6章 紳士と王都

第259話 大怪球

 自宅二階のバルコニーは六畳間ほどのスペースにベンチとテーブルが置かれ、湖が見下ろせる。

 後回しになっていたここの整備もすっかり終わり、温かい日はのんびり日向ぼっこもできるという寸法だ。

 今日も風がないせいか、午後の日の当たる時間はポカポカと温かい。

 そこでテーブルを片付け、床に絨毯やらクッションを引いて、くつろいでいた。


 新入り従者のメーナは、うちに来てからも何度か熱を出して寝込んだりしたが、街一番の医者とうちの僧侶による完璧な布陣で治療したおかげで、だいぶ元気になってきた。

 今は俺の膝の上で、一心に流れる雲を見ている。


「雲があんなに遠くて、どうやってあんなところまで行ったのかなあ」


 誰に聞くでもなく、独り言のようにつぶやく。

 雲の仕組みを教えるのは、もう少し先でいいだろう。

 今は目にしたものに、素直に感動する時だとおもう。


「メーナは女神ネアルの祝福を受けています。啓示を受けたとのことですし、巫女としての素質もあるかもしれません。体が元気になったら、少し修行をさせたいと思います」


 とはアンの言葉だ。

 かつてアンが色々仕込もうとしたウクレはフューエルに取られちゃったので、新しい弟子にしたいのだろうか。

 もっとも、アンの場合、新入りが入ると自分のポジションが決まるまで割りとマメに相手をしてくれているようなので、今もそういう段階なのかもな。

 そのアンは、今は隣で編み物をしている。

 メーナの手袋を編んでいるそうだ。


 裏庭では、フルン達が今日も元気に修行している。

 午前中は道場だが、午後はこちらだ。

 毎日シルビーも来ていて、コンビでの戦い方を必死に練習しているようだ。

 セスにしごかれながら、爽やかに汗を流している。

 猿娘のエットも、すぐそばで忍者剣士のコルスに稽古をつけてもらっていた。

 エットも身のこなしが軽業師から剣士の物に変わってきた気がするなあ。

 二人の名師範の下で、着実に成長しているのだろう。


 もう少ししたら大会に参加するために、都に向けて出発となる。

 都はゲートで一発だと思っていたのだが、どうも話が違うらしい。

 うちの女中師範であるテナが言うには、


「都中心部のゲートには、上級貴族などの限られたものしか直接の出入りを許されておりません。フルン達を連れて行くのであれば、一つ手前の街にでて、そこから陸路で都入りすることになるでしょう」


