第27話 瞬殺
リーネの宣言後、冒険者ギルドに集った者達はルガールを正門から出て三十分ほど歩いた草原にいた。
防衛戦に参加するのはDランク18名、Cランク44名、そしてBランク1名だ。
トモヤとリーネはそれぞれCランク、Bランクの人数の中に含まれている。
そんな集団の一列目に、トモヤとリーネの二人が立っていた。
トモヤ達が前衛を務める作戦を否定する者もいたが、クルトの説得によってやむを得ないといった様子で納得していた。
ちなみにルナリアとノームはこの場にいるが、後方待機で戦闘には参加しない。
町に残していたら防壁の制限時間がもたず、むしろ危険かもしれないという理由で彼女達は連れてきた。
「来たぞ!」
冒険者の中の一人がそう叫ぶ。
数百メートル先には粉塵が舞い上がり、さらには爆音と激震がここにまで伝わっていた。
500体にも及ぶ大量の魔物が迫ってくる。
「トモヤ、事前の打ち合わせ通り」
「分かってる」
リーネの言葉に頷き、トモヤは鑑定、千里眼、そして索敵――指定範囲内にいる敵を感知するスキルを発動する。
500体にも及ぶ魔物の中からBランクの敵を12体発見。どれも一軒家レベルの大きさを誇っている。
数は聞いていた話より多いが問題はない。
トモヤとリーネは腰元に携える剣の柄を握る。
そして同時に叫んだ。
「「空斬!」」
――二人による二振りの斬撃は、瞬く間にBランク魔物のほとんどを含んだ約100体を切り裂いた。
普段より高めに振るったため、身体が小さい魔物達が生き残っている。
とはいえトモヤ達による圧倒的な攻撃を目の当たりにし、後ろにいる冒険者たちが一斉に湧き上がる。
「よし、これより全員で迎え撃つぞ!」
その士気をさらに高めるように、リーネはそう叫んだ。
数分後、場は大乱戦になっていた。
魔物と冒険者が入り混じり、誰もが必死に歯を食いしばりながら戦っている。
そんな中でトモヤは自身の戦闘よりも周りのことを気にしていた。先ほど発動したスキルを今もなお駆使して。
なぜトモヤ達が魔物を全て倒さず、このような状況になっているか。
それはリーネの提案によるものだ。
トモヤがその力を存分に振るえば確かにこの場の危機は去るだろう。
だが、他の冒険者たちの実力向上には繋がらない。
もともとこういった魔物大発生とは冒険者たちがさらなる力や名誉を得る場でもあるのだ。
その機会をトモヤ達がすべて奪うのは止めた方がいいとリーネは主張した。
だからと言ってトモヤは、目の前で散る命を見捨てられるほどまだ心が異世界に染まってはいなかった。
そんな二人の主張をぶつけ合った結果、トモヤ達が大きく行動を起こすのは冒険者たちの命が危機に瀕した場合だけということになった。
トモヤ達を除いて勝てる者が一人もいないであろうBランクの魔物は数体を残して討伐、その後も周りの危機的状況を何度も防ぎ続けている。
そんなトモヤ達の尽力もあり、約二十分後、冒険者側には一人も戦死者が出ることなく魔物の殲滅に成功した。
トモヤは一旦スキルを解除し辺りを見渡す。
「よっしゃー! 勝ったぜー!」
「思ってたよりも余裕だったな! 俺たちちょー強いんじゃねぇの!?」
「何言ってんだよ! 最初にあの二人がBランクの魔物をほとんど全部倒してくれたからだろうが! へっ、レッドドラゴンを倒したって噂も嘘じゃねぇみたいだな!」
わいわいと、最初はトモヤ達を否定的に見ていた者達も地べたに座り込みながらそう話していた。
致命傷は負わずとも、誰もが疲労を感じている。けれどもそれを補って余りある程に嬉しそうだった。
「やったな、トモヤ。一番いい形に落とし込めただろう」
「ああ、そうだな」
トモヤとリーネも気分よく腕を軽く当て喜びを露わにする。
そんな二人に駆け寄る二つの影があった。
「トモヤ、すごかったね!」
ルナリアは満面の笑みを浮かべながらトモヤに抱き着いてくる。
それをトモヤは膝を曲げ真正面から受け止めた。
その身に怪我をした様子はない。防壁を纏わせていたのだから当然だ。
というか後方待機しているルナリアの半径100メートルに入った魔物は問答無用でトモヤが切り倒していたのだから傷を負っているわけがなかった。
「……へー」
そんなトモヤとルナリアの微笑ましい姿を、今までルナリアを保護していたノームは静かに見つめていた。何かを考え込むような素振りにも見え、トモヤの意識が割かれる。
「ねえねえ、ちょっといいかな」
そのトモヤの視線に気づいたノームがゆっくりと告げる。
「快勝ムードのところ悪いんだけどね~。まだ全然、終わってなさそうだよ?」
「……なに?」
そのノームの言葉の真意が分かるまで、そう時間はいらなかった。
突如として激しい地鳴りが響き、威圧感がトモヤ達に圧し掛かる。
「何だ!?」
「何が起こってる!?」
その地鳴りの原因もすぐに分かった。
トモヤの約百メートル先の地面がいきなり盛り上がり、中から一匹の魔物が姿を現す。
鑑定自動発動。《グラウンドリザード》――Bランク上位指定。体長3メートル程の巨体に茶色の硬質な鱗を纏った強力なトカゲの魔物だ。
そんな魔物が次々と、地面に穴が開きどんどんと出現する。
既に通常の視界の範囲では留まらない。その数、少なくとも100匹以上――
「さっきの戦闘中に誰かの魔法が地中まで伝わったんだね~。それで地中に暮らすその魔物達が怒っちゃったんだよ。私には分かるよ! 地の精霊だしね!」
なぜかハイテンションなノームの言葉に応える者はいなかった。
既に現場は阿鼻叫喚に包まれている。
普段はめったに姿を現すことのないグラウンドリザード。その代わり、もしその姿を見れば生き残ることなどほとんど不可能だ。
常に群れで行動し、鱗は竜種に匹敵するほどに頑丈。
数は先程よりも少ないが、危険度は間違いなく現在の方が高い。
そんな危機的状況に、この場にいる誰もが絶望的な表情を浮かべる――
「リーネ、やっちゃっていいか」
「今回ばかりは仕方ないだろう。やってしまえ」
「やっちゃえトモヤ!」
――そんな中、その三名だけは通常運行だった。
リーネの許可をもらったトモヤはスキル・水魔法――派生・氷魔法Lv∞を発動。
指定範囲固定。前方に一辺300メートルの立方体を意識。
圧倒的に凝縮された一撃を放つ――呪文名は、自然と頭の中に浮かんだ。
「イスベルグ」
魔物の悲鳴はなかった。
魔法名を唱えた瞬間、トモヤが指定した範囲に巨大な氷山が発生した。
その氷山が放つ絶対零度が周囲の温度を急激に下げ、肝心のグラウンドリザードに関しては一匹残らず氷山によってその身を砕かれていた。
完膚なきまでの完全勝利、一言で述べれば瞬殺だった。
「「「え、えぇー!」」」
その現実離れした光景に、他の冒険者たち目を大きく見開き間抜けな顔を浮かべているのだった。
こうして、ルガール防衛戦は一人として死者を出すことなく決着するのだった。
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