未完成の楽譜【4】



 その日、花音はオレを起こしにこなかった。

 オレは遅刻しそうになって慌てて、家を飛び出た。


 学校で、


「もう起こしに行くのやめたしお弁当も作らない」


 と言われた。


 なんで!?


 そして昼休み、クラス委員長と飯を食う花音を見かけた。


 いきなりの塩対応にオレは動揺した。

 というか、オレから離れようとしてないか!?



 ――ひょっとして、甘えすぎた!?


 このままでは見捨てられる。やばい。

 オレは、授業中、ずっと考えた。


 いやだ。

 前世での思いもあるが、現世でもオレは花音が大好きなんだよ。


 花音はなんだかんだオレに甘いから、ついつい甘えていた。

 やりすぎた。

 反省した。


 失いたくない。


 オレは次の日から怒涛(どとう)の勢いで逆に花音の面倒を見るようにした。



 ※※※


 しかし。

 なんだ、この状況は。


 花音にオレから関わりにいくようになった途端、花音が危ない目に合い始めた。

 偶然にしても多すぎだろ。


 なんで階段から突き落とされるの?

 なんで屋上フェンスが倒れて落ちそうになるの?

 なんで歩道歩いてるのに車にひかれそうになるわけ!?


 なんなの!? おまえ、厄年なの!?



※※※


「……例えば、私の余命が短かったとしても、奏は私が死んだ後もちゃんとやってける?」


 ――距離を置きたいと言われたので、おれは嫌だったが、無理強いするのも駄目だと思い……

「本当に、距離をおきたい?」

 とこっちから聞きなおしたら、明後日の方向からそんな事を言われる。


 前世のやつれた彼女の姿がフラッシュバックする。



 ――なんで、そんなことを言うんだ。

「え、なんだよ。それ。おまえ病気かなんかなの?」


 心が震える。


 ただの例え話だとはぐらかす花音だったが、何かがおかしいと感じる。

 そしてピアノを再開して金賞とれとか、言い始めた。


 それが条件だというなら、死にものぐるいでやる。


 ――けれど、そんなことより。

 まさか、今生も病気になったり……しないよな?


 オレは、その日からピアノを猛練習するようになった。

 嫌な予感を振り払うかのように。


 だが、彼女はこの度も、不治の病にかかった。

 ……また前世と同じことを繰り返すのか?



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