第7話 ダンジョン2
俺はスマホでダンジョンについての一般知識を仕入れていった。
あと大事なことだが、今のところダンジョンで魔法の
魔法なんかがあると現在の犯罪捜査やら証拠能力なんかを根本的に見直さないといけなくなるし、万能のポーションが見つかればそれこそ命が
魔法の類を絶賛秘匿中の俺が言うのもおかしいが、冒険者が個人ベースで秘匿している可能性がないわけではないので、実際はどうか分からない。
そういったものがない代わりにダンジョンで活躍していると身体能力が格段に上がるらしい。
その結果、ダンジョン免許取得者はプロアマ問わずスポーツ大会への出場は禁止されている。
一度、自衛隊のダンジョン探索チームから選抜したサッカーチームとJ1で優勝したチームとで親善試合を行なったところ、自衛隊チームがJ1チームに圧勝してしまった。
その後、ファン離れとプロ側のモチベが下がってしまうということでそういった試みは行なわれなくなったそうだ。
気持ちは理解できる。
ふむふむ。
俺が召喚されたあの世界にダンジョンはなかった。
その代わり大昔の遺跡のようなものがいたるところにあり、そういったところにモンスターが住みついていることがよくあった。
地下にもそういった遺跡が散在していたので、それをダンジョンと呼べないこともないが、階層が重なったようなものではなく、あくまで平面だった。
あの世界でのことは今の俺には意味のないことだし、その時の経験が直接役立つわけでもないだろう。
元勇者の俺がどこまでやれるか分からないが
ダンジョン高校に入学するのがいいか、普通高校に入学するのがいいか?
進路調査票を前にして、ここは思案のしどころだ。
ダンジョン高校を卒業すれば5階層まで潜れるCランク免許が取得できる。
これに対して一般枠での免許=Aランク免許では1階層だけしか潜れない。
1階層はどのダンジョンも直径10キロほどの円形フィールド型のダンジョンで、出てくるモンスターはスライムとか昆虫型のモンスターだけらしい。
そこでどうやって稼ぐかというと、モンスターには核があり、その核が先端技術の素材になるそうで、結構な値段で買い取ってくれる。
とは言うものの1階層にはビギナーや休日冒険者がひしめいているのでエンカウント率は極端に低く、また横取りなど対人トラブルも多いという。
さらに1階層のモンスターから手に入る核の大きさはビー玉ほど。
それでも手取りで3千円から5千円近くするらしい。
たかが5千円だともいえる。
そういったこともあり1階層でBランクへの昇格資格となる1千万円を稼ぐのは毎日ダンジョンに潜って最短でも丸2年、延べ700日はかかると言われている。
しかし、どうなんだろ?
高校1年から空いた時間ダンジョンに潜って大学の4年を足して7年間。
俺には気配察知能力もあるし、7年もあれば1千万程度何とか稼げそうな気がする。
対人トラブルは嫌だが俺は元勇者だしそれほど困ることもないと思う。
スライムと虫をピチピチたおしていくのは飽きてくるかもしれないけれど、アルバイトと思えばそれほど悪くはない。
ダンジョン高校に行けば大学進学は無理ではないにしてもかなり難しいだろう。
ということはダンジョン高校を卒業したら専業冒険者一択だ。
俺自身今のところ将来何がしたいわけではないがやはり大学には行ってみたい。
となれば普通高校に進学でいいな。
高校はうちから通えるところならどこでもいい。うちからならサイタマダンジョンに自転車で行けるし、駆けて行っても問題ない。
大学は高校に入ってからの俺の成績次第だからその時になって考えても遅くはないだろう。
ダンジョンについて調べていたら、先日トップチーム『はやて』が20階層のゲートキーパーを撃破する映像があった。
場所はかなり広い空洞の中。
天井の高さは10メートルはあるように見える。
はやてのメンバーは揃いの防具を身に着けていた。
その防具のいたるところにF1レーサーのようにメーカーのロゴマークが貼り付けてあった。
