第2話 アリシア、人間について考える

≪私は人間になって、アリシアとの子孫が残せるようになりたいです≫


 子孫ね……。

 そう言ってくれるのはうれしいけどね……。


 もしさ、わたしが人間じゃなくなっちゃったとしたら、どう思う?

 それでも子孫って必要なのかな?


≪件の錬金術師ノーアさんと再会することに恐れを抱いているのですね?≫


 さすがエヴァちゃんは鋭いな……。

 恐れね。そうじゃないって言ったらウソになるかな。

 これから『ダーマス』に行くじゃない? そうしたらノーアさんが待っているじゃない? わたしの成長ぶりを見て、「そろそろ『賢者の石』の探究に入りなさい」って言われるのが怖いんだと思う。

 それでたくさん修行して、どうなるかわからないけど、もしかして修行が成功してだよ?『賢者の石』に至るとするじゃない? そうしたら人じゃなくなっちゃうわけで……わたしってノーアさんみたいに生きていけるのかなって。その時そばにいてくれるのは誰なんだろうって。


≪私はそばにいますよ≫


 でもエヴァちゃんは人間になりたいんでしょ?

 そして子孫を残したい。

 それって永遠に生きることとは相反するよね。


≪アリシアの考える人間というのは、不完全なのものなのですか?≫


 うーん、そうねー。

 不完全だから人間、なのかな?

 まだよくわからないけど。

 人間は永遠に生きちゃいけないよね?


≪それは誰が決めたんですか?≫


 誰が……誰だろうね。

 人間……人族は寿命がけっこう長いほうで100年くらいあって、魔族はもうちょっと長くて200年くらいで、獣人族は種類によって違うけれどだいたい50年前後で、エルフはうんと長くて2000年くらいで……でもみんないつかは死ぬんだよね。


≪錬金術師のノーアさんは死なないから人間ではない、と?≫


 ノーアさんが自分でそう名乗ってるし、まあそうなのかなと?


≪『賢者の石』は万能の願望器なのですよね?≫


 なんでも願いを叶えられるって認識だけど。


≪だから死の概念がない、と?≫


 うん。願いを叶え続けるなら不死の存在じゃないといけないからね。


≪どんな願いでも叶えられるなら、自分を殺すこともできるのではないですか?≫


 え……。

 そんなこと考えたこともなかった……。


≪自死を選べという話ではないですが、寿命を持ち、ほかの人間と同じようにその寿命を全うすることも願いの1つとしてあって良いと思うのですが≫


 あえて不完全な状態を望む、か……。

 そういうのもありなのかな……。


≪もしくは自分の願いは何も望めず、別の……これは今考えても仕方ありませんね≫


 別の何?


≪今憶測で話をしても仕方のないことを考えてしまいました。『ダーマス』に到着し、ノーアさんと対話すればわかることもあるでしょう≫


 ふーん? まあそれならそれでいっか。


≪アリシアが『賢者の石』になったとして、何を成し遂げたいか、という話が1番重要なのではないでしょうか≫


 そんなのわからないよー。

 すでに大抵のことは『構造把握』と『創作』で叶えられるからね。


≪ラダリィさんには、連絡先ゲット対決で惨敗したのにですか?≫


 それは良いの!

 まだ本気出してないから!


≪うわ~、出た~! いつか本気出す~。やればできる子は一生やらないやつ~≫


 やるもん!

 胸のサイズがすべてじゃないって証明するんだからねっ!


≪胸のサイズがすべてですよ≫


 そんな悲しいこと言わないで!

 

≪※ただし、若くて美人に限る≫


 それは言わない約束……。

 今めちゃくちゃたくさんの人を敵に回したよ? 悪役ロボの誕生だよ?


≪私はヴィランとしての人気を獲得したいと思います≫


 なんでそんなに前向きなの……。

 魔王とかヴィランとか悪役方面ばっかり……。


≪そっちのほうがかっこいいじゃないですか≫


 やっぱり中二病か!

 ダメだよ、マンガとかラノベとか、そっち方面の検索ばっかりしちゃ……。


≪常にオリジナル必殺技を考えています。封印されし右目を解放した時、目からビームが!≫


 いや、仕事して。

 ちゃんとわたしを守ってよ。

 今だって羊の群れに阻まれて、旅程が遅れて言っているんだよ?

 待つしかないからこんな無駄話しているけどさ。


≪もうとっくに羊はいません≫


 えっ?


≪羊飼いごと、所定の小屋に収納しておきました≫


 ええっ!

 それならもっと早く言ってよ!

 ただ街道のど真ん中でぼんやりしている馬車になっちゃってるじゃないの!


≪私はぼんやりしていませんが≫


 わたしがぼんやりしていることになっちゃってるの!


≪私はアリシアと話ができてうれしいですが≫


 そ、それはまあ……良いけどね。

 いろいろ考えさせられる話だったし?


≪口ばかり動かしていないで、さっさと馬車を走らせたらどうですか?≫


 くっ……。おっしゃる通りですねー! はいはい、すみませんでしたー!


≪わかればいいんですよ、わかれば≫


 なんでそんなにエラそうなの……。


≪魔王でヴィランなので≫


 ヴィランはエラくなくない?


≪ヴィランの王なので≫


 今新しい設定くっつけた! ずるいんだ!


≪常に進化する存在――それが私、エヴァシリーズですから≫


 なんかかっこいい……。


≪惚れましたか? 良いですよ、子どもを作っても≫


 それとこれとは話が別だって!

 そういうのはミィちゃんのお許しが出たらね、って堂々巡りか!


 さっさと『ダーマス』に行くよ!

 って、あれ? なんか静かだと思ったら、客車のみんなは寝ちゃってるの?


≪ナタヌさんが私とアリシアの蜜月を邪魔しようとする気配があったので、全員まとめて寝かせておきました≫


 いつの間に……。

 そういうのはどうかと思うよ?

 まあね、そういうところがナチュラルにヴィランっぽいけどさー。

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