの首を切り落とし、2匹目のオオカミに対して下から切り上げて、


 スパーーン!


 クロが空間に一本の線を引くたびにオオカミの首が落とされて行く。


 スパーーン!


 ……


 ほんの数秒で9匹いたオオカミは胴体から頭部を切り離されて坑道の床に転がった。


 最近は何も言わなくてもリュックの中から偽足が複数伸びて、残骸をアッというまに片付けてくれる。

 そして俺の手元に核を届けてくれるので俺は受け取った核を売店のレジ袋に入れるだけでいい。

 生き物を殺すことにためらいはないのかと聞かれれば、俺ははっきりためらいなど微塵もないと答える。生きるって、そういうものだろ?


 ここでディテクターと思ったのだが、ふと考えた。


 攻撃魔術が強力になってきていることは実感してるんだけど、ディテクターの感知範囲は広がっていない。

 どちらかと言えば、ディテクターの方が伸びて欲しいのだが、全然伸びないのは何がいけないのだろうか?


 ディテクター2倍とかできればいいんだが。

 俺は試しにディテクターの探知範囲が2倍になるよう念じながらディテクターを発動してみた。


 あらあら何ということでしょう?

 探知範囲が2倍になっているではありませんか。

 探知範囲内に4つもアタリがあった。

 そのかわり反応は若干薄いというか、アタリによって濃淡がある。


 アタリの濃淡って気配の強さないしは相手の強さに依るんじゃないか?

 同一階層内では個体の強弱差などほとんどないわけだから、濃いアタリは個体数が多い。すなわち10匹。

 薄いのは5とか6匹と考えていいんじゃないか?

 一気にディテクターがレベルアップした気がする。


 試しに3倍くらいになるよう念じながらディテクターを発動したところ、アタリがあるのだろうが薄すぎて判然としなくなった。

 俺の魔術能力が上がってくれば、少しずつでも反応が濃くなって使えるようになるとおもうが、ディテクター×2の探査範囲でも今までの4倍もある。

 取りあえず当面はこれで十分だ。いや十二分だ。


 これまでも複数のアタリがある時と同じでディテクターだけでは坑道の構造は分からないため、近くだと思ったターゲットが実際に行ってみたら、道のり的には遠かったということもあったと思う。

 そんなのは足で稼ぐ。

 走ればいいんだ、走れば。

 俺はディテクターのアタリのなかで一番近そう***なアタリに向かって

駆けだした。


 そこからは入れ食い状態とでもいうのか、徘徊する必要が全くなくなり、走って、たおして、核をレジ袋に入れ、ディテクター×2を発動して、走って、たおして。その連続でどんどん核が貯まっていった。



 午前中の4時間ちょっとで、実に225個の核を手に入れていた。

 自分が怖いほどだ。

 今日は4時で上がろうと思っているので、午前と同じペースなら午後から200個近い核を手に入れられる計算になる。

 午前午後合計で425個の核なら4千数百万円の買い取り総額になる。

 レジ袋が足りなくなるといううれしい悲鳴を上げちゃうぞ。

 ウハウハが止まらないぞ。


 俺はニヤニヤしながら装備をいったん地面の上に置き、坑道の壁に沿うようにして地面に腰を下ろしてリュックからおむすびを取り出してぱくつく。


 うまい。


 ご飯つぶを何粒かおむすびからつまんで肩口に止まったフィオナの口元に運んでやるとフィオナが両手でご飯つぶを受け取ってハムハムする。

 癒される必要ないくらい充実した毎日を送っている俺だが、癒されるなー。


 12時半から午後からの狩を始めた。

 午後からも絶好調!

 上がり予定の4時にはなんと212個の核を手に入れていた。

 合計437個。


 ウキウキで10階層から転移を交えて帰って行き、4時40分には買い取り所のトレイに核を空けていた。

 予想通りレジ袋では核が入りきらなくなったので、リュックのいろんなポケットに余った核を突っ込んでおいた。

 次回からはレジ袋は止めて買い物袋持参だな。


 この日の成果はクマの核も含めた437個の核。

 後から後からトレイの上に出てくる核に係のおじさんは驚いていた。

 そしてそのうち無表情になった。


 総買い取り額は4384万8千円だった。

 累計買い取り額は1億9972万5700円+4384万8千円=2億4382万3700円となった。

 Sランクが近づいて来たぞ!

 この調子でいけば来年の春休みにはSランクだ。

 でへへへ。

 まさか、取らぬ狸にはならないよな?


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