EDEN
@steind4419
第1話
ガイガーカウンターは今日も鳴らない。
額にそれの先を押し当てるようにしてしばらく、結縁(ゆうえん)は固まっていたが、何の音も聞こえてこないのをしばらく味わって目をつぶった。うとうとし始めたところではっと目を覚まし、安堵のため息をつく。今日も変化はない。時限爆弾を抱えたようなこの街で、今日も何もないことを知って胸をなでおろす。そしてそれを笑う人は、この大陸にはもはやいないだろう。
それどころか、お前もきっと同じことをするんじゃないのか、と訊いて回ってみれば、気まずそうにそっぽを向く人物も少なくないだろう——。
と。結縁がそんなことを思案しながらうつらうつらしていたのは、一階の窓際だった。ちょうど座れるスペースがあるもので、結縁はよくここでうたた寝をしている。同時にここは外からの物音をはっきりと聞き取れる場所でもあった。そしてちょうど、外の方から何か、ぱたぱたと一つの軽い足音が向かってきている。結縁は窓際から飛び降りて、室内灯をつけた。足音は不揃いで、よたよたしている。同時に急いでいるようでもあった。そうして向かう先は裏口ではなく正面玄関。急な来客だろうか——。
がちゃり。扉を開ける。
「————ッ!!」
「おっと、これは失敬」
客はちょうど玄関前に来たところのようで、そこを急に結縁が扉を開けたものだから、びっくりして声にならない悲鳴を上げたのだった。結縁がひとつ謝ると、しばらく口をぱくぱくさせた後、ふう、と一息をついて落ち着きを取り戻したようだった。
「んで、何の用? 『何でも屋』は今日はもうしまいだけど」
「わかっています。わかった上で、お願いがあるのです」
相手は頭頂だけが禿げたヨーロッパ系の顔立ちの初老の男性だった。身長は百六十センチメートルないくらいで、結縁より頭一つか二つぶん小さい。腰が曲がっているせいかもしれない。しかし火事場の馬鹿力とでも言うのか、相手は結縁を押し込むようにして『何でも屋』の屋内へと転がり込もうとする。少しの小競り合いがあったが、結縁は諦めたようにして男を中に招き入れる形となった。
「……あんた、何が目的」
「何も言わないでください。何も言わないで。黙ってこいつを受け取ってください」
と、男は警戒する結縁の右手を無理やり引っ張り出し、手のひらを向けさせて何かを握り込ませる。冷たい。金属の何かのようだった。指の端からだらりとチェーンが垂れる。ネックレス? いや——。
「これ、何? 急に押しかけてきて、説明もないわけ」
「いいえ、いいえ。詳しく話せば貴方はきっとそれを使うか捨ててしまう。しかしそれでは良くないのです。ええ、再現性。再現性はあります。けれどもその内容は決して人の見える場所には隠しちゃいないんだ。おわかりですか」
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