アリシアと謎の国 編

第1話 アリシア、グレンダンを出発していきなりトラブルに巻き込まれる?

「えー、なにこれー⁉ めっちゃいっぱいいる!」


 名残惜しくも『グレンダン』の街を出発して、いよいよ最終目的地の『ダーマス』へ向けて馬車でGO!


 と思ったんだけど……早くもトラブルです。


「この大渋滞はどういうことなの……」


 街道を埋め尽くしているのは、なんと羊の群れ!

 それも超大群だよ!

 100匹や200匹程度じゃないよ。地平線のほうまでずっと羊の群れが続いている!


 魔物じゃないから、焼き払って排除ってわけにはいかないよね……。


≪羊がかわいそうです≫


 そうですよねー。

 誰かが飼っているんだろうし、さすがのわたしでも勝手に焼いたりはしないって。賠償金請求されたくないもん。


≪羊がかわいそうです≫


 そうですね!

 お金のことよりも羊がかわいそう!

 って、エヴァちゃんは羊に何か思い入れでもあるの?


≪白くてふわふわしていて……私は羊になりたい≫


 そんな願望が? 初めて聞いたわ。

 そんなに羊になりたいなら、別に羊ロボになってもいいよ。


≪アリシアに食べられたくないので大丈夫です≫


 いや……羊肉は食べたいけど、ロボは食べないって……。

 って、この状況を何とかしなきゃ。

 このままだと予定よりもだいぶ到着が遅れちゃう。


「アリシアさん、どうかしましたか?」


 ナタヌが客車と御者席の連絡窓をノックしてくる。

 どうやらトラブルに巻き込まれたことに気づいたみたい。


「んー、みんなちょっと外を見てよ。羊の大渋滞で先に進めないよー」


「なるほど、蹴散らしますか?」


 ナタヌは隅に立てかけてあった大きな杖を手にした。


「いやいや、誰かの飼っている羊だろうから、蹴散らしちゃダメだよ……」


 ナタヌはすっかり脳筋キャラに育ってしまった……。

 プリーストなのに。


≪原因特定できました≫


 優秀な索敵システムからの報告だ。


「お? さっすがー。それで何が起きてるの?」


≪この先30kmほど行ったところが羊の群れの先頭です≫


 え、羊って30kmも渋滞するの⁉

 いったい何匹いるのさ。


≪その先頭に羊飼いがいまして……どうやら昼寝をしているようです≫


 まさかの昼寝!

 ちょっと起こしてよ。


≪わかりました。髪の毛に火をつけて起こします≫


 もうちょっと穏便なやり方で……。


≪アリシアが怒っているので、その怒りを表現してみましたが≫


 怒ってないって……。

 ちょっと困っているだけだからさ。

 変な忖度しないでほしいんだけど……。


≪暴君幼女の怒りを表現するのに髪を燃やすくらいでは生温かったですね。失礼しました。ただちに消し炭にします≫


 まったく理解できていない……。

 

≪羊飼い、消滅しました≫


 ええっ、ちょっとちょっと何してるのさ⁉

 人を灰にしたら絶対ダメだよ⁉


≪心の中で≫


 ……ふざけてるの?


≪仕方ないので殴って起こしました。首が折れましたが、些末なことです≫


 首はダメだって……すぐに治して。


≪ウソです≫


 お前の首を折ってやろうか!


≪お前を蝋人形にしてやろうか!≫


 それ、前世の記憶にあったやつ!

 あっちの世界には本物の魔王が存在していたのよねー。なんでこの世界には魔王がいないんだろうね。わたしも魔王のことを蝋人形にしてみたいなー。そうしたら世界を救った英雄ってことで勇者になれる?


≪スローライフはどうしたんですか?≫


 勇者は勇者よ!

 かっこいいじゃない?

 それに名乗らなければ有名になることはないでしょう?


≪勇者は別腹のように言われても理解できません……。有名になって寄ってくる若者たちを捕って喰らってハーレムを作ればいいじゃないですか≫


 権力にモノを言わせるのはちょっと……。

 やっぱり本物の愛がほしい……。


≪本物の愛……検索結果にヒットしませんでした≫


 自力で探すの!


≪スレッドリー殿下とナタヌさんは違うのですか?≫


 2人のことは……好きよ?

 

≪今の言葉には迷いが感じられます。なぜ迷っているのですか?≫


 本物か、って言われるとね……。

 2人はどこまでわたしについてきてくれるのかなって……。


≪この完璧なる演算装置エヴァによると、お2人はどこまでもアリシアに付き従う可能性が高いと出ていますが≫


 どこまでも、か……。

 それって苦痛じゃないのかなーって。


≪それはお2人に直接尋ねられたらいかがですか? ちなみに私はどこまでもお供しますし、苦痛もありません。ロボなので≫


 ありがとう。

 ミィちゃんのお許しが出たら、いつか人間にしてあげるからね。

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