 とのことだ。

 セキュリティ的な問題かな。

 まあ、大した回り道ではないようだし、細かいスケジュールはアンたちが決めてくれるので、俺は今のうちに体を休めておくことにする。

 新年早々、魔界で大冒険をキメたのはいいが、長い禁欲生活の反動でハッスルしすぎたせいで、このところ体がだるい。

 膨大な魔力を使った事による後遺症ではないか、とデュースなどは言うが、多分そっちは関係ないんじゃないかなあ。

 実のところ、あのすごい魔法が本当に自分の力だったのかさえ、確信が持てない。

 あのあとも、小石一つ動かせてないからな。

 常にあっちのほうが、空っぽだからかもしれないが。

 まあ、ちょっと溜まったら誰かが絞りに来るので仕方ないよな。


 ふいにどこからともなく飛んできた綿毛が、抱っこしているメーナの頭に止まる。

 湖の畔に生えるアワダチソウかなにかかな。

 ふっと息を吹きかけると再び舞い上がり、今度はふわふわとアンの鼻にくっついた。


「あら、綿毛が」


 編み物の手を止めて、つまむ。

 しばらく眺めてから、勢い良く吹き飛ばすと、再びふわりと舞い上がるが、風がないせいか、舞い戻ってまたアンの鼻にくっついた。


「そこが気に入ったらしいな」


 俺がそう言うと、アンはしかめっ面でもう一度綿毛を取り、そのままポケットにしまいこむ。

 それを見たメーナがくすりと笑うと、アンもつられて微笑んだ。


「あ、太陽がもう、あんなに低く」


 メーナが西の空を指差す。


「冬の陽は短いからな」

「夏は違うんですか?」

「ああ、昼間はもっと真上まで登ってな、もう少し長い時間昼が続くんだ」

「昼の長さが違うと、不便じゃないですか?」

「ずっとそうして暮らしてると、すぐに慣れるもんさ」

「そうなんですか、夏も楽しみだなあ」


 とメーナが湖の北に広がる山並みを指差す。


「この時間は、あそこの山が魔界と同じ色に染まるのがきれいです」


 そう言ってメーナはじっと眺めている。

 俺もしばらく一緒に眺めていたが、日が傾くと急に冷えてきた。


「さて、少し冷えてきたな。ぼちぼち中に入るか」


 俺がそう言うと、メーナは立ち上がって下を覗く。


「フルンたちも練習終わったみたい。行ってもいいですか?」

「おう、行っといで。そろそろ撫子達も戻るだろう」

「はい」


 メーナは元気よく返事をして、部屋の中に入っていった。

 それを見送ったアンが、


「すっかり体もいいようですね」

「みたいだな、ちょっと心配してたが、気持ち体も重くなった気がする」

「体もそうですが、心の負担が大きかったのでしょう。こればかりは魔法や薬で治してやることができませんので」

「大丈夫さ、家で毎日うまいもん食って、遊び呆けてれば嫌でも元気になるよ」

「そうですね」

「お、撫子達が帰ってきたぞ」


 今日はうちの馬を馴染みの牧場に連れて行って、健康状態を見てもらったのだ。

 そのために撫子とピューパー、それに騎士連中が同行していたのだが、ちょうど今帰ったようだ。

 花子の背中にまたがる撫子とピューパーが手を振るのに、振り返す。

 俺もまた、馬に乗る練習をしないとなあ。

 むしろ、偉大な紳士様なら誰でも乗れる馬じゃなくて、象とかのもっとビッグなものに乗るべきじゃないかな?

 立派な輿とか乗っけて、美女を侍らせてふんぞり返って……。

 ちょっと良さそうな気もするが、こんな町中でどうやって象に乗るんだよ、と自分でツッコミを入れるのも面倒なのでやめておこう。


 うちは半分ぐらいが天上まで吹き抜けだが、北寄りのロフトがあった部分と、西側のお店の二階部分は廊下と小部屋がいくつかある。

 そのうちの一つが俺の書斎になる予定だ。

 湖に面した三畳ほどの小部屋で、小さな出窓と、扉が二つ。

 一つは内側の廊下に、もう一つは今いるテラスに通じている。

 テラス側の扉から中に入ると、貼ったばかりの床や壁に塗り込んだワックスの匂いがまだ残っている。

 家具は入っておらず、どういうレイアウトにするかは検討中だ。


 具体的に言うと、素っ裸の従者たちをギュウギュウに詰め込む方向で行くか、一人になりたくなったときにそれができる部屋にするかで悩んでいるのだ。

 前者は家の中ならどこでもできそうな気がするが、最近は来客や居候が多くて、ままならなかったりする。

 スィーダも今では従者だが、内弟子として住み込んでた間は結構気を使ってたしな。

 居候といえば、ドラゴン族のラケーラもいたのだが、今は白象砦に客分としてお邪魔している。

 本人曰く、地上の暮らしに興味はあるが、この街はいささか騒がしすぎて長く住むには疲れるとのことだ。

 結局、クメトスの取りなしで白象騎士団の世話になっている。

 まあ、彼女も騎士だしな。

 現代の騎士との交流も、楽しかろう。

 非番の騎士を捕まえては、地稽古に勤しんでいるとか。

 すっかり懐いたオーレも、近場にいればすぐに会えるので喜んでいる。

 いずれことカーネからの連絡があれば、また旅立つと言っていたが、もうしばらくは居てくれるだろう。


 話を書斎に戻そう。

 一人の部屋が欲しいかどうかで言われると、別にいらない気もするんだけど、俺のキャパシティの問題もある。

 一人ひとりはどれほど愛らしく大切な従者であっても、これだけ居ると、常時相手をすることになって流石に疲れるのだ。

 いや、ご奉仕だけの話じゃなくて、前衛組と剣の修業をしたり、大工組の相談に乗ったり、学者組の愚痴を聞いたり、その合間に年少組と遊んだりとまあ、気の休まる暇がない。

 そんなときに、ほんの一時、一人になれる場所があってもいいのではないか、と思ったのだ。

 思ったというか、ベテラン女中であるテナが、そういった趣旨の提案をしてくれたのだ。


「一家の主たるもの、ときに外界の些事から離れ、一人静かに思索にふける場所と言うものを持つべきだと思いますよ」


 とのことだ。

 なるほど、もっともだなあ、という気もする。

 そうなると、何が必要だろう。

 小さなデスクはあってもいいな。

 たまに手紙を書いたりするし。

 あとはソファ……ロッキングチェアがいいかな?

