光が消えると、黒髪ストレートロングの女が立っていた。

恐らく転送を読まれたのだろう。

女は先手を打って、何か魔法を使った。

辺りが靄に包まれる。

「ようこそ、勇者か何かなのかしら?」

勝ち誇った笑顔で女は聞いてくる。

「お前が、世界を滅ぼそうとしていた狂った神だな!?」

狂った神と呼ばれているのか。

「狂ってなんかいないわよ。この世界は駄目だから、私が造り直してあげようとしているだけ。」

剣を構えたロジャーに女は言い返す。

「世界の何が駄目なの?貴女が自分に都合の良い世界じゃないから?」

ネネが続ける。

「そうね…誰しも自分の都合の良い世界を求めるものではなくて?」

女は手に魔力を集め始めた。

黒い…闇魔法だと!?

闇魔法と光魔法にはその他の属性は通じない。

俺もこの身体では魔法を使っても意味が無いという事で。

「く、黒い魔法…。」

ダリアが障壁の魔法を使おうとした。

「ま、魔法が発動しない!?」

「この靄のせいよきっと!」

クララは靄を剣で払おうとするが、靄は一向に無くならない。

「物理でいくしかないってことか。俺とクララで行くぞ!」

ロジャーとクララは女に突進する。

女は面白そうにホーミング弾を放ち、避けられない二人に何発も当てる。

靄を作った本人は魔法を使えるようだ。

ロジャーがジャンプした際に、ホーミング弾が上から叩き落とすように放たれて、モロに喰らってしまう。

俺は回復魔法は持ち合わせていない。

回復はポーションを持ったダリアに任せるしかなかった。

そして俺はそろそろ頃合いだと考えていた。

「…お前らに頼みがある。」

「な、なあに、こんな時に?」

このタイミングでこの台詞は『俺に任せて逃げろ』とでも言いそうだと思うよな。

クララに心配されてしまう。

半分当たりではあるが。

「今からここで起こることを内緒にしてくれるか?」

ロジャーは倒れたままでダリアにポーションで回復してもらいながらこちらを見る。

ネネが悲痛な顔をする。

「まさか…一人で戦う気じゃ?駄目よそんなの!」

「貴方が死んだら悲しむ人も居るんだからねっ!」

クララが涙を流し始めた。

大袈裟になってしまった…。

「とにかく、約束したぞ。そうそう…もう一つ。」

俺は言葉を口にしながらダッシュで女に詰め寄る。

「この事が済んだら、功績はお前らの物に。俺の事は言わないこと、だ。」

言い終えると、俺は放たれる弾をかわしながら女の懐に入り、掌底を喰らわせて吹っ飛ばす。

「なっ……!?」

その場の誰もが驚いたようだ。

「かっ…ごほっ!お、お前……魔道士じゃなかったの!?」

掌底を喰らって倒れ伏す女は咳き込みながら、己の計算違いに慌て始める。

「そんなことは誰も言っていない。」

「チッ!」

女は戦法を変える気で靄を消す。

そしてすぐにホーミング弾を先程のように、俺に向けてくる。

靄に魔力を割いていない分、弾の数が多い。

余程腹パン喰らったのが気に食わなかったのだろう。

俺は全てかわしながら女を飛び越して、魔力弾を女に被弾させようとする。

「なっ、何なのよあなた!」

自分の魔法が当たりそうになって、咄嗟に魔法を打ち消す女。

俺の動きが読めずに戸惑っているようだ。

「こちらも聞きたい。お前はどうしてこの世界を滅ぼそうとしている?」

「あなたに関係ない話よ!」

女はヒス状態で詠唱を始める。

闇のオーラが漂い始める。

大技は面倒だ。

この世界にダメージを与える可能性があるからだ。

俺は元の姿に戻ると、即結界で女と俺を覆う。

もう正体を隠す必要も無いだろう。

これできっと帰れる筈だから。

「や…闇の結界ですって!?」

気付いた女が詠唱をやめてくれた。

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