ステータス・オール∞の異世界放浪記 ~ステータスの『∞』を『00』と見間違えられた結果、無能はいらないと言われ追放されました。本当は最強の力をもらったので、自由気ままに異世界を楽しみます!~

八又ナガト

第一章 導入編

第1話 ステータス・オール∞

 視界を覆う眩い光が収まっていくのを感じ、夢前ゆめさき智也ともやはゆっくりと目を開いた。


 途端、トモヤの視界に映るのは豪奢な装飾が施された宮殿の一室というべき部屋だった。

 周りを見渡すと、トモヤ以外に何人もの姿が確認できる。

 純白のドレスに身を包む金髪の女性、その女性を取り囲む高貴な服装の男性たち。そしてさらにはトモヤと同じ学生服を着た四人の男女がいた。


(何が起きたんだ……?)


 トモヤは先程まで高校の放課後に教室で寝ていたはずなのに気が付けばここにいた。何が起きたのか全く理解できていなかった。


「どこだここは! お前達は何者だ!」


 そんなトモヤの横で、茶髪で整った容姿を持つ男子学生――九重ここのえゆうがそう叫ぶ。

 トモヤのクラスメイトで、眉目秀麗、学業優秀、運動神経抜群という三拍子を揃えたクラス中の人気者だった。

 今ではそんな彼の取り巻きとなっている三人の少女達も、ユウと同じような抗議を口にしていた。


「静粛に!」


 ドンッ! と、金髪の女性の隣にいた男が錫杖を地面に叩き付ける。

 静まり返る優たちを見ると、男は女性の方を向き頷く。


「動揺させてしまって申し訳ありません。わたくしはフレアロード王国第二王女、レイナ・フォン・フレアロードです。これから、事情を話させていただきます」


(ああ……なんだか、察した)


 普段からネット小説などをよく読むトモヤはこの後の展開がなんとなく予想できた気がしたが、ひとまずここではレイナの話を聞くことにした。


 いまトモヤたちがいるのは、世界アルフィス。その中でも人族が多く暮らす東大陸ミアレルドの中にある《フレアロード王国》だ。

 近年、中央大陸フランリッデに暮らす魔族がミアレルドに攻め込んでくることが多く、人々は非常に困っている。よって東大陸の大国であるフレアロード王国が魔族の王である魔王を倒すため、異世界から勇者を召喚したらしい。


 予想通りの使い古された展開に、トモヤは心の中でやれやれと零した。

 小難しい固有名詞を覚えるのも今度でいいと、長年の経験から直感する。


「なるほど、そんな理由が。だから僕達が呼び出されたんですね」


「世界を救う勇者に選ばれるなんて、やっぱり優はすごいわね!」


「うん、さすが」


「私の見る目があったというわけね~」


 茶髪元気系、柳結衣やなぎゆい

 黒髪ロングクール系、船橋理子ふなばしりこ

 黒髪ショート不思議系、佐倉美穂さくらみほがユウに賛同する。

 なぜかあっさりとその説明を受け入れた四人だが、それに気を良くしたようにレイナは頷く。


「それで、今後の話についてなのですが――」

「入るぞ」


 言葉の途中に割り込んできた声とともに、部屋の扉が開かれる。そこには精悍な顔立ちに白い髭を携え、豪華なマントを着た一人の男性がいた。

 トモヤ達を除いた全員が一斉に頭を低くする。

 その男性はトモヤ達を一瞥し、うむと頷いた。


「よい者達が揃ったようだな。我が名はフレッド・フォン・フレアロード。この国の王である。皆のもの、顔をあげい」


 全員が顔をあげるのを見届け言葉を続ける。


「今後の話は我自らが執り行おう。汝らにはこれから特訓を行い、いずれ魔王を倒してもらう」


「その……お言葉なんですが、一応の事情は分かりましたが、それでも僕達に魔王という者と戦う力はあるんでしょうか? それに元の世界に戻れる方法があるかどうかも知りたくて――」


「うむ、まずは後者から答えよう。汝らが帰還する方法はある――が、それは今はこの国に無き禁術。魔王城の最奥に隠されていると聞く。故に、帰還するためには魔王を倒すことは絶対条件である」


「なっ……」


 フレッドの言葉に呆然とする優一同。

 それを見てもフレッドは動じない。

 ちなみに、トモヤは心の中でやっぱり……と呟いていた。


「案ずるな。汝らにはそれを可能にする力がある。おい、ステータスカードを全員に渡せ」


 指示をされるまま、フレッドの後ろに控えていた執事服を着た男性がトモヤたちにカードを渡す。クレジットカードよりは大きく、ハガキよりは小さいといった程度だ。


「それに魔力を……いや、強く念じながらステータスオープンと唱えてみよ」


 その言葉に従う。


「「「「「ステータスオープン」」」」」


 五人が唱えるところを見て、フレッドは満足そうに告げる。


「そこに書かれているのが神より与えられた汝らのステータスだ。通常はレベル1の時のステータスが10程度、スキルレベルが1。共に50と2を超えれば天才といえるだろう。汝らはどうか?」