 カプルに作ってもらうのもいいが、たまには自分で買い物に行ってみたい気もするな。

 といっても、日本みたいに家具って店頭で即買えるものなんだろうか。

 職人に依頼して受注生産なのかなあ。

 それなら、カプルに頼むほうがいいと思うが。

 頼もうにも、そもそも家具に詳しくないのだ。

 などと考えていたら、都合よくカプルがやってきた。


「あら、ご主人様。こちらにいましたの。どうです? なかなかいい感じに仕上がってきたのでは?」

「おう、バッチリだな」

「ありがとうございます。それで、方針は決まりましたの?」

「それなんだけどなあ」


 と今考えたことを話してから、


「それで、欲しい家具のイメージが良くわからなくてな、もしそうした家具屋みたいなのがあれば、行ってみたいなあと思うんだが」

「それはいいですわね。他の大工の作品も、部屋に色を与えますもの。以前奥様が子供たちにプレゼントなさった書棚なども、並べてみるとアクセントになっているでしょう」

「そうだったかな、そうかもしれん」

「とはいえ、この街にはあまり高級な家具の扱いがありませんの。後日都に行った際に、良いお店に案内いたしますわ」

「そうか、そりゃ楽しみだ」

「では、それまでこの部屋はおあずけですわね」

「もう完成なのか?」

「あとは照明ぐらいですわ。家具と一緒にデザインを合わせたいですわね」

「よろしく頼むよ」

「そういえば、シャミが新しい時計を見てもらいたいと言っていましたわね、今お暇でしたら、顔を出してやってくださいまし」

「ふむ、行ってみるか」


 言われるままに、俺は地下室を目指す。

 二階から降りたところは、夜は就寝スペースになる大部屋で、今は誰もいなかった。

 いないはずだが、部屋の隅に積まれたクッションが僅かに動く。

 うん?

