16.時獄の使者【面】

〈──ブツッ、ツ、……おう。布助、首尾はどうだ。〉

「あぁ! 旦那様ァ、ご連絡が遅れやして──」

〈てめえ、今のなりで下臈丸出しの物言いをするんじゃあねえ。デンワってのは念を送るのと違えだろ〉

「……おぉ、あーーぁぁ」

〈人払いはしてンだろうな? なんのためにコテコテの訛りまで誂えてやったと思ってんだ〉

「すまんすまーん間違えてまったわーおめえさんやったかーーやっとかめやなも。なん、ここ最近ようけネタあるで、ちょびっと耳に入れたらなかんと思いましてな。まあこっからはちょいと声を小させなかんけどもな、姉弟そろってよう笑うとるよ。なんだしゃん前より明るぅなったわ、あの一家。長女が首だけになっとるちゅうのに呑気な──おお、おそがいわあ、ほんな凄まんでも。ほんで旦那方が揺さぶりをかけた言ってりゃーした、そうそう小指の件。まァー堪えとらんようですわ。ええ、ええそらつつがなく、へえ。へへへ、はい、あんばようやらせてもらいますワ」

 わざとらしいほど大声で畳み掛け、打って変わって受話器に囁く。

「……一人三役は流石にお疲れで?」

〈馬鹿言うない。寝食の世話は手前の三分の一で済む。多少狭ぇがこの貧相な身体にゃ魂三つ分も収まりきらねえってこッたな。おまけに一人は完全な役立たずだろ。はじめっからおれにぜんぶ任せりゃァ良かったのによ〉

「なーにを言っとりゃあす、殴られ役も居らなかんでしょう」

〈どうせ殴られるならもっと上手くやってくれねえと。まあ大目に見てやるけどよ。今やあいつら二人ともおれの子分みたいなもんだ。……そういや布助、ちょいと手を加えてやったがその身体の具合はどうだ〉

「何も問題あらせんが、まーちょい若けりゃよかったなも」

 受話器の向こう、カラカラと笑い声。

〈ま、なんだ。早く星首を連れて帰れとうちのムスメがうるせーのなんの、見つかるまで帰ってくるなとのお達しだ。世知辛えなァ〉

「お嬢さまにも奥方さまにも早よ会いとうござりますな」

〈まったくだ。星首の奴、そこそこ目敏い世話役の語り手まで用意しやがって、厄介な。しかも見たかよ、護衛の面々。あの除霊野郎と、野郎を連れてきやがったようわからん空手の女。あんなもん連れてくるってんなら、おれが多少出ばっても文句あるめえ?〉

「それについちゃあ手配したります。ああいう手合いは強力ですけども、世界の掟いうのに弱いんですわ。“せきゅりてぃ”を見直したもんで、もう邪魔には入れーせん」

〈さよけ。まああい変わらず面倒なのはあの祖母さんと母親だからな。語り手のガキが真面目に学舎に通うもんだから、その目のない間どちらかぴったり張り付いて守らせてやがる。それに道理が通っている。道理ってのはいちばん重要だ。あの除霊野郎はくたばらねえが、追っ払うのはわけもない……あいつが道理を無視してきやがるからだ。主導権が向こうにあるうちは滅多なことはできねえ。ちょっと潜ってを見てきたが、浅瀬のガキのお遊びかと思やあ、結構な語りの深度だぜ〉

「とはいえ、ここにきてあたしんたあ(たち)の通話を語りの合間に捩じ込ませることができたんであれば……」

〈逆巻く時の天衣無縫と起承転結のお約束通りさ。天地がひっくり返るかもわからねぇがな〉

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