青空の彼方へ

karaage

第1話 記憶の彼方

突然だが、俺には記憶がない。

一般常識なんかは分かるが、所謂『思い出』というやつが、俺にはなかったわけだ。

ただ、そんな記憶のない俺でも『カナタ』という名前だけ覚えていた。

そんな俺が、神社の御神木の下で倒れているところを、神社の神主である神宮司隆弘さんに拾われ、神社の仕事である怪異退治を手伝いながら、唯一覚えていたカナタという名前で生活していた。


「か~なた~何書いてるの?」

「日記だよ日記。こうでもしないと、またいつ記憶をなくすかわかんないだろ?」

「ふ~ん。そ~ゆ~もんなの?」


そう話しかけてくるのは、俺を拾ってくれた隆弘さんの娘の、神宮司梓葉だ


「まあいいや。朝ごはんできてるよ」

「オーケー。すぐ行く」


そういいながら日記帳を閉じ、階段を降りると、おいしそうな魚の匂いが俺の鼻を刺激した。

もうすでに隆弘さんと梓葉は着席していて、俺が座るのを待っていた。

俺が座ると全員で


「「「いただきます」」」


と言い、朝食を食べ始めた。

俺がサバの塩焼きを半分ほど平らげたとき、新聞を読んでいた隆弘さんが、俺たち二人に話しかけてきた。


「そういえば、今日は怪異退治の依頼が二件ほど入っていてね。僕は今日予定が入っているから、二人だけで依頼をこなしてもらいたいんだよ。今日は日曜日で学校もないし平気だろ?」

「俺たち二人だけで大丈夫なんですか?」


俺はびっくりして聞き返した。

普通、見習い二人だけで怪異退治に行くのは危険なはずだ。

俺のそんな思いを察してか


「大丈夫。怪異といっても、二件ともそんなに危険なものじゃないよ」


と返してきた。

そんな言葉だけじゃ不安なので、俺はその怪異がどんなものなのか聞いてみた。


「一件目は、民家の塀に落書きがされていたというもので、おそらく化け狸の仕業、二件目は、森が荒らされていたというもので、これは僕が現場に行ったんだけど、呪力の残穢からして、二人で十分倒せると思うよ」


そういわれても不安なものは不安だ。

これまで、俺たちが怪異と相対するときは、必ず隆弘さんが監督してくれていて、ミスっても最悪隆弘さんがカバーしてくれていた。

しかし、そのカバーがないと、最悪命を落とす危険がある。

だが、梓葉は乗り気で、もう怪異退治の支度をしに部屋へ戻った。

そんな感じで、俺はあまり乗り気じゃないけど、二人だけで怪異退治をすることになった。


そもそも怪異とは現象のことであり、退治といってもただぶっ飛ばせいいってわけじゃない。

例えば妖怪がなんかしでかしたとしよう。

妖怪とは、生活域や、人間に近い容姿をしていたり、元人間だったりとかで、共存をしないといけない。

だからある程度のことでは説得したり、少し懲らしめるぐらいで終わらせることが多い。

だが、人語を理解できなかったり、話を聞かないで暴れまわったりするやつは消滅させるしかない。


「・・・こんな感じで、退治にはいくつかのルールがあるからな」

「そんなことどーでもいいいからさっさと退治しに行こうよ」


ちゃんと聞けよと内心イラっと来たが、さっさと出ていった梓葉を追いかけて、俺は怪異退治に向かった。





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