 と目を凝らすと、急にクッションが飛び上がってこっちにワラワラとよってきた。

 クロックロンたちだ。


「何だお前達、またクッションのマネしてたのか?」

「ソウダ、完璧ナクッションヲ目指スゾ」

「おう、がんばれ。俺も遠くから見守ってるからな」

「マカセロ、ボス」


 そう言って再びクロックロン達はクッションの山に埋もれていった。

 何がしたいんだろうな、あいつら。


 家の中央には地下室への入り口がある。

 以前は床下収納のように蓋をかぶせただけの小さな入口だったが、今は周りを欄干で覆い、ちゃんとした階段もついている。

 階段は大きなもので、巨人のメルビエが通れるサイズにしてある。

 壁もレンガが敷き詰められ、足場も床張りで、ミラー達が素っ裸で土を掻き出していたところからは想像もできないぐらい、綺麗に仕上がっていた。

 食料庫になっているスペースを抜けて更に降りると、一様に明るい電気の光と完全な空調に迎えられる。

 古代遺跡の一部である、ステンレス製の部屋だ。

 ここでミラー達二百五十六人をゲットしたのも記憶に新しいが、地上との出入り口であるこの部屋は、すでに当時の面影はない。

 全面照明である天井を除いて、床は板張りの上にラグを敷き、壁は一面に壁紙が貼られている。

 学校の教室ぐらいの広さがあった部屋は、幾つかの衝立で仕切られ、並べられた机に向かうミラー達がメイド姿で何かの事務仕事をしている。

 控えていたミラーの一人にシャミの居場所を尋ねると、


「今はご自分のスペースにおられます」

「そうか、ありがとう。しかし、ここも綺麗になったな」

「はい、ここは人の住むべきスペースになったと思います。これならば生活の一環の中で、お役に立てると思います」


 いつもながらのふんわりとした物腰だが、どことなく満足そうだ。

 俺は応対したミラーを下がらせて、廊下に出る。

 大きな廊下には、みっちりと絨毯が敷かれ、両脇には壺やら絵画が飾られている。

 義父であるリンツの屋敷みたいな感じだ。

 フューエルの屋敷の方は、もう少し質素だからな。

 こちらも壁には壁紙が貼られているが、一定間隔で間柱も張り付いている。

 あれも後付で付けたんだろうが、そのおかげで木造の屋敷と同じ雰囲気になっている。

 といっても、天井が五メートルちかくあるので、屋敷というより神殿とか宮殿とか、そういうイメージに近い気もする。

 やはり人が住むならもう少しこじんまりしてたほうがいいよな、とは思うものの、巨人のメルビエがいるので、この高さは助かっているとも言える。

 あいつは二階には登れないからな。

 しかし、なんでここはこんなに天井や扉がでかいんだろう。

 ミラーに聞いてみたら、例のごとく理由は知らなかったが、ここがロボットを保管する倉庫だったのなら、重機のたぐいが使えるようにしてたのかもしれないな。

 元倉庫の下から太古の倉庫が出てくるというのも、歴史の重みを感じ……たりはしないか、別に。


 大工組の事務所を覗くと、ここは相変わらず雑然としている。

 散らかっているのとは違って、大小様々な工具や作業机などが入り混じり、色んな仕事の成果物などが並んでいる感じだ。

 その一角で、小さなソファで三角座りをし、膝に画板を抱えたデザイナーのサウが、一心にスケッチを描いては投げ、描いては投げしていた。

 飛び散った紙は、側に控えたミラーが拾い上げてまとめている。

 なるほど、散らからないわけだ。


 忙しそうなのでそちらはスルーして、反対側の隅、細かい工具のいっぱい入った棚に囲まれた一角でバリバリと錬金術で加工している大工のシャミの方に行く。

 こちらも作業中だったのでしばらく様子を見る。

 一心に作業していると周りが目に入らないようで、ひどいときには飯も食べないので、ミラーが横からミルクに浸したパンを口に放り込んだりしているらしい。

 先日も、何も食べてないけどお腹が空かないと言って、カプルに突っ込まれていたぐらいだからな。

 幸いなことに、今日は十分も待つだけでこちらに気がついたようだ。


「あ、ご主人様、よかった、用事あった」

「カプルにそう聞いてな、様子を見に来たんだ」

「うん」


 と頷いて、側の棚から布に包まれた小さな時計を取り出す。


「前のより良くなった。でもまだ日差が五分ぐらいある」


 そう言って手渡された懐中時計は、エッジが金細工で両面がガラス張り、背面からは内部の構造がよく見える。


「へえ、見事なもんじゃないか。でもなんか……」


 昔見たのとなんか違うな。


「なに?」

「いや、そういえば、俺が見たのは軸受がルビーかなんかだったな」

「ルビー? 赤の精霊石?」

「いや、そっちじゃなくてただの宝石の」

「なんで?」

「さあ、綺麗だから……じゃないだろうな、表面が硬いから、摩耗を防ぐんじゃないか?」

「摩耗? 摩擦の?」

「たぶん」

「……それ、それが大事なところ」


 そう言って立ち上がると、ミラーを呼んで何かを頼む。

 すぐにミラーが書類の束を持ってきた。

 どうやらスマホの事典から書き出して翻訳した、鉱物や硬度の記事一式のようだ。

 図書館司書も顔負けの検索能力だな。

 たぶん、全部覚えてるんだろうけど。

 シャミはまた自分の世界に入ってしまったので、俺は静かにその場をあとにした。


 上に戻ると、台所組がせわしなく料理の最中だった。

 ざっと四十人分の食事だからなあ。

 遠巻きに見ていると、テナとパンテーがミラーを使いながら、料理の数を揃えていて、モアノアとエメオが、何やら相談しながら、凝った一品物を作っているみたいだ。

 全員分の食事とは別に、俺やフューエルを始めとした、我が家の飲ん兵衛共に食わせる酒のあても、毎日凝ったものを用意してくれてるからな。


 以前は料理も担当していたアンは、最近では朝食ぐらいしか作っていないらしい。

 毎日大量にやることがあるので、そこまで手が回らないとか。

 最近だと、商店街の新規出店に備えた事務仕事をメイフルとやったり、魔界との交流の件でフューエルを手伝ったりしている。

 うちも万事やることが多くて、大変になってきたなあ。

 今一人、我が家の料理人である妖精のパロンは、自分の城に閉じこもっているはずだ。

 一軒挟んだ隣りにある、かつて牛娘親子のパンテーとピューパーが住んでいた小さな家のことだ。

 ここは近々、画廊としてオープンするために改装中なのだが、裏の小さなキッチンが彼女の今の仕事場だ。

 商店街の西側に、改めて彼女のための店を作る予定だが、それはもう少し先になるだろう。


 台所の横を素通りして裏に出ると、いつの間にか焚き火をおこしてみんなで囲んでいた。

 これもいつもの行事だ。

 しこたま修行したフルンたちは、夕食まで腹が保たないので、こうして何か簡単なものを食べる。

 今日は大鍋で作ったすいとんだ。

 出汁がきいててうまそうだな。

 なにより、この糞寒い外で食べる暖かいものは、最高にうまいに決まっている。

 決まっているが、今食うと、夜に食えなくなるのでそちらはスルーして、パロンの仕事場を覗くと、人間バージョンのパロンが、頭がお花畑になったみたいにクルクル回りながらチョコの元をかき回していた。


「わたーしのー、チョーコレートーわぁー、はちみつよりもあまくー、ひとくちー、たべればー、春のー残雪のようにー、とろとろにとけるーわぁー」


 などと歌いながら調理する横では、ミラーが四人、助手として黙々と働いている。

 なかなかシュールな光景だな。


「あらー、ご主人様ー、もう晩御飯のお時間かしらー」

「晩飯はまだだよ。今日も絶好調だな、パロン」

「ご主人様はー、皮肉が不調ーみたいですわねー、肉欲に溺れたー、中年の悲哀をー、感じーるーわぁー」

「ほっといてくれ。今日は何を作ってるんだ?」

「ホワイトチョコをー、つくってるんですのよー、真っ白くてー、甘いあまーい、チョコなのよー」

「ああ、ココアバターだけで作るんだっけ」

「知っとるんなら先におしえんかい! どえろう調べたやんけ!」


 急に素に戻った。


「いや、だって聞かれなかったし」

「むかーしお菓子屋さんが白いチョコくれたことがあったから、あれこれ調べたけど肝心なことがわからんで、取っ掛かりから苦労してもうたんじゃい!」

「それで、できたのか」

「できたわボケ! 食ってみんかい!」

「おっしゃおっしゃ、いただきまーす」


 食べてみると、たしかにホワイトチョコ特有の甘みが強調された、というか苦味のない味がバッチリイケてる。


「おお、うまいうまい。甘みが効いててバッチリだな」

「けど、苦味がないと物足りんのちゃうか?」

「そこは、普通のチョコとくっつけたり、クッキーやフルーツをコーティングしてもいいんじゃないか? あと子供はこっちのほうが食べやすいかもな。大人より苦味を感じやすいって言うし」