「っ、すごいです!」


 フレッドの言葉を聞き、興奮したようにユウはステータスカードを前に差し伸べ、全員が見られるようにする。


「なっ、これは……!」


 それを見た全員が息を呑み込んだ。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 九重優 17歳 男 レベル:1

 職業:勇者

 攻撃:300

 防御:300

 敏捷:300

 魔力:300

 魔攻:300

 魔防:300

 スキル:言語理解・全属性魔法Lv4・剣術Lv4・魔力操作Lv4・魔力回復Lv4・自動治癒Lv4・神器適性Lv1・英雄化Lv1


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「レベル1でこれほどの能力だと!? ありえん!」


 そのステータスはこの世界にとって常識を遥かに覆すものであり、誰もがユウの実力に歓声をあげた。


「私のはどうですか!?」


「……私のも、見て」


「これはなかなかだと思うんだけど~」


「ッ、これも素晴らしい!」


 他の三人のステータスもユウほどではないが圧倒的な数値が表れており、さらに盛り上がりをみせる。


 そんな人たちのそばで、たった一人冷静さを保っている者がいた。

 トモヤが自分のステータスカードを見て、そこに書かれている内容に集中していたからだ。


(えっと……なんだ、これ?)


 そこには、こんなふうに書かれていた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 夢前智也 17歳 男 レベル:∞

 職業:インフィニティ使い

 攻撃:∞

 防御:∞

 敏捷:∞

 魔力:∞

 魔攻:∞

 魔防:∞

 スキル:オール∞


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(いや、マジで何だこれ!?)


 書かれてあったのは、全てのステータスにおいて∞の文字。

 スキルに関しては何を意味しているのかすら分からない。

 トモヤはこれを文字通りに受け入れていいのかと思案していた。


「おい夢前、君はどうだったんだ」


 その思案顔を見てステータスが悪いのではないかと思ったのか、ユウは少し得意げな表情でトモヤに声を掛けた。

 クラスの中心にいるユウと、遅刻は当たり前、授業は全部睡眠時間(毎日趣味で徹夜しているため)のトモヤは非常に仲が悪いのだ。


「いや、それは……」


 多少の苛立ちを感じながらも、トモヤはそもそもこのステータスを見せるべきか苦悩する。


「うむ、残るは汝だけだ。見せてもらうぞ」


「え、あっ……」


 そんなトモヤの意思とは裏腹に、フレッドはトモヤの手からステータスカードを掠め取っていく。


「なっ、なんだこれは!」


 フレッドは、ユウのステータスを見た時以上の大声を出す。

 馬鹿げたステータスに気付かれてしまったと、トモヤは心の中で小さく溜め息をついたのだが。


「ステータスが全て00だと!? 神から何の力も与えられてないではないか! こんな者を我が国の勇者として認める訳にはいかん!」


「……ん?」


 想像もしていなかった、非難にも似た反応にトモヤは眉をあげる。

 ステータスが00だという反応には納得がいかなかった。トモヤのステータスカードには確かに∞と書かれているのだから…………


(っ! まさか、∞を00と見間違えたのか!?)


 この世界には∞という概念が、いや概念はともかくとしてそれを表す記号がないから∞を00と見間違えたのではないか?

 トモヤはそう予想を立てた。


 そのトモヤの予想は実際に正しく、フレッドはトモヤのステータスは全て00、つまり何の力も付与されていないと勘違いしたのである。


 この世界のステータスとは、もともと人が持っている基本的な能力とは別の、神によって上乗せされた分の力が表示される。

 その力が0ということはつまり、その者は神にとって価値のない不必要な存在であるという証明でもあるのだ。


「ふっ、なんだ夢前、君のステータスはそんなに弱いのか」


 フレッドが手に持つステータスを見れば今すぐにでも驚愕を顔に張り付けるであろうユウだが、彼はフレッドの反応を信じ込み、疑うことなくトモヤに嘲笑の視線を向けた。

 その視線に対し、トモヤは超絶に冷めた視線を返すしかなかった。


(いやいやいやいや、多分お前のステータスよりよっぽど強いと思うんだけど)


 それを素直に告げようと思うも、トモヤはいやと思い直す。

 どうやら自分のステータスはこの国にとって望まれていないらしい。

 トモヤとしても、身勝手に異世界から勇者を呼び出して、しかも帰還する手段を持っていない奴らに従ってやるメリットはない。


「貴様は我が国の勇者でない! 今すぐ王都から出て二度とここに姿を現すな!」


「あっ、はい」


 よってトモヤは、フレッドのその申し出を迷うことなく受け入れた。

 元々、異世界物を好んで読んできたトモヤにとって、この状況は望むべきものであれど嫌がるものではなかった。


(すぐにでも日本に戻りたいわけでもないしな。こんなに強いステータスもあるわけだし、異世界をじっくり楽しむとするか!)


 こうしてトモヤはその最強のステータスと共に、異世界で自由気ままに過ごすことを決意したのだった。

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