第6話 冒険者ギルド
ルガールの南区には冒険者街が広がっている。冒険者ギルドや宿屋、さらには武具やマジックアイテムを売る露店などが立ち並んでいるのだ。
いかにも冒険者らしいといった風貌の者が多く、その中で、エルニアーチ家で簡単に仕立ててもらった立派な服を着たトモヤとシンシアは少しだけ浮いていた。
だが、トモヤはともかくシンシアは自分に寄せられる人々の視線も気にせず、目を輝かせながら辺りを見回していた。
「私、南区のこんな深いところまで足を踏み入れるのは初めてです。すごくドキドキしています!」
「ん、そうなのか? それなのによく案内に付いてきてくれたな……いや、だからこそ付いてきたのか」
「はい! 普段はお父様から許可が出ることはないのですが、今日はトモヤさんと一緒なので特別に町の中なら出かけていいと言ってくれました。ですのでもしトモヤさんが依頼を受けるならそれに付いていくことは出来ませんが……」
「いや、今日は登録と様子見が目的だからその心配はない」
「そうですか、ならよかったです」
にこにこと笑いながら嬉しそうにするシンシアを見て、トモヤも気分が良くなってくる。
二人はそのまま会話を楽しみながら歩みを進め、とうとう冒険者ギルドの前に辿り着いた。
想像以上に大きな建物に目を見張るが、気を取り直し中に入る。
受付所、酒場、ちょっとした道具の売り場などが中に広がっていた。鎧に身を包む者やローブを被った者達が数多くいる。この全員が冒険者なのだと考えたら不思議な気持ちが湧いてくる。
他の場所に興味は持ちつつも、とりあえず今日は受付所に行くことにする。
運よく現在は並んでいる冒険者の数が少なかったため、あっさりと一番前まで進むことができた。
「お二人はこのギルドは初めてですか? 私は受付のエイラと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
亜麻色の長髪に可愛らしい容姿をした女性が、トモヤとシンシアににっこりと微笑みかける。冒険者全員の顔を覚えているのだろうかと驚きながらも、トモヤは口を開く。
「冒険者登録をしに来ました。あと登録するのは俺だけです」
「畏まりました。ではまず当ギルドについていくつか説明させていただきます」
エイラから語られたのは以下のような内容だった。
冒険者にはランクがあり、F、E、D、C、B、A、Sと分かれており、Sに近づくほど強く、素材買取価格の上昇などの様々な特権が与えられる。同時に、様々な責務も生じる。たとえばBランク以上の冒険者には国や貴族からの指名依頼がくることがあるが、原則断ることは出来ない。
数人でパーティを組むことも出来るが、その際はリーダーのランクの上下1つ以内の者しか加入することは出来ない。
パーティランクは基本的にリーダーのランクとなる。
複数のパーティがクランとなって依頼を受けることも出来る。
原則として、個人であれパーティであれランクの上下1つ以内の依頼までしか受けることはできない。
「基本的に覚えておくべき事項は以上になります。細かな点についてはそちらの書類に書かれているのでお読みください。了承するならこちらの書類にサインをお願いします」
トモヤは渡された書類を眺めるも、特に尋ねるべきことは書かれていないため、エイラの指示に従いサインをする。
「では、そちらに書かれてある通り登録料として銀貨五枚を頂きます。あとこの場でステータスカードをお作りになるのでしたら更に金貨二枚を頂きます」
「既にステータスカードは持ってるんですが……」
「なら、銀貨五枚だけで構いません。それとステータスを表示した状態でカードを見せてくれますか?」
「はい」
頷き、トモヤは異空庫からステータスカードを取り出す。そして指示通り、ステータスを表示するためにステータスオープンと唱える。そこに書かれているのは相変わらず∞の記号ばかり。そこでふと気付いた。
(あれ? もしかしてまた00と見間違えたりするんじゃ?)
そうなってしまえば面倒なことになる。対処法を考えた結果、トモヤは隠蔽のスキルを使用することにした。都合の悪いものは隠したいなーと思った時に生じたスキルである。
(確か、レベル1ではステータスは10程度が普通だったよな? で、スキルレベルが1。けどレベル1を名乗るには隣のシンシアは信じないだろうし……そうだ!)
考えがまとまり、それをステータスカードに反映させた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
トモヤ・ユメサキ 17歳 男 レベル:20
職業:剣士
攻撃:200
防御:200
敏捷:200
魔力:200
魔攻:200
魔防:200
スキル:火魔法Lv2 水魔法Lv2 治癒魔法Lv2 剣術Lv2 異空庫Lv2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
隠蔽を施した結果だ。
レベル1でステータスが10なら、レベル20では純粋に20倍。
職業は適当に、さすがに剣士という職業がないということはないだろうという考えによるものである。スキルはトモヤが普段から隠さず使いたいものを総じてLv2としておいた。
「えっと、こんな感じなんですけど」
「確かに受け取りました。確認するので、少々お待ちくだえぇっ!?」
最後まで言い切るより早く、エイラは驚きの声をあげる。トモヤはその様子を見て何か失敗したのかと焦り、エイラの呟きに耳を傾ける。
「レベルに対してステータスが低い……なのにスキルレベルは普通ですね異空庫ぉ!?」
また叫んでいた。
「あ、あの、トモヤさん、この受付の方はどうしたんでしょうか?」
「さ、さあ何だろうな。ところでシンシア、レベル20の時の平均ステータスってどのくらいか知ってるか?」
「レベル20ですか? 普通の方だと、レベルが上がるたびにその時のレベルの10倍程ステータスが上がるので、おそらく1000前後、優れた方だと2000や3000程度だと思います」
「……へー」
つまり、レベル1から2に上がれば20、レベル9から10に上がれば100増えるというのがこの世界の常識だったのだが、トモヤはそれを知らなかった。
どうやら猛烈に失敗していたようだと、トモヤは反省した。
これならきちんとシンシアに話を聞いてから隠蔽を使用するべきだった。
そんなことを考えているうちに用は済んだようで、エイラはステータスカードをトモヤに返す。すると名前と職業の間に新しく、ギルドランク:Cという行が加えられていた。
「正直に申し上げますと、ステータス自体は心許ないですが、異空庫のスキルを持っている方はパーティ内で非常に重宝されますのでCランクで登録させていただくようになっています。ですので、ユメサキさんはCランクとなります」
その言葉に反応したのは、トモヤではなくシンシアだった。
「Cランク!? ステータスが心許ない!? そんなわけありません! だってトモヤさんはキンググレイウルフを一撃で倒すほどの実力者なんですよ!? 何かの間違えじゃないんですか!?」
「キンググレイウルフを一撃で!? いえ、それはさすがに信じられないと申しますか、失礼ですがこのステータスでは不可能だと思います」
「そんな……」
信じられないといった表情で、シンシアはトモヤを見つめる。トモヤがどう誤魔化そうと考えているところに割り入ってきたのは、シンシアでもエイラでもない別の人物だった。
「そのステータスでキンググレイウルフを一撃、か。にわかには信じがたい話だが、貴女の言葉から嘘は感じられないな。うん、非常に興味深い」
それは透き通った美しい女性の声だった。
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