「ええやんけ、早速試したるわい」


 と言って、ガチャガチャと調理に取り掛かった。

 邪魔しちゃ悪いので、俺は試作のチョコを幾つか頂いて、調理場から建物の表側に移動する。

 こちらはパンテー親子が住んでいた頃の面影はすでになく、壁や床が剥がされてむき出しになっている。

 ちょうどミラーが二人、掃除をしていたので声をかける。


「ここもすっかり綺麗になったな」

「はい、明日から職人が入り、壁などを整備するそうです」

「もう、そんなに進んでたか」

「カプルは、雪のせいで少し遅れていると言っていました」

「たしかに、毎日よく降るもんなあ」

「今も、百二十号から百二十七号までの八体が、表で雪かき中です」


 と言うので、表に出てみると、薄暗い通りで着々と雪かきをしていた。


「おう、寒い中大変だな」

「寒さは問題ありませんが、おそらく今夜はまた雪が深くなりそうです」

「キリがないな」

「日が落ちて気温も下がってきました。特に御用がなければ、屋内に退避されることをおすすめします、オーナー」

「たしかに、こりゃ寒いな。お前たちもほどほどにな」


 うちの前まで戻ると、チェス屋である我が家の店は、まだ開店中で明かりが漏れていた。

 裏に回るのが面倒だったので、店から入ろうとすると、入れ違いに子供と爺さんが出てくる。

 綺麗に梱包された箱を抱えた子供は嬉しそうだ。

 客を見送って、中に入ると、メイフルが閉店の準備をしていた。


「おやまいど、ご立派な紳士様は、何をお求めでっしゃろ」

「可愛い従者は売ってないかね?」

「あいにくと、可愛い従者は、売約済みですねん」

「そりゃあ残念、君みたいな可愛い子を手に入れた男は、さぞ嬉しかろうよ、さっきの子供みたいにな」

「そうでっしゃろ、あの子も随分悩んで、ええのを買ってくれましたわ」

「そりゃよかった。集会所じゃ見ない顔だったな」

「この間できた、東通りのチェスクラブで覚えたらしいですわ」

「ああ、前に行ったことあるな」

「あっちはお金持ちも多いですからな、上客でっせ」

「金持ちにはじゃんじゃん金を使ってもらわんとな」

「それもありますけどな、小口の客は大口の客を呼びますねん。たとえ子供でも、疎かにはできまへんで」

「そりゃそうだ」


 メイフルが店じまいをする横で、新商品のボードなどを眺めて時間をつぶす。

 高級品が多いせいもあるんだろうが、小さな売り場には様々に意匠を凝らした逸品が並んでいて、見てるだけでも楽しい。

 こういう凝った細工物をコレクションして、自分の書斎に飾っても楽しいかもなあ。


 夕食後。

 フューエルとしっぽり酒を飲みながら暖炉の前でイチャイチャしてたら、いつの間にか眠っていたようだ。

 ソファで寝転がったまま、毛布がかけられていた。

 フューエル達はすでに奥で眠っている。

 すでに夜更けだ。

 傍に控えていたミラーが、黙ってカップにぬるい水を出してくれる。

 それを一息に飲み干してから、台所に向かうと、テナとアンが顔を突き合わせて小声で話していた。


「あら、ご主人様。起きられたんですね。そろそろ布団に移っていただこうかと思っていたんですけど」


 とアン。


「なんか小腹がすいちまってな」

「おやつの類なら、すぐにお出しできますけど」

「いや、ご飯が残ってただろう」

「おひつにいくらか」


 最近は、毎日一回は米の飯を食べるんだけど、急に全員の主食が変わるわけもなく、俺とパロン、それにメーナの他は、たまに食べるものが居るぐらいだ。

 そこで毎日三合も炊けば、あまりも出る。

 それを凍らせておいて、雑炊にしたりもするのだが、こういうときの夜食といえば、あれだろう、お茶漬け。


「ちょっと渋めにお茶を入れてくれ、あとワサビもあっただろう」


 と頼んで、テーブルに付く。

 一つ見つかれば続けて見つかるもので、米やミソの他に、海苔やワサビも手に入るようになった。

 だいぶ人手がかかっているので、まだ割高だが、これも流通経路が確立すれば、いずれ解決するだろう。

 支度が終わるのを待っていると、裏口が開いた。

 入ってきたのはエレンだ。

 珍しくウィッグにドレスで、いいところのお嬢さんのような格好をしている。


「どうした、そんな格好でこんな時間まで夜遊びか?」

「夜遊びなら、もっと地味でバレない格好にするよ」


 となると、盗賊絡みの仕事か。

 案外うちで一番世間のしがらみに縛られてるのは、もっともアナーキーな職業であるエレンかもしれないな。


「旦那こそ、こんな時間に夜食かい?」

「まあな、今から作るんだが、お前も食うか?」

