第2話 ステータスお試し



 ◇◆◇



 あれから数時間後、トモヤはほんの少しの金銭と食料、野営用の道具が入っている袋を背負い王都の南門の前に立っていた。


 付き添いに来ていた王城の使用人は、ここから二週間ほど歩いた先に冒険者の町、《ルガール》があるからそこを目指せばいいと言っていた。

 だが、そもそも食料は二週間分もないし、途中には魔物も出てくるらしい。殺す気満々だ。


 ただ、魔物は出ると言ってもルガールまでは街道が通っている。道に迷うこと自体はないだろう。周りの草原を眺めながら暫く歩き、王都からある程度離れた場所になったのを確認すると、トモヤはステータスカードを取り出した。


「ステータスオープン」


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 夢前智也 17歳 男 レベル:∞

 職業:インフィニティ使い

 攻撃:∞

 防御:∞

 敏捷:∞

 魔力:∞

 魔攻:∞

 魔防:∞

 スキル:オール∞


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 そこに記されていたのは先程と全く変わらない文字と数字だった。

 その内容が真実であるかどうか、一つ一つを確かめることにしようと決意する。

 まずは攻撃だ。


「えっと、どうすればいいんだ?」


 街道から少し脇に逸れ、普通に地面を押してみる。

 別にそれだけ大穴が生まれる訳でもなく、小さく凹むだけ。

 攻撃力が増している気はしない。

 トモヤはさらに頭を悩ませる。

 もっとステータスについて詳しい話を聞いておくべきだったと。


「まさか、本当に∞じゃなく00だなんてオチはないだろうな?」


 少なくない焦燥感を感じながらも、トモヤは解決策をひたすら考え実行する。

 ステータスカードの攻撃という文字に触れたとき、その変化は訪れた。


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 鑑定Lv∞を発動します。

 攻撃――任意発動。有機物、無機物に関わらず、物質に対する攻撃力を高める。発動者の意識によって攻撃力を自在に操作可能。


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「おおっ、なんか現れたぞ!」


 トモヤはステータスカードに現れた文字を一言一句丁寧に読み進めていく。

 任意発動・発動者の意識――それらの部分を読み納得する。


「なるほど、つまり俺の意識がそのまま攻撃力に伝わるわけか。確かにさっきは大してイメージしてなかったしな」


 となると、即行動に移すべきだ。

 トモヤはそう決断し、もう一度地面に向き合う。

 馬鹿げた威力は必要ない。自分一人では不可能なレベルの攻撃を放てればそれだけでいい。


「せいっ!」


 とりあえず普段の数十倍の力で。そう意識しながら放たれたトモヤの拳は爆音を鳴らし、地面に直径五十センチほどの穴を開けた。天変地異とはいかずとも、確かにステータスの数字が証明された瞬間だった。

 その結果に驚きつつも、トモヤは攻撃以外の項目も次々と見ていく。


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 鑑定Lv∞を発動します。

 防御――恒常発動・任意解除。有機物、無機物に関わらず、物質に対する防御力を高める。普段は最大限にまで防御力は高められているが、発動者の意識によって自在に操作可能。

 敏捷――任意発動。発動者の行動速度を上昇させる。発動者の意識によって自在に操作可能。

 魔力――恒常発動。発動者の総魔力量と、魔力の回復速度を指す。

 魔攻――任意発動。魔力を用いた攻撃の力を高める。発動者の意識によって攻撃力を自在に操作可能。

 魔防――恒常発動・任意解除・魔力を用いた攻撃に対する防御力を高める。普段は最大限にまで防御力は高められているが、発動者の意識によって自在に操作可能。


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「ふむふむ。つまり常に発動していたら困る奴は任意発動で、そうじゃないやつは恒常発動ってことだな」


 攻撃力が普段から高ければ日常の力加減が大変だし、防御力が常に高くなければ不意打ちされた時に一大事なため納得できる。


「さて、問題は残る二つか」


 トモヤはステータスカードに視線を落とす。

 残る項目は職業とスキルの二つ。

 職業の∞使いに触れるも何も反応はなかったため、スキルの方をタッチする。


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 鑑定Lv∞を発動します。

 オール∞――ミューテーションスキル。この世界に現存するノーマルスキルを全てLv∞の状態で使用できる。


 備考

 ノーマルスキル――世界中に二人以上使い手がいるスキル。対照的なものとしてミューテーションスキルが存在する。

 ミューテーションスキル――世界に一人しか使い手がいないスキル。別名ユニークスキル。


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「な、強っ!」


 トモヤはその説明を読みこれまでで一番大きな声をあげる。

 初めてオール∞の文字を見た時、トモヤはてっきりそれがステータスの値を全て∞にするスキルだと思い込んでいたのだ。想像を遥かに超える力に衝撃を受ける。

 思えば、先程からステータスの説明を見るときに鑑定Lv∞という文字が現れていた。これもまたノーマルスキルの一つであるということをトモヤは理解した。


「これはステータスもスキルも、思ってた以上に強いんじゃないか?」


 湧き上がる興奮を抑えながらも、嬉しさを隠しきれないといった様子でトモヤはそう呟いた。



 それからトモヤはスキルについて色々なことを試した。

 ノーマルスキルを全て使用可能と言われても、そもそもトモヤはノーマルスキルにどんなものがあるのかを知らない。

 それをどのようにして使えるのか、それを試したのだ。


 その上で分かった傾向が二つある。

 一つは、名前の知っているスキルなら使用可能ということ。――ユウ達のステータスカードに書かれていたスキル名を脳裏に浮かべると、それがステータスカードに現れたのだ。

 もう一つが、必要な力を求めればそれに該当したスキルが現れるということ。先ほどの鑑定に加え、創造、隠蔽、異空庫などのスキルが二つ目の手段によってステータスカードに現れた。


 やはり思っていた通り、トモヤに与えられた力は相当に強力なものらしい。

 それを理解しトモヤは頬を緩ませるのだった。



 ――余談だが、念のために異世界と行き来するスキルはないかと探してみたが、該当するノーマルスキルはなかった。

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