第2話 帰還
目のくらむ白光がおさまったところで目に入った光景は、魔王城の広間ではなかった。
目の前にあったのはコンビニ。
コンビニの前でボーっとつっ立っている俺を避けるようにして日本人がコンビニの中に入っていき、中からは日本人が商品の入ったレジ袋を提げて出てくる。
目の前のコンビニは俺の記憶と照らし合わせて10年前と何ら変わったところがない。
10年程度じゃコンビニも変わるはずないか。
俺は帰ってきたんだよな?
もちろん俺の心の中の声に答えてくれる者はいなかったが、俺の周りの全てが答えてくれている。
俺は帰ってきたんだ!
俺は目を閉じてへなへなとその場にへたり込んだ。
疲れた。
目を開けると、コンビニのガラスドアに普段着を着た14、5歳の少年がアスファルト製のコンビニの駐車場にへたり込んでいる姿が映っていた。
俺なのか? 俺しかいないからどう見ても俺だ。
さっきまで俺は勇者の白銀フルプレート、アリアンを着ていたんだが、今の俺は10年前の姿そのものに戻っていた。
ゆっくり立ち上がった俺はコンビニにフラフラと入っていき、そして大きく息を吸い込んだ。
コンビニのにおいがする! これがにおいの記憶か。
コンビニの壁にかかった時計を見たことで、今日がいつなのか確かめないといけないことに気づいた。
急いで出入り口の横に並べてあった夕刊紙を取って日付を見たら、10年前のあの日と同じ日付だった。日付もそうだが年号までも一緒だ。
あれ?
あれは夢だったのだろうか?
10年にも及ぶ白日夢を見ていたのか?
半年の辛い訓練から10年近い過酷な旅と戦いの日々は夢だったのか?
今さら確かめようがないし、現に俺の姿かたちは何も変わっていない以上、夢だったと思うしかない。
あれ?
夕刊紙を戻そうとしたところ、チラッっと『ダンジョン……』という見出しが見えた。
何だろうと思って再度夕刊紙を見ると、
『第3ダンジョン、ついに21階層に!』
何だこれ? アニメの宣伝? それとも映画?
記事を読むと、冒険者チーム『はやて』によって埼玉県にある第3ダンジョン、通称サイタマダンジョンの20階層から21階層に続く階段前のゲートキーパーが撃破された。という。
さらに記事を読み進んだところゲートキーパーとは定位置でその場所を守る強力なモンスターのことらしい。
ゲートキーパーはどうでもいいが、この日本にダンジョン?
ここって、俺の住んでた日本なのか?
俺は背中に何か冷たいものを感じた。
わずかに震える手で夕刊を元の場所に戻した俺は、周りを見回した。
どう見てもここは俺の知っていたコンビニだし、店内の客は日本人だしレジの前では客も店員も日本語を話している。
店員はちょっとイントネーションがおかしいので日本人じゃないかもしれないがちゃんとした日本語だ。
俺の知っている日本にはもちろんダンジョンなんかなかったけれど、この日本にはダンジョンがある。
明らかにおかしい。
ここは俺の日本じゃなくて別の日本だとすると、俺の家、あるのか?
俺の家があるとして、俺の家には別の俺がいるのではないか?
俺は心配になって上着をまさぐった。
俺が10年前だと思っている記憶通りちゃんと財布が入っていた。
中身を見たら、小銭を含めて2千円ちょっと入っていた。
2千円でどれだけ生きていけるか分からないけれど無一文でなかったことは素直にありがたい。
俺の記憶上10年間使うことが無かったのですっかり忘れていたけれど、ポケットの中にスマホもちゃんと入っていた。
俺の持つこのスマホが
それで少し安心した。
それから俺はコンビニを飛び出して500メートルほど先の自分の家に走った。
走りながら感じたのは、俺の足がものすごく速いってことだ。
そう。まるで勇者のように。
コンビニから家まで500メートルほど走ったものの息切れひとつなかった。
しかも1分もかかっていないと思う。
そこそこのスピードで走ったがもちろん全力ではない。しかも普段着、スニーカーだ。それでも500メートルを60秒で走れた。
単純計算で100メートル12秒。
この身体能力は勇者の身体能力だ!
やっぱり異世界に召喚され、10年近い戦いの日々は夢じゃなかった。
まっ、日本にダンジョンがあることの方がよほど夢のような話だし。
俺の家の外観は俺の記憶のままだった。
だけど何となく入りづらい。
もし、中に俺と同じ顔の男がいたら俺は全財産2千円の住所不定無職の少年Aということになってしまう。
どうしようか?
俺の記憶上25年の人生の中でもこれほど困ったことはなかった。
迷っていても何も解決しない。
最悪な事態となったとしても事実を
俺は玄関のドアノブに手をかけ捻って引いてみた。
カギはかかっていなかったのですんなりドアが開いた。
家を出る前、母さんが台所にいたからコンビニ行くと言って家を出たことを思い出した。
なので玄関から人の気配のする台所に向かって「ただいま」と言ってみた。
台所から母さんが『おかえりなさい』と答えてくれた。
俺にとっては10年ぶり。
もし
俺は靴を脱いで下駄箱に突っ込んだ。
家に入る前に靴を脱ぐことも新鮮だった。
俺は玄関わきの階段を上って自分の部屋の前に立ち部屋の中の気配を探った。
ドアの向こうには予想通り人の気配はしない。
思い切ってドアを開けたが、もちろん誰もいなかった。
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