「いいねえ、旦那が作ってくれるのかい?」

「簡単なもんだけどな」


 そう言って、作り始める。

 鮫皮の卸しで丁寧にワサビをすりおろして冷や飯に乗せ、さっと炙ったノリを刻んでまぶす。

 濃い目のお茶をたっぷりと回しかけて、最後に塩をひとつまみでお茶漬けの完成だ。

 こいつをズルズルとかっこむと、実に満たされる。


「ごっそうさん、旦那もけっこう、気の利いたものを作るもんだね」


 ぺろりと平らげて満足するエレン。


「はぁ、ごちそうさん」


 同じく満足してゲップをする俺に、テナが少し呆れた顔で、


「ご主人様は、欲望を満たすことには実に貪欲ですね」

「自重しても、俺が得をしないからな」

「仰る通り、女神様も常々おっしゃっておられます。禁欲を喜びとするのは欺瞞である。人の持つ知恵は、人々の持つ欲と欲をうまく噛み合わせるためにあるのだと。己を禁ずるものは、他者をも禁ずるようになる、そこに知恵はなく、故に欺瞞である、と」

「女神様もいいこと言うねえ、俺の主義にぴったりだ」

「ですが不摂生は万病の元。貴方様お一人の体ではないのですから、時に己を律し、健康を保つことを己の欲となさねば、ならぬのではないでしょうか」

「そりゃあ、もっともだ。健康だからこそ、飯もうまいし、ご奉仕もハッスルできるってもんだ」

「それがおわかりでしたら、あとは何も申すことはありませんよ」


 説教が終わったテナは、手元で広げていた書類を片付けはじめる。

 エレンは説教が始まったと見るや早々に浴室に逃げ出したので、引き続きテナに話しかけることにした。


「それは何を見てたんだ?」

「ルタ島の試練に関する、新聞の切り抜きですよ。ご覧になりますか?」

「いや、やめとこう。どうせ他のかっこいい紳士様の噂ばかりだろう」

「そうですね、大衆の望む情報とは、つまるところそれですから」

「俺がかっこよく活躍した時だけ教えてくれ」

「先日も魔界で大活躍なされたでしょう。こちらにその時の記事がありますよ」


 とテナが別の切り抜きを取り出す。


「ほほう、どれどれ」


 読んでみると、こんな感じだ。


「えーと、桃園の紳士、獅子王の姫と魔界で密会……ってなんじゃこれ」

「獅子王とはスパイツヤーデ国王の俗称の一つです。その姪御であらせられる、カリスミュウル様のことですね」

「密会かあ、センセーショナルな見出しだな。エディがこれを読んでないことを祈ろう」

「エンディミュウム様よりも、参謀のローン殿に知られる方が困るのでは?」

「嫌なことを思い出させるなあ、ローンは最近じゃ十秒毎に機嫌が変わるから、もはや俺ではどうにも対応できん」

「私もさっさと従者にしていただいてよかったと、つくづく思いますよ。このように罪作りな殿方と、友人や恋人でいるというのは、どれほど気を揉むことかと」

「俺はいつも、女性には誠実であろうと心がけてるんだけどな」

「殿方の誠実さに救われる女と言うものは、あまり居ないのですよ」

「まじかよ、誠実さってのは、男の拠り所だぞ」

「ご主人様ほど聡明なお方でも、異性の心は計れぬとみえますね。妻と従者、どちらになるか迷った時は従者を選べと、レッデ族の古い諺にもありますが、こういうことなのでしょうね」

「どういうことだよ」

「我々従者は、悋気で悩むことがないということですよ」

「そりゃあ、羨ましいこって」


 隣で苦笑しているアンに入れてもらったお茶を、渋い顔で飲み干してから、厠に逃げ出した。

 渡り廊下ができたとは言え、こっちは寒い。

 用を足し終えると、廊下の先に繋がった家馬車から明かりが漏れていることに気がついた。

 中を覗くと、エンテルとペイルーンが分厚い本を挟んで議論していた。


「何だお前達、こっちに居たのか。地下室に移ったんじゃなかったのか?」


 と言うとペイルーンが、


「あっちに書庫は移したけど、どうもあそこは広すぎて落ち着かないのよね。議論するならこっちのほうが向いてるのよ」


 と言う。

 小さな暖炉には火が入ってヤカンにはお湯が湧いている。

 沸き立つ湯気で、窓は結露しているが、ここは十分暖かいようだ。


「たしかに、下は落ち着かんよな」

「でしょ、元々、ここを書斎にしてたし」

「それで、今日はなんのお勉強だ?」

「先日の女神の柱があったでしょう。あれにまつわる伝承を調べてたのよ」

「へえ、それで何かわかったのか?」

「特に無いわねえ。ただ、たしかに柱のあとに太陽が現れた、魔族はそれを魔界の太陽と呼んで崇めた、なんて記述もあるのよね。だから、有史以降、柱が消えたことはあった可能性が高いわ」

