サイタマダンジョン

山口遊子

第1話 血戦、魔王城!

[まえがき]

毎度の現代ファンタジー。よろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 勇者召喚されたイチローは4人の仲間、賢者オズワルド、聖女マリアーナ、盾戦士バレル、弓術士イザベラ・ハイマンとともに10年にも及ぶ戦いの旅を続けていた。

 ここ数年は、人族連合軍と連携し、軍と魔族軍との戦いに介入し戦いの帰趨を決める働きをしていた。


 そしていま魔王サラバンの居城のある魔族の都ハイスローンの前面に広がる田園地帯において人族連合軍2万が魔王軍の最後の軍勢5000と対峙していた。


 魔王軍を指揮するのはサラバンの腹心である4大魔人のひとりヨールテル。

 彼の指揮のもと、魔王軍は劣勢をものともせず戦いを有利に展開していた。


 イチローたち5人は戦場を迂回し、ヨールテルが指揮を執る魔王軍本陣に横合いから突入した。

 本陣を守る魔族の兵士たちを切り伏せていき、最終的にヨールテルとの一騎打ちにイチローが勝利した。

 ヨールテルが討ち取られた後、魔王軍は総崩れとなり、人族連合軍によってほとんどの魔族兵は討ち取られ戦野にむくろをさらした。


 人族の軍勢は魔族兵を蹂躙じゅうりん後、先を争って防御のための外壁を持たないハイスローンに殺到した。

 ハイスローン内のいたるところから火の手が上がり、人族の兵たちにより抵抗するものは容赦なく殺された。


 イチローたち5人は、そういった敗者の町や村ではおなじみの光景の中をハイスローンの中心に建つ魔王サバランの居所ジルベルトハイネス城を目指した。


 城への途中、瓦礫の中にまだ息のある魔族がいた。

 イチローたちは無視したが、そういった魔族は人族の兵が見つけ次第始末**していった。

 これについては一種の慈悲なのかもしれないとイチローはぼんやり考えながら歩いていた。


 城へ続く大通り。

 おそらく何かの店の看板が通りに打ち捨てられ、俺には読めない文字で書かれたその看板を踏みつけて人族の兵士たちが走り去っていった。


 かつては壮大な神殿だったと思われる建物があったが出入り口は塞がれ*******、屋根が焼け落ちた建物の中から黒い煙が上がっていた。


 1時間ほど破壊され尽くした市街を歩き、魔王の居城ジルベルトハイネス城にイチローたちは到着した。

 ジルベルトハイネス城は巨大ではあったが城とは名ばかりで、城壁はあるにはあったが建設中のようで、高さも3メートルもなかった。

 人族との戦いの中で急いで城壁を整備したようにイチローには見えた。


 城門はもちろん閉じていたが、未完成の城壁上には誰もいなかった。

 その城門目がけて、賢者オズワルドが極大のファイヤーボールを放った。

 轟く爆発音。


 立ち込める噴煙がおさまった先に現れたのは、城門の手前の地面は抉られたものの、健全な城門と城門に連なる城壁だった。


「さすがにこの程度の魔術では破れませんか。

 それでは、もう少し高度な魔術を試してみますか」

 オズワルドがしばらくの間小さく唇を動かし、最後に『……わが魔力よ浸潤し破壊せよ。オズモティック・ディストラクション』という言葉が聞こえた。


 と、同時に、飴が溶けるように城門が溶け落ちた。

「熱いわけじゃないから、上を通ってもだいじょうぶです」

 そう言ってオズワルドが先頭に立って進もうとしたので、イチローが先頭に立ち門の残滓を乗り越えて彼ら5人は城内に侵入した。


 城内にはいたるところに魔族が潜んでいたがイチローたちに手出しをする者はいなかった。

 彼らを無視し魔王を探しながら城内を歩き回ったイチローたちはついに荘厳なレリーフの施された両開きの扉の前にたどり着いた。


 そこで、イチローは今まで手にしていた魔剣ネグザルを背中の鞘に納め、同じく背中に負った鞘から聖剣エノラグラートを引き抜いた。

 聖剣エノラグラートの剣身は青白く輝いている。その輝きは敵味方の区別なくあらゆる魔術を封じてしまう。


 イチローが手に持つ聖剣エノラグラートの青白い輝きが一段と増した。


「エノラグラートの光が増した。魔王はこの先に違いない。

 扉を開けるぞ。みんなこれでケリをつけるからな」

「「おう!」」


「祝福の祈り」

 メンバーのひとり、聖女マリアーナが聖なる祈りを始めた。


 鞘から抜き放たれた聖剣エノラグラートの光は一切の魔術を無効にするが、聖女の祈りだけはエノラグラートの影響を受けない。

 言い換えれば、だからこその聖女だ。

 マリアーナの祝福の祈りによってマリアーナを含めた5人全員の体がわずかに金色に輝き始めた。


 盾戦士バレルがマリアーナとオズワルドを守るため一歩前に出て盾を構えた。

 弓術士イザベラは射線を確保するため一歩脇により弓を構えた。


 イチローは聖剣エノラグラートを右手で持ち、左手を片側の扉に賭けた。

「扉を開けるぞ!」


 4人がうなずき、イチローは扉を押し開いた。

 その瞬間、紫の電撃がイチローたちを襲ったが、紫電は彼らの手前で霧散した。


 扉の先は大広間で部屋の中は豪華な調度品が無数に飾られており、赤い革鎧を着た魔人と思われるひとりの女が部屋の中央に立っていた。


 その魔人の先、部屋の奥の一段高くなったところにひとりの男が玉座らしき椅子の上に座っていた。

 その男こそ魔王サラバンだ。



 女はイチローたちに向かって数歩前に出、そこから一言。


「王の剣、ブレードダンサー、セルジナ。推して参る!」


 セルジナと名乗る女魔人が両手に短剣を携え突進してきた。

 イチローはそれに応え聖剣エノラグラートを上段に構えセルジナに向かって突進した。

 弓術士イザベラの放った矢がセルジナの左肩に命中し、彼女の着る赤い革鎧を貫き深々と突き刺さった。


 それでもセルジナはひるむことなくイチローと剣を合わせた。


 ふたりの動きはほとんど目視出来ないほど高速だった。

 数度剣戟による音が響き火花が散った。

 更に数合、エノラグラートとセルジナの短剣が打ち合った。

 そこでセルジナの右手の短剣が根元から折れ飛んでしまった。


神剣**の光さえなければ

 無念! 陛下申し訳ありませんでした」


 動きを止めたセルジナの首に向け横一閃。

 エノラグラートが振り抜かれ、セルジナの首は床に転がった。

 セルジナの死体の切り口からは血が噴き出ることもなく、やがて死体も彼女の首も砂のように崩れて消えていった。これこそが彼女が魔人であったあかしである。



 セルジナが敗北したところで、玉座に座っていた魔王が立ち上がった。

 身長はイチローより頭一つ高かそうだ。

 魔王は漆黒の全身鎧を身に着けており、鎧には血管のように見える赤い筋が浮き出ていた。


 彼の周りには赤いオーラのようなものが渦を巻いている。

 このオーラがある限り魔王サラバンにはいかなる攻撃も無効となる。

 漆黒のフルフェイスヘルメットの下の素顔をうかがうことはできなかったが、魔王サラバンがバイザーの下から鋭い視線を投げかけていることはイチローたちも肌で感じていた。


 漆黒の大剣を構えた魔王サラバンに向かって、イチローが駆け寄り激しい戦いが始まった。

 イチローと魔王サラバンはどちらも一歩も引かず互角の戦いを繰り広げている。

 言い方を変えれば、どちらにも決め手がないようだった。


 魔王に後方の3人に手出しする余裕がないことを見て取った盾戦士バレルはイチローのもとに駆け寄り、魔王との死闘に加わった。


 バレルの右手にはこれまで無数のモンスターや魔族を叩き潰してきた黒鋼こくこうのメイス。銘こそないが不壊と言われている。

 左手には銀色に輝く丸盾エルサイヤ。

 バレルは丸盾エルサイヤをときおり魔王に向けて叩きつける。

 エルサイヤが魔王サラバンに触れることはないが、そのたびに魔王がまとう赤いオーラがわずかばかりエルサイヤに吸収されることがうかがえる。


 魔王は少しずつ二人に押され、いつしか赤いオーラも消えていた。


 さらに戦いは続き、とうとう魔王の動きが止まってしまった。

 彼の右手は手首から切断されて既になく、大剣も刃先が折れていた。

 彼の漆黒の鎧の赤い血管模様も色を失っていた。


 サラバン自身すでに意識を失っているのか微動だにしない。

 戦いの中で周囲の壁は崩壊し、飾られていた調度はほとんど破壊されてしまった。


「これで最期だ!」

 勇者長谷川一郎(はせがわいちろう)が床にひざまずく瀕死の魔王、サラバンの首に青白く輝く聖剣エノラグラートを振り上げた。


 その時一郎とサラバンがまばゆい白光に包まれた。


 光がおさまったあと、一郎とサラバンの姿はそこにはなかった。

 残っていたのは、二人が立っていた場所に残った白い光を放つ魔法陣だけだった。

 その光も徐々薄れて消えてしまった。

 


「「イチロー!」」

「いったい、何が起こった?」

 残された4人の声に答える者はいなかった。



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