第4話 学校で
翌朝。
夜の間に
これで俺はひとりしかいないということは確定だろう。
ひと安心だ。
朝の支度を終えてテーブルに着いたら母さんが俺の顔をまじまじと見て驚いていた。
「一郎がこんなに早く起きるって珍しいけど、いいことよ」
確かに10年前までの俺は毎朝ギリギリまで寝ていて遅刻ギリギリで登校していた。
朝食後、宿題があるかもしれないということを思い出したのだが、宿題があったかどうか全く思い出せなかった。
思い出せない以上どうしようもないので、カバンの中に月曜の時間割りの教科書とノートを入れ、今日の5時限目の体育用に学校指定のスポーツバッグに体育着を突っ込んで玄関を出た。
玄関を出たら隣の同級生中村結菜(なかむらゆいな)に遭った。
10年ぶりの結菜の顔はひどく幼く見えた。
「一郎。おはよう。
今日はやけに早いじゃない」
「おはよう。早く目が覚めたからな」
結菜はいちおう俺の幼馴染だ。
幼馴染と言えば聞こえはいいが、なんら特別な感情はないし、この10年間で結菜のことを思い出したことはただの1度もなかった。
確か結菜はテニス部かなんかで朝練のため登校時間はかなり早い。
結菜はショートヘアでいかにもボーイッシュ。
小学校の低学年当時は結菜とあんなことやこんなことをした仲だったが、帰宅部だった俺と登校時間が重なることは中学に入ってからは一度もなかったハズ。
そんなことを思い出しながら何となく結菜とふたり並んでの登校となった。
通勤の人は何人も歩いていたが、不思議と俺の中学の連中は道を歩いていなかった。
ちょうどよかったので結菜に宿題のことを聞いてみることにした。
「なあ、結菜」
「なに?」
「今日って宿題あった?」
結菜の顔がニヤリとしたような。
「一郎。さては宿題してないな」
「宿題あったんだ」
「見せてあげないからね」
別に宿題を見せてもらおうとは思わなかったんだが、内容が分かれば学校に行ってからできるしな。
「宿題の中身じゃなくてどういう宿題だったかだけ教えてくれないか?」
「あんた、全然授業聞いてなかったんだね。
まあいいわ。学校に着いたら教えてあげる。
ノートも貸してあげるわ」
「ノートはいいよ。時間があるから自分でするから」
結菜は足を止めて俺の顔をまじまじと見た。
「一郎。どうしたの?
あれ? それになんだか感じ変わってる?」
「そんなことないと思うけどな」
心当たりアリアリだけどとぼけておいた。
「まあ、いいけど」
ふたりそろって教室に入ったら、まだだれも登校していなかった。
椅子に座ってカバンの中から教科書とかノートを机の中に入れていたら結菜が数学の教科書を持ってきてくれて宿題の範囲を教えてくれた。
「宿題はこっからここまで。
わたし部活に行くから」
「サンキュウ」
結菜は教科書をしまって、荷物を持って教室から出ていった。
俺は数学の教科書とノートを開き先ほど結菜に見せてもらった範囲に丸を付けてさっそく問題を解き始めた。
問題は10問ほど。
10年ぶりの数学の問題だったけれど、そんなに難しいわけでもなく難なく最初の問題が解けた。
数学はどちらかと言えば
勇者だったことが影響してるのだろうか?
身体の能力は格段に上がっていたわけだから頭の方も良くなっているのかも?
もしそうなら10年間の苦労も報われる。
この世界が俺の記憶している日本とは多少違ってはいるが、許してやろう。
俺が宿題の問題を半分くらい解いたあたりから、ボツボツと同級生たちが登校してきた。
「うぃーす」
「おっはよー」
「……」
教室に入ってくる連中のあいさつはまちまちだ。
俺は教室に入ってくる彼らに振り向くことなく適当に「おはよー」と言っておいた。
「長谷川。宿題今やってるのかよ?