「ほう」

「こういう荒唐無稽な神話ってのは、当時の人が世の中を説明するために考えた解釈に過ぎない、って普通はみなすんだけど、思った以上に、神話や寓話には真実が残ってるのかも」

「レーンもそんなことを言ってたな」

「あら、坊主は聖書に書かれてることはみんな信じてるのだと思ってたわ」

「あのレーンがそんなに素直なたまか?」

「そんなわけ無いわね。でまあ、そんなわけだから、手当たり次第に調べてたのよ」

「で、何かあったのか?」

「そうねえ、例えば虹の橋っていうのがあってね、えーと」


 と言って、手元の資料を読み上げる。


「女神が髪を解き、地に垂らすと、そこに虹の橋がかかった。カムヒはその橋を渡り……カムヒってのはこの神話の登場人物ね、蛮族の勇者で巨人を打ち倒してご褒美を貰いに空に上るところなんだけど、それで、虹の橋を登りきると、そこは女神の住む天空の輪であった」

「ふむ」

「ほら、天空の輪って、例の空にあるあの白い帯でしょう。ご主人様の話じゃ、あそこにも人が住んでたかもしれないっていうじゃない」

「ああ、軌道リングってやつだな」

「この資料には、そこに女神が住むって書いてあるのよ」

「ほう」

「住んでたのが女神か古代人かはわからないけど、天空の輪まで登る虹の橋があったってことじゃない」

「そうなるのかな」

「で、こっちの資料によると、虹の橋の伝説ってあちこちにあるのよ」

「ほほう」

「南方が多いんだけど、どうもルタ島かその近辺にもあったらしいのよね」

「まじかよ、じゃあルタ島に行けば宇宙にも行けるのかな?」

「そういう可能性も無きにしもあらず、ってわけね」

「ちょっと試練のやる気が出てきた気がするな。正直めんどくさかったんだけど」

「そういうことをアンに言っちゃダメよ」

「言わないようには気をつけてるんだけど、どうもつい本音が」

「ほんとだらしないわねえ、そういうだらしないところまで可愛く見えちゃうから、従者ってお得よね」

「テナも似たようなことを言ってたよ」

「そうなの、でも奥様には嫌われないようにすることね」

「がんばるよ」


 俺とペイルーンが不毛な会話を終えると、エンテルが本を閉じて、


「さて、そろそろお開きにしましょうか。明日も学校がありますし。この雪だと休校になりそうですけど」

「それがいいわね、私も眠くなってきたわ」


 二人が片付けをしている間に、窓際のベンチに腰掛けて裏庭を覗くと、がっつりと雪が積もっていた。

 今もあかあかと燃えている暖炉とは対称的な風景だ。


「私たちはもう戻って休みますけど、ご主人様は、どうなさいます?」


 とエンテル。


「そうだな、さっきうたた寝して目が冴えてるし、ここでぼーっとしとくよ。アンがまだ起きてたら先に休むように言っといてくれ」

「では、このひざ掛けを」


 と自分が使っていた分厚いひざ掛けを渡された。


「二階にミラーが控えていますから、何かあったら彼女に」


 そう言って出ていった二人を見送り、改めてベンチに深く座るとひざ掛けにくるまった。

 テーブルに置かれたランプを手元に寄せて、積んであった本を一冊、手に取る。

 パラパラとめくると、どうやら戦記物のようだ。

 千年前の黒竜との戦いについて書いてある。

 戦乱期の大半は、アビアラ帝国という当時の超大国からの独立と、黒竜会という狂信者らしき連中、そしてそれに与する国家との、言ってみれば普通の戦争だったらしい。

 そんな中、ついに黒竜が蘇り、アビアラ帝国の中枢も含めて多くの国が滅んだとある。

 黒竜の力は圧倒的で、人知の及ぶものではなかったとか。

 まあ、前に見た赤竜だってどうにもならない気がするけど。

 そんな中、勇者の中の勇者と言われた、ラハトルト・リヒトアーデンという男が、女神の加護を得て、神の衣エルビーネをまとい闘神と化して戦った、とある。

 闘神って、たしか女神の別名みたいなもんだったよな。

 燕の話じゃ、女神が乗り込んで戦うロボット的な何かにも思えるが、ぜんぜん違うかもしれん。

 その後、勇者ラハトルトの娘メルセアが、父の遺志を継ぎ、今のエツレヤアンのアカデミアの前身となる勇者の養成学校を建てたそうだ。

 この本は、そのメルセアが夫と共に各地を巡礼し、勇者であった父の偉業を訪ね歩くところで終わっていた。

 終わっていたと言うからには、最後まで読んじゃったわけだが、おかげでもう朝の六時過ぎだ。

