未完成の楽譜【3】


 ザーーーーーーーーー。


 オレは雨の降る墓場に立っていた。

 あふれる涙がとまらない。


 不治の病で彼女は逝ってしまった。


 その世界でのオレはピアノは本業ではなかった。

 オレは家業を継いで寿命まで生き、死んだ。


 楽譜は未完成のままだった。



 ※※※


「――え」


 オレはうたた寝から目をさました。


「少し寝てたね」

 花音がそう言った。


 ――前世であれだけ愛していた彼女が、元気で、目の前にいる。


 今生の指の怪我を忘れるくらいの衝撃と喜び。

 前世のオレが心の中で、震えて泣いている。


「やだ、泣いてるの? 怖い夢でもみたの?」


 花音は笑ってオレを小突いた。


 オレは彼女に抱きついた。


「ちょっと!?」


 生きている。

 彼女が生きている。




 オレはその気持が落ち着いてからは、学校に行くようになったが。

 ますます花音に甘えるようになった。


「ほらーーーーーーーーーーーーーー起きなさいよ!!」

「やだ」

「起きなさいって」

「いやだ」

「そんなだともう起こしてあげないわよ!!」

「それもいやだ」

「きーーーーーーーっ!!」


 花音にかまわれたい。

 オレは朝にこのやり取りをやりたくて、わざと起きなかった。


 うれしい。

 ずっとこんな日々が続けばいいのに。



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