終わったら俺に見せてくれよ」
と、特に仲が良かったわけでもなかったはずの金田が宿題をやってる俺の姿を見てやってきた。
宿題というものは訓練だ。
それをズルしたところで本人のためになるとは思えないが、別に金田の将来のことを俺が心配することもないので「もうすぐ終わるから、貸してやるよ」と、答えておいた。
「サンキュウ。恩に着るぜ」
相手は軽薄を絵にかいたような金田だ。
恩に着ると言っても何の恩返しもないだろう。
それから5分ほどで宿題は終わったので金田を呼んでノートを貸してやった。
始業ベルが鳴りしばらくして担任の前川先生が教室に入ってきた。
もちろん結菜も制服姿で席についている。
前川先生は出席を取っただけで教室から出て、1時限目の先生と交代した。
1時限目は国語の時間。
授業中、先生が教科書に書かれた百人一首の中の短歌を朗読して解説していった。
昔は一度聞いただけでは全く意味が分からなかった百人一首の短歌だが、今聞くとほとんど先生の解説なしでも表面的な意味なら理解できた。
俺ってやっぱり頭よくなってる。
何となくニマニマしていたみたいで、先生に指されてしまった。
「長谷川、なにが嬉しいのか分からんが、この『花の色』って何を表している分かるか?」
「はい。花の色というのはまず一つは花の美しさを表しています。
もう一つは、自分の容色のことも表している。と思います」
「ほう。正解だ」
さすがにその程度誰でも分かる。
分かるよね?
国語の授業は滞りなく進んでいき1時限目が終わった。
短い休憩を挟んでの2時限目。
宿題の出ていた数学の授業だ。
休憩時中に金田からノートは返してもらっている。
「それじゃあ、宿題の問題を前に出て解いてもらおう。
問1から問5を金田、中村、長谷川、山田、児玉」
今回も当てられてしまった。
ノートを見ながら黒板に書くだけだから別にいいけど。
先生に当てられた俺たち5人がノートを持ってぞろぞろと黒板の前に行き、チョークでノートの解答を黒板に写し始めた。
教室の中にチョークが黒板に擦れる音だけが響いた。
俺は後ろに目が付いているわけじゃないけれど、気配だけで先生の様子が分かってしまった。
先生はいつものように生徒たちの机の上の広げられたノートを覗き込みながら教室を回っているはずだ。
それはそうと、みんな私語もなく真面目だな。
俺は3分ほどで黒板に解答を書き終えて席に戻った。
それから、3分ほどで全員解答を書き終えて席に戻った。
そこから先生が黒板の解答を見ながら解説を始めた。
「問1は金田だな。
おっ。この変形よく思い付いたな。
こういった変形は塾で教わったのか?」
「あっ、いえ。えーと」
「ほう。自分で思いついたのか。見直したぞ」
金田が先生に褒めらた。
そしたら、クラスの誰かが、
「先生、金田は長谷川のノート写しただけでーす」
と、バラしてしまった。
「感心はしないが、宿題を貸してもらえる友達がいることは悪いことじゃない。
次回はちゃんと自分で解くように」
「は、はい」
「次は中村だな。
……。
問2で引っかかるとことはこの辺りだけど、問題ないな。
よし」
「問3は長谷川だな。
どれどれ。
ほう。きれいに解いてるな。
授業で教えていない解き方だから生徒に勧める解き方じゃないがもちろん正解だ。
長谷川はたしか塾に行ってなかったよな?」
「はい。どこにも行ってません」
そのあと、先生がいわゆる普通の解き方を黒板に書いた。
そして、問3から問5まで終わり、問6から問10まで新しく5人が指名されて黒板の前に立った。
数学の授業が終わったところで
ちなみに俺の席は窓側一番後ろの特等席だ。
逆に結菜の席は出口側の一番後ろ。
「一郎。どうしちゃったの?」
「何が?」
「だって、いままで数学得意じゃないって言ってたじゃない」
「そうだったっけ?」
「実際、平均点あたりをうろちょろしてなかった?」
「あー、そういえばそうだったような」
あれ? 俺って数学得意じゃなかったのか?
すっかり得意科目だと思ってた。
何であれ今現在の俺は数学に対する苦手意識は微塵もない。
これだけは確かだ。
というかまだ2教科授業を受けただけなのだが、今のところ自信のない科目は全く思いつかない。
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