第80話 悲しい結末
「それじゃ、そろそろ出発するか」
翌日早朝。
荷物をまとめ終え、一日だけ泊まった宿屋の外に出るとトモヤはそう呟く。
「ああ」
「おー!」
リーネはこくりと。
ルナリアは元気よく片手をあげて応える。
「ほら、フードがずれてるぞ」
「んぅー」
今日のルナリアはリボンでなく、フードのついた服装だ。
角に引っかかっているのか変な形になっていたため、トモヤがその形を正してやると、ルナリアはくすぐったそうに声を漏らす。
終わると、ちょっとだけ恥ずかしそうにえへへぇと笑って言った。
「ありがとっ、トモヤ!」
「…………」
「? また、くしゃくしゃになっちゃうよ?」
「――はっ! すまん、ルナ。つい」
無意識のうちにルナリアの頭をフード越しに撫でていることに気付いたトモヤは、謝りながら改めてくしゃくしゃになったフードを丁寧に被せ直す。
その途中で、ルナリアの首にかけられたネックレスに視線がいく。
こちらに関しては、既にリヴァイアサンの鱗を用いて、魔力感知の性質の付与が行われた後である。
ふと、視線を横いるリーネに向ける。
「……? どうかしたのか?」
「いや、リーネもネックレスつけてくれてるんだなと思って」
「君とルナから貰ったものだ。当然だろう」
彼女の胸元では、緑色の宝石が輝いている。
燃えるような赤色の長髪と見事に調和していた。
そう、ルナリアとリーネについては、ネックレスはきちんと似合っているため問題ない。
問題があるとすれば……トモヤがつけているピンク色のそれだった。
ついでということで、これもフラーゼによって細工をしてもらったのだ。
「これ、確実に俺に似合ってないよな……」
片手でいじりながら、そっと零す。
「ううん、ばっちりだよっ!」
「そんなことはないだろう」
その呟きを、ルナリアとリーネはすぐに否定する。
二人は顔を合わせると、なぜか微笑み合っていた。
なぜそんなことをしているのかトモヤには分からなかったが、ひとまず二人の言葉を信じてこのままかけておくことにした。
(……そういえば)
思えば、ピンク色と言えば赤色と白色を混ぜて生み出される色だ。
そう考えると、これはもしかして――
いや、考え過ぎだろう。トモヤはそう結論付けた。
だってそもそも、このネックレスを買った時そこにリーネはいなかったのだから。
「ところでフラーゼはどこに行ったんだ? 見送りに来てくれる話だったよな」
「たしかに遅いな。何かあったのだろうか……むっ」
会話の途中、ばたばたとした足音が聞こえてくる。
そちらに向くと、フラーゼが少しだけ焦った様子で駆けてきていた。
「皆さん、お待たせしました!」
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
「それが……大変な話を聞いてきたんっす!」
「大変な話?」
表情からするに、あまりいい話でないようだ。
深呼吸をして呼吸を落ち着けたあと、フラーゼは言った。
「はいっす。皆さんがこれから向かうグエルド鉱山、そこでロックドラゴンが目撃されたみたいっす」
「ロックドラ……」
「ロックドラゴンだと!?」
トモヤの問いより早く、リーネが叫ぶ。
視線で説明を求めると、彼女はこくりと頷く。
「ロックドラゴンとは、本来なら
「体に纏う岩石を、周りにある石の色や岩の性質に同化させることができるんです。この性質のせいで、どこにいるか分からず不意打ちをかけられてやられる冒険者も多くいるっすね」
「さらに、純粋に岩石で体を守っているため防御力も非常に高い……並の攻撃では通じないと思っておいた方がいい。その証拠に、ランクもSだ」
「……そんな敵がいるのか」
リーネとフラーゼの緊張感に満ちた説明を聞いたトモヤは、強い警戒心を抱いていた。
「……トモヤ」
ルナリアも、恐れたようにトモヤの腕の裾を掴む。
「のどかわいた」
「どうぞ」
違った、喉が渇いただけだった。
異空庫から水筒をとりだし渡すと、ごくごくと飲んでいた。
緊張感の欠片もない。可愛い。
――この無垢な少女を守らなければならない。
トモヤは、そう強く思った。
「情報、ありがとう。じゃ、行ってくるよ」
「はい、お気をつけて」
フラーゼに見送られて、今度こそトモヤ達は出発した。
リーネの剣が創り上げられた頃にはまた戻ってくる予定なので、すぐにまた出会える。
だからこそ、今は先のことを考えなければならない。
ロックドラゴン。
その魔物がどれだけ強力であろうとも、今の自分たちなら勝てる。
そう、トモヤは信じていた――――
◇◆◇
「まいどあり! 確かにロックドラゴンを買い取らせてもらったよ!」
エルフの国に辿り着いたトモヤ達はまず、旅の途中で倒したロックドラゴンを売却した。
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