15.気配【猫】
だけど、どんなに完璧な作戦も計画もあっけなくたち消えてしまったり、どんな思いの強さでもどうにも太刀打ちできない事態というのは起こりうるみたいでした。
ぼくは、満ち足りたらあとはすべからく次第に欠けてゆくだけのお月さまのことが、ほんとうに不思議に思えました。星の動きというのは、この世の理をあらわしているかのようです。
もったいぶった言い方をしましたが、最近の心配事といえば、姿を見なくなった鬼頭さんのことです。かあさんが教えてくれましたが、どうやら怪我で入院したといいます。坂道を自転車で下っている際に歩行者とぶつかったとか。一時は双方意識を失っていたそうですが、いまは鬼頭さんは話しかければ反応できるくらいにはなったそうです。頭を打っているので精密検査をして、何事もなく回復すれば時間がかかるけれど足腰のリハビリを行うとのこと。鬼頭さんが言うには「首から下が無うなったみたい」。
そして、もうひとりの歩行者は鶴見さんだったそうです。あんなにあのひとのことで騒ぎになったのに、かあさんをはじめ、もう誰も何も彼のことをもう話さなくなりました。ぼくらも、鶴見さんの姿を見かけることはなくなりました。
あんなにめちゃくちゃなひとも、居なくなったりするのでしょうか。ほんとに居ないのでしょうか。
ぼくらは変わらず生活を続けていました。たまに遠出もしますし、スーパークラガリ以外のところへも買い物にも行きます。近所のひとたちはみんな親切です。マラソンの練習はとてもつらいです。百々ヶ峰さんの提案で、クラガリでは高いところの商品を取りやすいよう踏み台が設置されました。恒例のアレとサプライズの準備は順調。すこし変わったことといえば、おばあちゃんの家の飼い猫のエリーゼは、誰もいないところにしきりに呼び鳴きしているのだそうです。
ふつうの日々が坦々と過ぎてゆくなかで、似たような事故がぼくらの身近でどんどんと増えて、幸いにも、彼のほかに居なくなったひとはいなかったけれども、いつしかこんな噂が囁かれるようになりました。
坂を下ったところの交差点には気をつけるんやよ。
白い猫が居ったらあぶないんやて。
お月様みたいな目で、見た者のこころを捉えてまうんやってさ。
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