 夜明けにはもう少し間があるが、完全に徹夜だよ。

 久しぶりに学生みたいなことをしちゃったな。

 途中ミラーが薪を追加に来て、ついでに入れてくれたお茶も飲み干し、トイレも行ったような気がする。

 かなり熱中していたようだ。

 なるほど、たまには一人の時間も悪くないな。

 あくまで、たまにだけど。

 あくびをしながら、家に戻ると、台所でエメオがパンを仕込んでいた。


「あれ、ご主人様、いつの間にトイレに?」

「いやあ、夕べは一晩中、裏の馬車で本を読んでてな」

「お一人でですか?」

「まあね、ミラーはついててくれたけど」

「一晩中本を読むなんて、やっぱりご主人様はお偉いんですねえ」

「エメオは本が苦手か?」

「文字は習ったんですけど、いっぱい字が並んでると目が回って」

「ははは、まあ、あんなものは慣れだよ。それより、今日は店には入らなくていいのか?」


 普段ならもう少し早く家を出ているはずだ。


「はい。今日は休みです。今、最初のパンをオーブンに入れたので、あと十分もすれば焼きあがりますけど、どうします? 徹夜明けならお休みになりますか?」

「すでにいい匂いがしてるじゃないか、それをおいては寝れんだろう」


 夕べのお茶漬けだけでは、流石に腹が持たないようだ。

 暖炉で乳を搾っていたパンテーが搾りたてを持ってきてくれたので、ミルクを鍋で温めながら、焼き上がりを待つ。


「さあ、召し上がれ」


 エメオが出してくれたのは、シンプルなコッペパンだ。

 これとホットミルクだけで、十分上手い。

 パンをちぎると焼きたての真っ白な生地の隙間から、ふわっと湯気が立ち上り、これがもうたまらなくいい匂いだ。

 そいつをもぐもぐと噛み締めてから、温かいミルクをすすると、これがまた甘い。

 甘くてうまい。

 うまいなあ。

 あっという間に大きめのパンを三つも平らげると、腹がパンパンになった。

 パンだけに。


「ごっそうさん、今日も最高にうまかったよ」

「ありがとうございます、お客さんの喜ぶ姿も励みになるんですけど、ご主人様となると、これはもう別格の喜びですね。うじうじ悩んでないで、もっと早く従者にしてもらうんでした」

「ははは、焦らされた分、喜びも増すのさ。ご奉仕だって、じっくり時間をかけたほうが喜びもひとしおだろう」


 とからかうと、エメオは顔を真赤にして、知りませんとそっぽを向く。

 可愛いなあ。


「その、ご奉仕はいいんですけど、パロンと一緒だと、ちょっと刺激が強すぎて。彼女が嫌なわけじゃないんですけど、むしろうちでは仲が良い方ですし」


 まあ、言わんとしていることはわかる。

 妖精であるパロンと一緒にナニをすると、妖精の能力故か、お互いの感覚が繋がったようになってしまうのだ。

 つまり双方の刺激が伝わるので二倍楽しめるという寸法だが、どちらかと言うと奥手なエメオにはハードすぎるかもしれない。


「しかし、あいつ一人じゃご奉仕できないし、仲のいいお前が積極的に頑張ってやってくれないと」

「そ、それはわかるんですけど、その、ご主人様の、えっと、あれの感触が、どうにも……」

「それを言うなら俺だって、自分のものがこう……」


 この話は朝からするようなもんじゃないな、やめとこう。


「まあいいや、食ったからちょっと寝るよ。そういやアンとテナはまだ寝てるのか?」

「いえ、さっき雪かきをすると言って、表に」

「そうだったか、あれも大変だよな」

「クロックロンが頑張ってるので、見てるだけでいいとは言ってましたけど」

「しかしあの寒さじゃ、外にいるだけでも辛いぞ。ちょっと労ってやるか」


 俺は一枚余計に上着をはおり、店の方から表に向かうと、勢い良くアンが飛び込んできた。


「ごごご、ご主人様!」


 アンが顎が外れんばかりに大きな声を出す。


「空に、空に!」

「空がどうした!?」

「いいから来てください!」


 強引に腕を引っ張られて表に出ると、路行く人や近所の連中も一様に空をみあげていた。

 つられて俺も空を見る。

 なんだ、ありゃ?


 薄明かりの空の向こうに青白い何かが浮かんでいる。

 月と同じか、少し大きな丸いものだ。

 一部が欠けた、おそらくは超巨大な何かが、空の彼方に浮かんでいるのだった。

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