第75話 ドワーフの少女
その後、簡単に自己紹介を終えたあと。
フラーゼは一旦作業を止め、どこかからテーブルを持ってきた。
続けて、ちゃぽんと、茶の入った人数分のカップが置かれる。
「どうぞ、まあとりあえずゆっくりしましょう」
「ああ、ありがとうフラーゼ」
カップを掴みあげながら、トモヤはフラーゼの希望通りのため口で、感謝と彼女の名を告げる。
フラーゼはあまり堅苦しい雰囲気が得意ではないらしい。その割には自分は不思議な丁寧口調で話すが、それはもうただの癖なのだとか。
「よいしょっと。それで、リーネさんやトモヤさん達はどんな経緯で出会ったんですか? いや、出会ったというよりは仲良くなったのか、っすかね。あたしの記憶上、リーネさんが他人を気にいるなんて稀っすからね! 激レアっすよ!」
「フラーゼ……君はいったい、私を何だと思っているんだ。いやまあ、あながち間違ってはいないが」
「間違ってないんだ……」
「……?」
久方ぶりの旧友との再会に、楽しそうに会話するリーネとフラーゼ。
トモヤとルナリアはその光景を静かに眺める。
話題はフラーゼの質問通り、トモヤ達が出会った経緯だ。
二人が話す中、時折挟まれる問いにトモヤが答えていく。
「み、水浴びを覗かれちゃったんですか!? ぷは!」
そんな時間が過ぎるなか、その事件についての話をリーネがうっかりと話してしまい、それを聞いたフラーゼが腹を抱えて転げだした。
「くくっ、なんすかそれ、ちょうウケるっすね! けどどうせあれっすよね? リーネさんのことだから何もなかったかのような反応をして……あれ? リーネさん、ちょっと顔赤くないっすか?」
「……フラーゼ、少しこちらに来い」
「え? なんすか? リーネさん? なんか顔が怖いっすよ……って、引きずらないでくださ力つよっ!? ちょっ、トモヤさん、助けてください!」
「どうか、お元気で」
「見捨てられた!?」
リーネに首元の襟を掴まれて部屋の外にまで引っ張られていくフラーゼ。
その光景をトモヤは合掌しながら見送る。
「ん? リーネとフラーゼ、どうかしたの?」
「いや、ルナは何も知らなくていい」
「むぅ、仲間はずれ……」
ルナリアには聞かせたくなかった話なのでそう誤魔化すと、彼女は不満げにぷくぅと頬を膨らませる。
ああ、それはなんともつまみやすそうな膨らみか――
「……? トモヤ、どうしたの?」
「はっ!? ごめんルナ、つい……」
ルナリアに指摘されて初めて、トモヤは自分が彼女の頬を両手でつまんでいるという事実に気付いた。
頬を膨らませたルナリアが可愛すぎるのが悪いと、トモヤは心の中で存在しない誰かに言い訳する。
「んん、別にいやじゃなかったよ? トモヤが喜んでくれるなら、むしろ嬉しいな。はい、どうぞー」
謝罪するトモヤに対して、今度は逆に機嫌よくルナリアは顔を前に差し出す。
誘われるがまま、トモヤは再び両手で頬をつまむ。
ぷにっと柔らかく、さらにはすべすべとした肌。
むにむにと引っ張ったりすると、その気持ちよさは異常だった。
ルナリアは少しだけくすぐったそうに「んぅー」と身をよじる。
けれど、それと同時に嬉しそうな笑みも浮かべている。
「じゃあ、次は私もトモヤをぷにぷにするね!」
「えっ? ……ああ」
すると、ルナリアの小さな両手が伸びてきて、トモヤの両頬をつまむ。
ぐにぐにと乱暴に手を動かすが、痛みなどは全くなく、むしろ心地よかった。
そこには確かに、幸福感だけがあった。
むにむに。
ぷにぷに
ぐにぐに。
むにゅー。
「……またイチャついてる」
「リーネさん、なんなんすかあの二人」
「トモヤとルナはずっとあんな感じだ、気にしたら負けだ」
「……そうっすか。で、リーネさんはイチャついたりしないんですか?」
「…………し、しない」
「沈黙ながくないっすか?」
そんなこんなで。
リーネとフラーゼが戻ってくるまで、トモヤとルナリアの頬の引っ張り合いは続いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます