第36話 終焉樹攻略開始
◇◆◇
あの話し合いで、子供たちはレケンスが責任を持ってクレアのもとまで連れて行くと宣言してくれた。
それが決定した後、レケンスが滞在する宿に子供達を預けにいってから、ようやくトモヤ達は終焉樹に向かうこととなった。
まだ日は完全に昇ってすらいない。昼が近い。
なんとも密度の濃い一日になりそうだなと、トモヤは思うのだった。
トモヤ達三人は第一区画にある終焉樹のもとに辿り着いた。
間近で見るとさらにその大きさと迫力が分かる。
横に視線を向けても、幹の終わりを見つけるのが難しいくらいだ。
辺りには重厚な鎧を着た冒険者が数多く歩いており、さらには露店などが立ち並んでいた。
迷宮に挑む前に様々な準備をしているようだ。
トモヤは迷宮に挑戦するのは初めてで勝手が分からないため、リーネに何が必要か尋ねると、彼女はこう返した。
「そうだな。フィーネス大迷宮は罠などがほとんどないため特別な道具は必要ではないが、まあ地図だけは買っておいた方が良い」
「地図あるのか」
「50階層までだがあることはある。有史以来、存在する迷宮だからな」
曰く、フィーネス大迷宮の最下層は100階層らしい。
そして過去の記録によると、人々が到達した最下層地点は72階層。
ちなみに72階層までにしか辿り着いていないのに、なぜ100階層まであると分かるのだという疑問に答えられる者はいないらしい。言い伝えでそうなっているからとしか答えようがないのだとか。
トモヤ達はその後、リーネの提案通り近くの露店で50階層までの地図を何種類か買った。
迷宮内部で地下に下っていくルートは幾つもあるとのことだ。
これだけ広大な迷宮で一つしかルートがなければ非常に大変そうなため、それは都合が良かった。
「よし、そろそろ出発するか。リーネ、ルナ、準備はいいか……ルナ?」
手を繋いだ先にいるルナリアが下を向きながら何かを考え込んでいたので、トモヤはゆっくりと彼女の名を呼んだ。
「……あの子たち、しあわせになれるかな?」
その言葉を聞くに、どうやらルナリアはレケンスに預けた子供たちのことを考えているようだ。
これまで共に過ごしてきて分かったことだが、ルナリアは人と人との関わりについて、いろいろと考え込むくせがあるようだった。
「心配なのか?」
「……少しだけ。私は、トモヤやリーネといっしょにいれてしあわせだから。だから、みんなも私と同じきもちになってくれたらうれしいなって。けど、おせっかいだったかも」
「そんなことないよ」
膝を曲げ、ルナリアと視線の高さを合わせる。
ルナリアの左手を、トモヤは自分の両手でぎゅっと握りしめた。
「ルナの優しさはきっと子供達やクレアさんにも伝わるよ。ルナのおかげで、皆は幸せになれる。俺がそう保証するよ」
「……ほんとに?」
「ああ、本当だ」
トモヤが力強くそう告げると、ルナリアは少し安心した様に表情を綻ばせる。
そんな彼女のそばにリーネがやってきて、優しくルナリアの頭を撫でる。
「トモヤの言う通りだ。ルナの行動によって救われる人は多くいるはずだ。現に、いま私やトモヤはルナと一緒にいられて幸せなんだからな」
それは、先程のルナリアのセリフを繰り返すような発言だった。
けれど嘘偽りの全くないその言葉を聞き、ルナリアは今度こそ満面の笑みを浮かべる。
「そっか、ならうれしいな!」
その笑顔を見て、トモヤとリーネは癒されるのだった。
◇◆◇
「そっちにいったぞルナ!」
「うん、わかった!」
毛並みの代わりに数百枚の葉を体に纏う《リーフウルフ》――Dランク中位指定の魔物が現れる。
相手に接近し、体に纏う葉を飛ばすことによって戦う魔物だ。
攻撃は鋭く、刃物に似た傷を冒険者に負わせる。
しかし、トモヤがこれまでに遭遇してきた中では弱い類の魔物だった。
故に今回、トモヤとリーネは手を出すことなくルナリアに任せることにした。
二人が見守る中、一体のリーフウルフがルナリアに迫る。
トモヤの叫びもあり、ルナリアはきちんとそのことに気付いていた。
「ホーリーボール!」
ルナリアは両手を前に伸ばし、神聖魔法を使用した。
眩い光を放つ白色の球体が現れリーフウルフに向かい飛んでいく。
リーフウルフは咄嗟に躱そうとするがもう遅い。
その球体に胴体を打ち抜かれ、その場に倒れていった。
ルナリアの勝利だ。
「よし!」
「がんばったぞ、ルナ」
側に駆け寄ったトモヤとリーネがそう告げると、ルナリアは嬉しそうに頷いた。
「うん、私もたたかえたよ!」
ルナリア本人も先程の戦闘で自信を持てたのだとトモヤは悟った。
今回の迷宮攻略ではルナリアの戦力向上が大きな目的の一つだ。
しかしただステータスを上げても、肝心な時に彼女が自分で戦えるようにならなければ意味はない。
それ故に、実力的に問題のない相手の際はルナリアに戦ってもらおうと思ったのだ。
――――フィーネス大迷宮10階層。
そこが今、トモヤ達がいる場所だった。
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