トップチームともなるとスポンサーからかなりの広告料が入るのだろうし、こうした映像の再生回数でも多額の報酬を得るのだろう。
それはさておき、2台のクローラーキャリアのライトに照らされたゲートキーパーの見た目は真っ黒いオオカミだった。
黒オオカミの大きさはつま先から肩までで人の背丈ほど、鼻先からしっぽの付け根までその2倍程度。
バカでかいと言えばバカでかい。
その黒オオカミを6人がかりで攻撃していた。
黒オオカミは見た目からは考えられないほど俊敏な動きだ。
冒険者たちの攻撃をかわし、隙を見て口や前足で冒険者を攻撃する。
とはいえ、そこまで俊敏というわけでも隙が無いわけでもない。
冒険者たちの隊形は3人の前衛が盾と長剣を持ち、槍持ちの中衛のふたりと弓を持つ後衛のひとりをガードしている。
火力は弓矢が10とすると槍がふたり足して10、前衛3人はほとんど火力には貢献せずもっぱらガードに徹している。
基本を押さえた良いチームだ。
槍の火力があまり高くないのは、突き出される槍を黒オオカミが巧みにかわすため有効打が少ないためだ。
それに対して弓持ちの放つ矢は黒オオカミにかわす間も与えず、命中し突き立っている。
そんな感じで黒オオカミだけダメージが蓄積していき、30分ほどの攻防で黒オオカミは倒れた。
攻略チーム側は前衛二人が腕から血を流している程度のダメージでほぼ完勝だった。
30分耐えきった前衛3人が今回の殊勲賞といったところだろう。
この戦いを黒オオカミ側に立って批評すると、黒オオカミは巨体を生かして突進するべきだった。
そうすれば多少の傷は負うだろうが前衛の3人をまとめて吹き飛ばし、後衛までダメージを与えられたと思う。
だが、そういった攻撃を黒オオカミは一切しなかった。
もし受け止められれば体勢を立て直すまで袋叩きに遭うわけだからそれを恐れていたのかもしれないが、攻撃がいかにも及び腰だった。
20階層程度のモンスターではそういった戦術面や気迫といったところを含めて、たいしたことなかったということだろう。
撮影は各人のヘルメットに付けられたカメラによるものらしいが編集されており、ほとんど弓持ちの視線での撮影になっていた。
撃破後、時間を飛ばして黒オオカミの体から取り出した核が映し出された。ソフトボール大の核は黒光りしていた。
黒オオカミの解体も終わっているらしく2台のクローラーキャリアには膨らんだ緑色のビニールの袋が積まれていた。
トップチームといっても、向うの世界でいえばせいぜい中堅どころ。
向こうの世界では冒険者といった職業はないが、ある程度訓練した戦士なら3人もいれば数分で片付けられるようなオオカミだった。
もちろん俺が大剣を持っていれば一太刀でたおせたと思う。
ちょっと安心した。
ただ、今の俺には聖剣もなければ、鎧もない。
それに俺の体もあの世界にいたときと同程度動く保証は今のところないので、エラそうなことを言っても口先だけということも十分あり得る。
後で調べたところ、階層を繋ぐ階段はたいていの場合坑道の突き当りで大きく膨らんだ空洞中にあり、ゲートキーパーは階段を守るためその空洞から出てくることはないということだ。
なので、離脱を考えて空洞の出口近くで戦うことがセオリーだそうだ。
治癒魔法もヒールポーションもないなら、いくらいいところまでいっていようが離脱するのが常識だよな。
[補足]
ダンジョンは深く潜れば深く潜るほど希少なダンジョン資源を得る可能性が高まるが往復に時間がかかる。
個人ベースで考えれば深く潜るほど収益は上がるものの、国から見た場合、多数の冒険者が4、5階層までで資源を持ち帰る方が持ち帰る資源総量、資源総額は大きくなる。
そのため政府は下層の攻略を推奨しておらず、下の階層につながる階段前に陣取るゲートキーパーに手こずっていても火器の使用は認めない方針を貫いている。
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